同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五四七話】 『試作品、到着──20枚の美少女が俺を待っていた』

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 ピンポーン──

 玄関のチャイムが鳴った。

「真壁弘弥様、荷物のお届けでーす!」

 インターホン越しに響く声。

(ん……?)

 弘弥は寝ぼけ眼で立ち上がり、ドアを開けた。

 そこに立っていたのは、宅配業者の青年──そしてその背後に、山のように積まれた段ボール箱だった。

「多っ!!」

 思わず叫んでしまった。

 業者さんはにこにこしている。

「こちら、出版社様からのお届け物ですね!受領印、お願いしまーす!」

 訳もわからないままサインし、次々に家の中へ運び込まれる段ボール。

 その数、ざっと二十箱以上。

(えっ、俺、なにか通販で爆買いしたっけ……?)

 思考が追いつかない。

 ◆

 数十分後──

 ダイニングルームの床は、
 段ボールで埋め尽くされていた。

 弘弥は、途方に暮れながら、
 とりあえず一番上の箱を開封してみた。

 ──ぱさり。

 中から現れたのは、
 ビニール袋に丁寧に包まれた、大判の布。

(……なんだ、これ。)

 引っ張り出して広げると──

 そこには、
 弘弥の書いたライトノベル作品のヒロインたちが、
 美麗なイラストでプリントされていた。

 ポーズをとる幼なじみ。
 微笑むツンデレお嬢様。
 恥ずかしそうに視線を逸らす後輩少女──

「……抱き枕カバー……か……」

 ようやく理解が追いついた。

 そうだ。

 数ヶ月前、担当編集の久遠美月に言われていた。

「アニメ化記念に、グッズ展開するからね!」
「試作品できたら真壁くんのところに送るから、チェックお願いね!」

 まさかこんな、
 本当に物理攻撃レベルで来るとは思ってなかったが。

 ◆

 弘弥は、ため息をつきながら、
 一つ一つビニール袋を開封していった。

(……これ、全部チェックすんのか……)

 素材の感触。
 プリントの発色。
 縫製の丁寧さ。
 裏地の滑らかさ。

 ファンに届ける商品に手抜きはできない。

 真剣に、プロの目で確認しなければ──

「──つまり、使って寝るしかないな。」

 誰に聞かせるでもなく、
 小さく宣言した。

 ◆

 夜。

 弘弥の寝室。

 そこには、
 ベッドをぐるりと囲むようにして、
 抱き枕カバーたちが整列していた。

(……すごい圧だ……)

 美少女。
 美少女。
 また美少女。

 どこを見ても、甘い笑顔や恥じらう表情が視界に飛び込んでくる。

「よ、よし……まずは材質チェックだ。」

 震える手で、
 一枚の抱き枕をそっと手に取る。

 ──すべすべ。

 滑らかな手触りに、思わず指先がとろけそうになる。

(……これ、マジで最高級の生地使ってる……!)

 頬ずりしてみる。
 反発力も弾力もちょうどいい。

 さらに──

「……くっ、絵柄が……反則すぎる……」

 ほんのり上目遣いのヒロインに、
 自然と頬が緩んでしまう。

(ダメだ、これは甘やかされる……!)

 ◆

 ひとしきり手触りとプリントのチェックを終えたあと。

 弘弥は、
 一番感触がよかった一枚を選び、
 そっとベッドに持ち込んだ。

(仕事だ……これは、あくまで仕事……)

 自分に言い聞かせながら、
 布団に潜り込む。

 そして──

 ぎゅっ。

 抱きしめた。

 ……ふかふか。
 すべすべ。
 あたたかい。

(……あぁ……)

 思わず、
 全身の力が抜けた。

(これ……最高だ……)

 ◆

「……兄。」

 ドアの向こうから、微かな声が聞こえた。

 弘弥は、寝ぼけながらうっすら反応する。

「ん……なに……」

「兄、抱き枕と……そんな顔で……」

(……あれ……?)

 うっすら開いた目に映ったのは、
 扉の隙間から覗く、碧純たちの顔。

 碧純。
 ルナ。
 すみれ。
 ひより。
 ミレーヌ。

 みんな、
 複雑そうな、悲しそうな、怒りそうな顔をしていた。

 ◆

 ──そして、深夜。

「作戦開始だ。」

「了解。」

「兄を、リアルで包囲する。」

「観察ログ、開始。」

「青春の力で、勝つのですの!」

 少女たちは、
 静かに、忍び足で、寝室へ向かった。

 手には、
 さっき弘弥が試していた抱き枕カバー。

 ──リアル抱き枕作戦、発動。

 誰も、
 この夜の結末を、まだ知らなかった。

【続く】
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