同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『君と、納豆と、発酵と。──美少女納豆実験編』

【第五六四話】 『お願い……納豆を抱いてくれ!』

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「……納豆、を?」

「ええと……人肌で?」

「……抱く……?」

 三連続の静かなオウム返しが、俺の脳を直撃した。

 リビングの空気が一瞬で凍りつく。

 その中心で正座している俺は、手元のメモを見つめながら、もう一度言った。

「君たちに、お願いしたいバイトがある」

「大豆を藁に包んで、それを……こう、胸元とかお腹とか……肌の近くで温めて、三日間、納豆にしてほしい」

「正気か!!!!!」

 真っ先にルナが叫んだ。

「兄!? なに!? 納豆!? 人肌!? おま、それ絶対一発アウト系変態案件だぞ!!?」

「ち、違う! 違うんだ!」

 俺は両手を振った。

「これは、れっきとした歴史ある製法なんだ! 伝統なんだよ!」

「いや、それが一番怖いわ!」

 ◆

「説明を求めます」

 すみれが、冷静に眼鏡を押し上げながら、口を開いた。

「このバイトの目的は? 納豆発酵がなぜ我々なのですか?」

「その通りだ! すみれ、もっと言って!」

 碧純が後ろから援護射撃する。

「兄、納豆って、知ってる? 匂いとか……ねばつきとか……普通、抱くものじゃないからね!?」

「……わたくしの国では納豆はありませんが、腐った豆を身体に巻きつける文化はちょっと……」

 ミレーヌが眉をひそめた。

 ひよりだけが黙ってノートに「変態ポイント+10」と記録している。

 ◆

 俺は大きく息を吸い、そして叫んだ。

「でもそれこそが、青春なんだよ!!」

「……は?」

「考えてみてくれ! 発酵とは、変化だ! 成長だ!」

「日常と異常の境界で、体温で何かが生まれる奇跡なんだ!」

「俺はその奇跡を、青春として、物語として、作品として──この世界に刻みたいんだ!!」

「……」

「……」

 沈黙。

「お、お兄ちゃん……」

 碧純が、眉を下げて小さく言った。

「ごめん、いつもは変態って思ってたけど……今日の兄は、変態を越えて……詩人だった……」

「なんだよそれえぇぇ!!」

 ◆

「でも、そんな詩的な依頼でも、やりたくはないな~」

 ルナが腕を組んでため息をついた。

「納豆だし、三日間だし、ねばねばだし……」

「……ですよね」

 すみれも首をかしげる。

「報酬があるなら、別ですが」

「ある!」

 俺は机から封筒を取り出し、テーブルの上に置いた。

「バイト代、一万円」

「一人あたり?」

「もちろん」

「…………」

 空気が変わる。

「そして、バイトのあとは、全員で温泉旅行」

「温泉!?」

「わたくし、賛成ですの!」

「早いよミレーヌ!!」

「兄、それ、経費で落ちるの?」

「……まあ、出版企画の一環として……なんとか」

「青春って、金で買えたんだなぁ……」

 ひよりがしみじみと呟いた。

 ◆

「……三日間だけ、だよ?」

 碧純が条件をつけた。

「途中で投げ出さないこと」

 すみれが静かに追加する。

「肌にかゆみが出たら即中止」

 ルナが真顔で言う。

「発酵途中で話しかけるのは禁止。集中できませんの」

 ミレーヌも真剣な顔をしている。

「記録はすべて私がとる」
 ひよりがノートを掲げた。

「……じゃあ、やってくれるのか?」

 俺が問いかけると、全員が小さく、しかし確かに頷いた。

 ◆

「じゃあ、明日から“納豆プロジェクト”始動ね」

 すみれが確認する。

「藁、どうするの? 本物?」

「注文してある。あと、専用の保温ポーチも」

「お兄ちゃん、どこまで本気なの……」

 碧純が呆れて笑う。

 俺は静かに立ち上がった。

「準備は整った」

「舞台は、整った」

「青春は、発酵する!!!」

「……兄、やっぱバカだわ……」

 それでもみんな、
 ちょっとだけ笑っていた。

【続く】
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