同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五五五話】『試作品、再び──フィギュア20体到着!』

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 ──ピンポーン。

「宅配便でーす! お届けモノでーす!」

 その日、真壁家の玄関先には、大型段ボールが3つ、積まれていた。

「……きたか」

 俺は玄関でサインを済ませると、慣れた手つきで荷物を持ち上げ、ガラガラと自室へと運び込んだ。
 段ボールにはしっかりと《fragile(取扱注意)》の赤ラベル。中身は――

「……ついにここまできたか……」

 カッターでテープを切り、そっと箱を開ける。
 そこに並んでいたのは――20体のフィギュア試作品だった。

 俺の書いたラノベ『きみと泡沫のセカイで』に登場する、各ヒロインたちの立体化プロジェクト。
 その第1弾が、ついに製造段階を迎え、俺のもとに監修用サンプルが届いたというわけだ。

 机にずらりと並べていく。

 制服姿で可愛く微笑む「姫川リノン」
 ポニーテールで片眉上げて挑発する「火ノ森ユイカ」
 ベッドに座りながらパジャマ姿で振り返る「月守ナツネ」

 それぞれのポーズや表情が、俺の脳内にあったイメージに忠実に再現されていて、思わず唸った。

「……すげぇ……立体化ってこんなに迫力あるのか」

 思わず目頭が熱くなる。

 作家としての喜び。
 創作が形になって、誰かの手に届くという重み。
 そして何より──

「……このスカートのフリルの、波打ち……!! 造形班、神か!!」

 そう。
 これは芸術。
 造形美。
 ディティールの勝負なのだ。

 特に、制服のスカートの造形は重要だ。
 ふわっとめくれるライン。
 布の厚みと、空気感。
 風に舞っているのか、立っているのか、走っている途中か。

 その微妙なニュアンスの差で、キャラクターの“命”が決まる。

 ◆

「よし……全体フォルムは合格。じゃあ……次、スカート裏!」

 俺は、リノンのフィギュアを片手に取り、そっと真下から覗き込んだ。

 白。

 完璧な、純白の布がそこにあった。

「うお……っ」

 一瞬たじろぐが、すぐに精神を切り替える。

「これは、いわば構造検証……! 演出の一環……! 職務!! 職務だ!!」

 プロ意識で視線を固定。

「素材の透け感は……ナイロン系……色指定も整ってる……若干ピンクが浮いてるのは、ライティングによる錯覚……」

 自分に言い聞かせるように、口に出して確認していく。

「……ただのエロじゃない! これは! 検証だ!」

 真剣だった。
 心から真剣だった。

 ◆

 次はユイカ。

「……おっと、こっちは黒か……」

 黒いストッキングを再現するためのグラデーション塗装が施されており、脚から腰にかけてのラインが絶妙に仕上がっている。

「ちょっと光沢が強いかな……フィルム調整で落ち着かせるか……」

 パジャマ姿のナツネも然り。

「……うむ、肌色率が高すぎる。攻めたな、これは……でも、絶妙に品があるな……やるな担当……!」

 そして、3体だけでなく、20体分をひとつひとつチェックしていくうちに、俺はいつの間にか床に正座していた。

「……これが“青春の立体化”か……」

 感動すら覚えた。

 制服のしわ、ソックスのたるみ、リボンの裏側の陰影。
 どれもが、キャラクターの息遣いを伝えてくれる。

 この子たちは、
 確かに俺が創った“物語”の住人だった。

 ◆

 ──そして。

「……あれ、これ、キャストオフできる仕様?」

 ふとした拍子に、リノンのスカートがカチッと外れた。

 瞬間、視界が白くなる。

「……なるほど、下着のモールドは彫り込みで……って、あれ!? これ、プリント違くない!?」

 急いでメモを取りながら、顎を突き出して覗き込む。
 左手で懐中電灯を照らし、右手にカメラを構えるその姿は──

 完全にパンツ研究家。

「よし……照明角度、変えてみよう……」

 至近距離での確認。

 眉間にしわを寄せ、時に舌打ちすらしながら“真顔でパンツと向き合う男”。

 ──その姿を。

 ドアの隙間から、誰かが見ていたことに、
 俺はまだ、気づいていなかった。

【次回】
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