同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五六二話】『青春に、パンツがあってもいいじゃないか』

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 日が傾き始めた午後。
 俺の部屋の中は、異様な静けさに包まれていた。

 真壁弘弥、十七歳──高校生にして青春純文学の寵児。
 そんな俺が新たに書き上げた、
 青春群像劇の最新作『きみとパンツと、未来と。』。

 その全文が、今まさにモニターに映し出され、
 ヒロインたち五人──碧純、ルナ、すみれ、ひより、ミレーヌの目の前にある。

 静かにページをめくる音。
 ときおり漏れる、息を呑むような声。
 そして……突然の沈黙。

 ◆

「っぷ……」

 最初に笑ったのは、ルナだった。

「だ、だめ……やっぱこれ、笑うって……!」

 彼女は口を押さえて、肩を震わせていた。

「『彼女のパンツは白かった。まるで未来への祈りのように』って、なにそれぇぇぇ!!!」

 ◆

「ちょ、ちょっと……!」

 すみれも赤面しながら笑い始めた。

「私、ちゃんと読んで感動してたのに……急に布の描写がリアルすぎてっ……!」

 ◆

「『パンツとは心の窓。風通しがいいほど、恋は育つ』……」

 ひよりが淡々と引用しながら、顔を手で覆っている。

「記録。名言、青春迷走領域に突入」

 ◆

「でも、私のモデルっぽい子が、ラストで『このパンツは、先生に見せるためにあるのです!』って言うの、すっごく……感動しましたの……!」

 ミレーヌは両手で頬を押さえながら、うるっとした瞳を輝かせる。

「なんか……青春って、パンツだったんですね……!」

「違うよミレーヌ!? 大きな勘違いだからねそれ!!」

 碧純が慌ててツッコミを入れた。

 ◆

「でも……」

 その碧純も、やがて口元に小さな笑みを浮かべて呟いた。

「兄らしいよね、ほんと」

「パンツのことばっか考えてるくせに、ちゃんと感動させにくるし……」

「……バカだけど」

「……ずるいけど」

「……好きだよ」

 その言葉に、他のヒロインたちも小さく頷いた。

 ◆

 気づけば、皆で並んで、俺の部屋のベランダに出ていた。

 五人の美少女たちに囲まれ、
 夕焼け空を見上げる俺。

 西の空が、朱色に染まっていく。

「青春ってさ」

 ルナがぽつりと呟いた。

「別にカッコいいもんじゃないのかもね」

「恥ずかしいし、情けないし、しょうもないし」

「でも、だからこそ──忘れたくないんだよ」

 その言葉に、誰も何も言わなかったけど、
 たぶん、全員、心の中で頷いていたと思う。

 ◆

「ねぇ兄」

 碧純が、俺の隣で、ぽつりと訊いてきた。

「次は……何、書くの?」

 俺は、少し考えてから答えた。

「……パンツじゃないやつ」

「うんうん、いいと思う!」

「でも“ちょっとだけパンツ出るやつ”だよな?」

「……うん、それは譲れない」

「やっぱりダメじゃねぇかああああ!!」

 全員で笑った。

 腹を抱えて笑った。

 こんな風に笑えることが、
 きっと──一番の青春なのかもしれない。

 ◆

「青春に、パンツがあってもいいじゃないか」

 俺がぽつりと呟くと、
 すみれが苦笑して、肩をすくめた。

「……いいえ。あなたに限っては、あって当然ですね」

「次はどんな変態発言が飛び出すか、楽しみにしてますわ」
 と、ミレーヌ。

「観察対象、変態度・誇張なし」
 と、ひより。

「もう……バカ兄……」
 と、碧純が小さく笑った。

 そんな彼女たちの声を背に、
 俺は夕焼け空をじっと見つめた。

 未来なんて、まだわからない。

 でもこの瞬間だけは、
 俺は誰よりも、青春を生きてる気がした。

【青春とパンツと、未来に続く──】
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