562 / 630
【第五五五話】『試作品、再び──フィギュア20体到着!』
しおりを挟む
──ピンポーン。
「宅配便でーす! お届けモノでーす!」
その日、真壁家の玄関先には、大型段ボールが3つ、積まれていた。
「……きたか」
俺は玄関でサインを済ませると、慣れた手つきで荷物を持ち上げ、ガラガラと自室へと運び込んだ。
段ボールにはしっかりと《fragile(取扱注意)》の赤ラベル。中身は――
「……ついにここまできたか……」
カッターでテープを切り、そっと箱を開ける。
そこに並んでいたのは――20体のフィギュア試作品だった。
俺の書いたラノベ『きみと泡沫のセカイで』に登場する、各ヒロインたちの立体化プロジェクト。
その第1弾が、ついに製造段階を迎え、俺のもとに監修用サンプルが届いたというわけだ。
机にずらりと並べていく。
制服姿で可愛く微笑む「姫川リノン」
ポニーテールで片眉上げて挑発する「火ノ森ユイカ」
ベッドに座りながらパジャマ姿で振り返る「月守ナツネ」
それぞれのポーズや表情が、俺の脳内にあったイメージに忠実に再現されていて、思わず唸った。
「……すげぇ……立体化ってこんなに迫力あるのか」
思わず目頭が熱くなる。
作家としての喜び。
創作が形になって、誰かの手に届くという重み。
そして何より──
「……このスカートのフリルの、波打ち……!! 造形班、神か!!」
そう。
これは芸術。
造形美。
ディティールの勝負なのだ。
特に、制服のスカートの造形は重要だ。
ふわっとめくれるライン。
布の厚みと、空気感。
風に舞っているのか、立っているのか、走っている途中か。
その微妙なニュアンスの差で、キャラクターの“命”が決まる。
◆
「よし……全体フォルムは合格。じゃあ……次、スカート裏!」
俺は、リノンのフィギュアを片手に取り、そっと真下から覗き込んだ。
白。
完璧な、純白の布がそこにあった。
「うお……っ」
一瞬たじろぐが、すぐに精神を切り替える。
「これは、いわば構造検証……! 演出の一環……! 職務!! 職務だ!!」
プロ意識で視線を固定。
「素材の透け感は……ナイロン系……色指定も整ってる……若干ピンクが浮いてるのは、ライティングによる錯覚……」
自分に言い聞かせるように、口に出して確認していく。
「……ただのエロじゃない! これは! 検証だ!」
真剣だった。
心から真剣だった。
◆
次はユイカ。
「……おっと、こっちは黒か……」
黒いストッキングを再現するためのグラデーション塗装が施されており、脚から腰にかけてのラインが絶妙に仕上がっている。
「ちょっと光沢が強いかな……フィルム調整で落ち着かせるか……」
パジャマ姿のナツネも然り。
「……うむ、肌色率が高すぎる。攻めたな、これは……でも、絶妙に品があるな……やるな担当……!」
そして、3体だけでなく、20体分をひとつひとつチェックしていくうちに、俺はいつの間にか床に正座していた。
「……これが“青春の立体化”か……」
感動すら覚えた。
制服のしわ、ソックスのたるみ、リボンの裏側の陰影。
どれもが、キャラクターの息遣いを伝えてくれる。
この子たちは、
確かに俺が創った“物語”の住人だった。
◆
──そして。
「……あれ、これ、キャストオフできる仕様?」
ふとした拍子に、リノンのスカートがカチッと外れた。
瞬間、視界が白くなる。
「……なるほど、下着のモールドは彫り込みで……って、あれ!? これ、プリント違くない!?」
急いでメモを取りながら、顎を突き出して覗き込む。
左手で懐中電灯を照らし、右手にカメラを構えるその姿は──
完全にパンツ研究家。
「よし……照明角度、変えてみよう……」
至近距離での確認。
眉間にしわを寄せ、時に舌打ちすらしながら“真顔でパンツと向き合う男”。
──その姿を。
ドアの隙間から、誰かが見ていたことに、
俺はまだ、気づいていなかった。
【次回】
「宅配便でーす! お届けモノでーす!」
その日、真壁家の玄関先には、大型段ボールが3つ、積まれていた。
「……きたか」
俺は玄関でサインを済ませると、慣れた手つきで荷物を持ち上げ、ガラガラと自室へと運び込んだ。
段ボールにはしっかりと《fragile(取扱注意)》の赤ラベル。中身は――
「……ついにここまできたか……」
カッターでテープを切り、そっと箱を開ける。
そこに並んでいたのは――20体のフィギュア試作品だった。
俺の書いたラノベ『きみと泡沫のセカイで』に登場する、各ヒロインたちの立体化プロジェクト。
その第1弾が、ついに製造段階を迎え、俺のもとに監修用サンプルが届いたというわけだ。
机にずらりと並べていく。
制服姿で可愛く微笑む「姫川リノン」
ポニーテールで片眉上げて挑発する「火ノ森ユイカ」
ベッドに座りながらパジャマ姿で振り返る「月守ナツネ」
それぞれのポーズや表情が、俺の脳内にあったイメージに忠実に再現されていて、思わず唸った。
「……すげぇ……立体化ってこんなに迫力あるのか」
思わず目頭が熱くなる。
作家としての喜び。
創作が形になって、誰かの手に届くという重み。
そして何より──
「……このスカートのフリルの、波打ち……!! 造形班、神か!!」
そう。
これは芸術。
造形美。
ディティールの勝負なのだ。
特に、制服のスカートの造形は重要だ。
ふわっとめくれるライン。
布の厚みと、空気感。
風に舞っているのか、立っているのか、走っている途中か。
その微妙なニュアンスの差で、キャラクターの“命”が決まる。
◆
「よし……全体フォルムは合格。じゃあ……次、スカート裏!」
俺は、リノンのフィギュアを片手に取り、そっと真下から覗き込んだ。
白。
完璧な、純白の布がそこにあった。
「うお……っ」
一瞬たじろぐが、すぐに精神を切り替える。
「これは、いわば構造検証……! 演出の一環……! 職務!! 職務だ!!」
プロ意識で視線を固定。
「素材の透け感は……ナイロン系……色指定も整ってる……若干ピンクが浮いてるのは、ライティングによる錯覚……」
自分に言い聞かせるように、口に出して確認していく。
「……ただのエロじゃない! これは! 検証だ!」
真剣だった。
心から真剣だった。
◆
次はユイカ。
「……おっと、こっちは黒か……」
黒いストッキングを再現するためのグラデーション塗装が施されており、脚から腰にかけてのラインが絶妙に仕上がっている。
「ちょっと光沢が強いかな……フィルム調整で落ち着かせるか……」
パジャマ姿のナツネも然り。
「……うむ、肌色率が高すぎる。攻めたな、これは……でも、絶妙に品があるな……やるな担当……!」
そして、3体だけでなく、20体分をひとつひとつチェックしていくうちに、俺はいつの間にか床に正座していた。
「……これが“青春の立体化”か……」
感動すら覚えた。
制服のしわ、ソックスのたるみ、リボンの裏側の陰影。
どれもが、キャラクターの息遣いを伝えてくれる。
この子たちは、
確かに俺が創った“物語”の住人だった。
◆
──そして。
「……あれ、これ、キャストオフできる仕様?」
ふとした拍子に、リノンのスカートがカチッと外れた。
瞬間、視界が白くなる。
「……なるほど、下着のモールドは彫り込みで……って、あれ!? これ、プリント違くない!?」
急いでメモを取りながら、顎を突き出して覗き込む。
左手で懐中電灯を照らし、右手にカメラを構えるその姿は──
完全にパンツ研究家。
「よし……照明角度、変えてみよう……」
至近距離での確認。
眉間にしわを寄せ、時に舌打ちすらしながら“真顔でパンツと向き合う男”。
──その姿を。
ドアの隙間から、誰かが見ていたことに、
俺はまだ、気づいていなかった。
【次回】
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる