555 / 630
【第五四七話】 『試作品、到着──20枚の美少女が俺を待っていた』
しおりを挟む
ピンポーン──
玄関のチャイムが鳴った。
「真壁弘弥様、荷物のお届けでーす!」
インターホン越しに響く声。
(ん……?)
弘弥は寝ぼけ眼で立ち上がり、ドアを開けた。
そこに立っていたのは、宅配業者の青年──そしてその背後に、山のように積まれた段ボール箱だった。
「多っ!!」
思わず叫んでしまった。
業者さんはにこにこしている。
「こちら、出版社様からのお届け物ですね!受領印、お願いしまーす!」
訳もわからないままサインし、次々に家の中へ運び込まれる段ボール。
その数、ざっと二十箱以上。
(えっ、俺、なにか通販で爆買いしたっけ……?)
思考が追いつかない。
◆
数十分後──
ダイニングルームの床は、
段ボールで埋め尽くされていた。
弘弥は、途方に暮れながら、
とりあえず一番上の箱を開封してみた。
──ぱさり。
中から現れたのは、
ビニール袋に丁寧に包まれた、大判の布。
(……なんだ、これ。)
引っ張り出して広げると──
そこには、
弘弥の書いたライトノベル作品のヒロインたちが、
美麗なイラストでプリントされていた。
ポーズをとる幼なじみ。
微笑むツンデレお嬢様。
恥ずかしそうに視線を逸らす後輩少女──
「……抱き枕カバー……か……」
ようやく理解が追いついた。
そうだ。
数ヶ月前、担当編集の久遠美月に言われていた。
「アニメ化記念に、グッズ展開するからね!」
「試作品できたら真壁くんのところに送るから、チェックお願いね!」
まさかこんな、
本当に物理攻撃レベルで来るとは思ってなかったが。
◆
弘弥は、ため息をつきながら、
一つ一つビニール袋を開封していった。
(……これ、全部チェックすんのか……)
素材の感触。
プリントの発色。
縫製の丁寧さ。
裏地の滑らかさ。
ファンに届ける商品に手抜きはできない。
真剣に、プロの目で確認しなければ──
「──つまり、使って寝るしかないな。」
誰に聞かせるでもなく、
小さく宣言した。
◆
夜。
弘弥の寝室。
そこには、
ベッドをぐるりと囲むようにして、
抱き枕カバーたちが整列していた。
(……すごい圧だ……)
美少女。
美少女。
また美少女。
どこを見ても、甘い笑顔や恥じらう表情が視界に飛び込んでくる。
「よ、よし……まずは材質チェックだ。」
震える手で、
一枚の抱き枕をそっと手に取る。
──すべすべ。
滑らかな手触りに、思わず指先がとろけそうになる。
(……これ、マジで最高級の生地使ってる……!)
頬ずりしてみる。
反発力も弾力もちょうどいい。
さらに──
「……くっ、絵柄が……反則すぎる……」
ほんのり上目遣いのヒロインに、
自然と頬が緩んでしまう。
(ダメだ、これは甘やかされる……!)
◆
ひとしきり手触りとプリントのチェックを終えたあと。
弘弥は、
一番感触がよかった一枚を選び、
そっとベッドに持ち込んだ。
(仕事だ……これは、あくまで仕事……)
自分に言い聞かせながら、
布団に潜り込む。
そして──
ぎゅっ。
抱きしめた。
……ふかふか。
すべすべ。
あたたかい。
(……あぁ……)
思わず、
全身の力が抜けた。
(これ……最高だ……)
◆
「……兄。」
ドアの向こうから、微かな声が聞こえた。
弘弥は、寝ぼけながらうっすら反応する。
「ん……なに……」
「兄、抱き枕と……そんな顔で……」
(……あれ……?)
うっすら開いた目に映ったのは、
扉の隙間から覗く、碧純たちの顔。
碧純。
ルナ。
すみれ。
ひより。
ミレーヌ。
みんな、
複雑そうな、悲しそうな、怒りそうな顔をしていた。
◆
──そして、深夜。
「作戦開始だ。」
「了解。」
「兄を、リアルで包囲する。」
「観察ログ、開始。」
「青春の力で、勝つのですの!」
少女たちは、
静かに、忍び足で、寝室へ向かった。
手には、
さっき弘弥が試していた抱き枕カバー。
──リアル抱き枕作戦、発動。
誰も、
この夜の結末を、まだ知らなかった。
【続く】
玄関のチャイムが鳴った。
「真壁弘弥様、荷物のお届けでーす!」
インターホン越しに響く声。
(ん……?)
弘弥は寝ぼけ眼で立ち上がり、ドアを開けた。
そこに立っていたのは、宅配業者の青年──そしてその背後に、山のように積まれた段ボール箱だった。
「多っ!!」
思わず叫んでしまった。
業者さんはにこにこしている。
「こちら、出版社様からのお届け物ですね!受領印、お願いしまーす!」
訳もわからないままサインし、次々に家の中へ運び込まれる段ボール。
その数、ざっと二十箱以上。
(えっ、俺、なにか通販で爆買いしたっけ……?)
思考が追いつかない。
◆
数十分後──
ダイニングルームの床は、
段ボールで埋め尽くされていた。
弘弥は、途方に暮れながら、
とりあえず一番上の箱を開封してみた。
──ぱさり。
中から現れたのは、
ビニール袋に丁寧に包まれた、大判の布。
(……なんだ、これ。)
引っ張り出して広げると──
そこには、
弘弥の書いたライトノベル作品のヒロインたちが、
美麗なイラストでプリントされていた。
ポーズをとる幼なじみ。
微笑むツンデレお嬢様。
恥ずかしそうに視線を逸らす後輩少女──
「……抱き枕カバー……か……」
ようやく理解が追いついた。
そうだ。
数ヶ月前、担当編集の久遠美月に言われていた。
「アニメ化記念に、グッズ展開するからね!」
「試作品できたら真壁くんのところに送るから、チェックお願いね!」
まさかこんな、
本当に物理攻撃レベルで来るとは思ってなかったが。
◆
弘弥は、ため息をつきながら、
一つ一つビニール袋を開封していった。
(……これ、全部チェックすんのか……)
素材の感触。
プリントの発色。
縫製の丁寧さ。
裏地の滑らかさ。
ファンに届ける商品に手抜きはできない。
真剣に、プロの目で確認しなければ──
「──つまり、使って寝るしかないな。」
誰に聞かせるでもなく、
小さく宣言した。
◆
夜。
弘弥の寝室。
そこには、
ベッドをぐるりと囲むようにして、
抱き枕カバーたちが整列していた。
(……すごい圧だ……)
美少女。
美少女。
また美少女。
どこを見ても、甘い笑顔や恥じらう表情が視界に飛び込んでくる。
「よ、よし……まずは材質チェックだ。」
震える手で、
一枚の抱き枕をそっと手に取る。
──すべすべ。
滑らかな手触りに、思わず指先がとろけそうになる。
(……これ、マジで最高級の生地使ってる……!)
頬ずりしてみる。
反発力も弾力もちょうどいい。
さらに──
「……くっ、絵柄が……反則すぎる……」
ほんのり上目遣いのヒロインに、
自然と頬が緩んでしまう。
(ダメだ、これは甘やかされる……!)
◆
ひとしきり手触りとプリントのチェックを終えたあと。
弘弥は、
一番感触がよかった一枚を選び、
そっとベッドに持ち込んだ。
(仕事だ……これは、あくまで仕事……)
自分に言い聞かせながら、
布団に潜り込む。
そして──
ぎゅっ。
抱きしめた。
……ふかふか。
すべすべ。
あたたかい。
(……あぁ……)
思わず、
全身の力が抜けた。
(これ……最高だ……)
◆
「……兄。」
ドアの向こうから、微かな声が聞こえた。
弘弥は、寝ぼけながらうっすら反応する。
「ん……なに……」
「兄、抱き枕と……そんな顔で……」
(……あれ……?)
うっすら開いた目に映ったのは、
扉の隙間から覗く、碧純たちの顔。
碧純。
ルナ。
すみれ。
ひより。
ミレーヌ。
みんな、
複雑そうな、悲しそうな、怒りそうな顔をしていた。
◆
──そして、深夜。
「作戦開始だ。」
「了解。」
「兄を、リアルで包囲する。」
「観察ログ、開始。」
「青春の力で、勝つのですの!」
少女たちは、
静かに、忍び足で、寝室へ向かった。
手には、
さっき弘弥が試していた抱き枕カバー。
──リアル抱き枕作戦、発動。
誰も、
この夜の結末を、まだ知らなかった。
【続く】
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる