同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

【第五五六話】『何をしてるんですか兄──現場を見られた』

「……ふむ」

　真壁弘弥、現在、真剣モード発動中。
　机の上にはずらりと並べられた二十体のフィギュア。
　俺は懐中電灯を片手に、スカートの裏側まで精密にチェックしていた。

「このめくれ具合……絶妙だな……！」

「この太ももの食い込み、陰影処理も自然……！」

　メモ帳には、細かい感想と修正希望ポイントがびっしり書き込まれていく。
　頬に汗を滲ませながら、俺はプロ意識で仕事に没頭していた。

　そう──これは仕事だ。
　決して、やましい気持ちなど微塵もない。

　◆

「兄ー？　お茶持ってきたよー」

　コンコンと軽くノックして、
　碧純がドアを開けた。

「……え？」

　そして、彼女の目に映った光景。

　片膝立ちで机に張り付き、
　フィギュアのスカートを指でちょいとめくり、
　その中を懐中電灯で照らし、真顔で凝視する俺の姿。

「……え？」

　碧純の手からお盆が滑り落ちそうになった。

　後ろから覗き込んだルナ、すみれ、ひより、ミレーヌも、次々に絶句する。

「う、うそ……兄……」

「ガチでスカートの中覗き込んで……」

「……しかもメモ取りながら……」

「観察対象、倫理観喪失フェーズ突入……」

　◆

「ち、違うんだお前ら！　これは仕事であって、あの、決して不埒な──！」

　慌てて振り向いた俺だったが、
　ヒロインズの冷たい視線が突き刺さる。

「最低だぁぁぁぁぁ！！！」
　碧純の怒号が炸裂した。

「兄、変態だったんだね！？　やっぱりただの変態だったんだね！！」

「パンツ見るために小説家になったの！？　違うよね！？」

「純文学って、パンツ文学だったんだ！！」

「お兄様、まさかの堕落ですの！！！」

「記録。思春期男性、スカート観察行為確認。記録済。」

　畳み掛けるような非難の嵐。

　◆

「お、落ち着け！　これは仕様確認であって！」

「この角度から見たときに自然かどうかを──」

「じゃあ兄、女子のスカートめくっても『自然検証です！』って言うの！？」

「ちが……いや、そういうわけでは……」

「アウトー！！！！！」

　◆

　俺は床に正座させられ、
　ヒロインたちにぐるりと囲まれていた。

「兄、弁解は？」
　碧純が腕を組んで見下ろしてくる。

「えっと、その……製品品質へのこだわりと……創作意欲の燃焼と……」

「パンツ見て燃焼すんなあああああああ！！！！！」

　全員総ツッコミだった。

　◆

「いい？　兄」

　碧純が膝をついて、目の前に顔を寄せる。

「そんなにパンツが見たいなら、ね」

「実物、見ればいいじゃん」

「……は？」

　俺はポカンとした。

「え、ちょっと兄、動揺してるじゃん。マジじゃん」

　ルナがニヤニヤしながら肩を組んでくる。

「じゃあさ、私たちが、見せてあげようか？」

「えっ」

「兄が、どっちがいいか、フィギュアとリアル、比べればいいんだよ」

　すみれが、
　ひよりが、
　ミレーヌが、
　次々に妖しい笑みを浮かべながら迫ってくる。

「えええええええええええ！！？？」

　◆

　その時。

　この後に起きる、
　人類史上最大級の青春ドタバタ地獄を、
　俺はまだ、知る由もなかった。

【続く】