同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『君と、納豆と、発酵と。──美少女納豆実験編』

【第五六三話】 『発酵のロマン──君は“抱き納豆”を知っているか?』

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 ――図書館。

 高校の近くにある市立図書館、その奥まった閲覧席で、俺は神妙な顔で本を読んでいた。

 タイトルは、『納豆と人類史』。
 副題には「日本人と発酵の奇跡」とある。

「……納豆って、ロマンだったんだな……」

 俺――真壁弘弥、十七歳。
 高校生であり、人気青春ライトノベル作家でもある。

 そして、変態と紙一重で知られる“青春純文学の異端児”でもある。

 今日の俺は、その新作のネタを探していた。

 それがまさか、納豆に行き着くとは思ってなかったけど。

 ◆

「室町時代までは、納豆は“人肌発酵”が主流だった……?」

 目を走らせるたび、信じがたい情報が次々に目に飛び込んでくる。

「大豆を茹で、藁に包み、肌身に密着させて……人の体温で発酵させた……?」

「これ……やばい……」

 ◆

 俺は顔を覆い、震える指でページをめくった。

(つまりこれは──)

(人のぬくもりが、発酵に変わるということ)

(汗、皮脂、鼓動、すべてが“旨味”になるということ)

 その瞬間、俺の脳内で、稲妻が走った。

(待てよ……)

(美少女が……)

(納豆を……)

(自分の胸元に抱いて発酵させたら……)

 ◆

「それ、青春じゃないか……?」

 思わず声が漏れた。

 近くの席にいた老婆が「ヒッ」と息を呑んだ気がするが、もう俺は止まらない。

(ぬか床に続き、納豆……!)

(しかも、今回は“抱く”という行為そのものがテーマ……!)

(温もりの記憶! 命の発酵! 青春が……腐って光り出す!!!)

 俺は立ち上がった。

 いや、立ち上がらずにはいられなかった。

(美少女の胸元で、納豆が温められ、数日後には糸を引く……)

(それはつまり、愛の糸では?)

(青春の絆が、発酵して、形になるんじゃないか!?)

「……書ける」

 俺は震える声で呟いた。

「これは、書ける。いや、書くべきだ!」

(パンツ、ぬか床、そして今度は納豆……!)

(俺の青春シリーズが、三部作になる……!!!)

 ◆

 しかし、ひとつ問題があった。

 俺には、納豆を抱いて発酵させてくれる美少女が必要だ。

 市販の納豆では“人肌の奇跡”は再現できない。

 人のぬくもりでしか生まれない味がある。
 そしてそのぬくもりこそが、青春なのだ。

 ならばどうするか?

 答えは、ひとつしかない。

「ヒロインたちに……バイトを頼もう」

 心の中で決断が下りた。

 ◆

 その夜。

 俺は部屋で、原稿そっちのけでスケジュール表と予算案を練っていた。

 ヒロインたちに抱いてもらう納豆の数。
 発酵に必要な日数と温度管理。
 報酬は相場より少し高めで提示。
 ……発酵ボーナスあり。

「なんだこの地獄みたいな計画表……」

 自分で書いたにもかかわらず、思わず頭を抱える。

 だがもう、後には引けない。

 俺は一人で納豆を抱けない。

 いや、そうじゃない。
 “青春”として完成させるには、俺の手じゃ足りないのだ。

 “彼女たち”のぬくもりが必要なのだ。

 そう、これは青春の共同作業。

 青春の共同発酵。

 人の温もりで育つ納豆。

 これはきっと、世界一エモくて、ちょっと臭い青春になる。

 俺は、ふふっと笑って、カレンダーに大きく書き込んだ。

「納豆発酵実験開始日」

【続く】
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