同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

文字の大きさ
561 / 630

【第五五四話】 『抱き枕より、君たちが一番だ』

しおりを挟む
 夜は更け、
 窓の外には静かな星空が広がっていた。

 弘弥の部屋の布団の上。
 そこには、ぐるりと円を描くようにして、弘弥とヒロインたちが雑魚寝していた。

 碧純、ルナ、すみれ、ひより、ミレーヌ。
 それぞれが好きな体勢で寝転び、
 微かに寝息を立てている。

「……ふぅ」

 俺は、小さく息を吐いた。

 毛布の中、
 あったかい。

 右手を伸ばせば、すぐそこに碧純の温もり。
 左手を動かせば、ルナの寝返りの音。

 耳を澄ませば、
 みんなの静かな呼吸が聞こえる。

(……こんなに、近いんだな)

 抱き枕たちのふかふかも確かに最高だったけど、
 こうして隣に本物がいると、
 あの柔らかさも、温かさも、どこか作り物だった気がする。

 肌の温度。
 かすかな寝息。
 誰かの髪が、そっと触れる感触。

 ──それは、たしかに、ここに“生きている”証だった。

 ◆

「……兄」

 寝ぼけた声で、碧純が呟く。

「……ちゃんと、私たち、見ててね……」

 無意識なのか、意図的なのか。
 ぎゅっと、俺の袖を掴んでくる。

「……うん」

 小さく答えながら、俺もそっと指先を重ねた。

 隣では、
 ルナがふわっと寝息を立て、俺の肩に頭をもたせかけている。

「むにゃ……負けない……」

 どんな夢を見ているんだか。

 ◆

 すみれは、静かに本を抱きしめたまま眠っていた。
 ページがめくれ、俺の作品のタイトルがちらりと見える。

(……ありがとな)

 心の中で、そっと呟いた。

 ひよりは、ノートとペンを握ったまま、寝落ちしていた。
「観察対象、至福状態──」とメモった途中で止まっている。

(……青春、観察されてるなぁ)

 ミレーヌは、ぐるぐる巻きにされたタオルケットの中で、
 小さく身体を縮こまらせて寝ていた。

(……なんであいつ、タコみたいな寝相なんだ)

 思わず笑みがこぼれる。

 ◆

 天井を見上げる。

 静かな夜。
 遠くで、かすかに虫の声が聞こえる。

 目を閉じれば、
 今日のドタバタが走馬灯のように蘇る。

 抱き枕検品。
 大量夢精事故。
 リアル抱き枕作戦。
 ドミノ倒し大爆発。
 夜の大反省会。

 笑って、怒って、泣いて、笑って。
 誰も彼もが、本気だった。

 必死で、真剣で、青春だった。

 ◆

「……リアルな温もりって、最高だな」

 誰に聞かせるでもなく、
 俺はぽつりと呟いた。

 ──布越しじゃない。

 ──画面越しじゃない。

 ──ここにあるんだ。確かに。

 温もりも、笑い声も、涙も。
 全部、本物だった。

 ◆

 ごそごそと音がして、
 ひよりが無意識に俺の腕を抱きしめる。

 ミレーヌが毛布の中で転がってきて、
 俺の足に頭を乗せる。

 すみれが、微かな寝言を呟く。

「……弘弥くん……ずっと、好きだった……」

 胸が、じんわりと熱くなる。

(……俺、幸せだな)

 そんなありふれた、
 だけど世界で一番贅沢な感情が、胸いっぱいに広がった。

 ◆

 俺は、そっと起き上がり、
 ベランダの窓を開けた。

 夜空が、広がっている。

 無数の星々が、
 まるで祝福するかのように瞬いていた。

「……青春、まだまだ続くな」

 小さく、
 でも確かに呟いた。

 明日も、
 明後日も、
 きっとまた、俺たちは騒がしく生きるんだろう。

 笑って、泣いて、喧嘩して、許して、
 また笑って。

 そのすべてを、
 俺は、大事にしていきたいと思った。

 心から、そう思った。

 ◆

 そっと振り返ると、
 雑魚寝するみんなの寝顔が見えた。

(大好きだよ、お前たち)

 言葉に出すのは、
 まだちょっと照れくさいけど。

 ──ちゃんと、思ってる。

 未来も、
 この青春も、
 全部。

 俺は、全力で守りたい。

 このあたたかい世界を、絶対に。

 ◆

 夜風が、
 優しく俺たちを撫でた。

 青春の夜は、
 まだまだ終わらない。

【次章へ続く】
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...