同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五六一話】『そして新作へ──“きみとパンツと、未来と。”』

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 数日後──。

 真壁家の一室は、まるで台風が通り過ぎた後のようだった。

 机の上には散乱する参考資料。
「パンツ文化史」「青春文学大全」「布と人間心理」といった本が積み上がり、
 空になったコーヒーカップがいくつも転がっている。

 そんな修羅場の中心で、俺──真壁弘弥は、背筋を伸ばして座っていた。

「……よし」

 パチン、と軽く指を鳴らす。

 画面の中央には、完成原稿のタイトルが輝いている。

『きみとパンツと、未来と。』

 総文字数──約十三万文字。

 青春と、羞恥と、希望を、一枚の布に込めた群像劇。

 間違いない。
 俺は今、青春純文学に新たな歴史を刻んだ。

 ◆

「兄ぃ、終わったの?」

 扉の隙間から、碧純が顔を覗かせた。

 続いて、ルナ、すみれ、ひより、ミレーヌも、次々と部屋に入ってくる。

「どうせ、また変態小説でしょ」

「パンツのことしか書いてないんでしょ?」

「観察対象、精神汚染進行度:レッドゾーン突入」

 散々な言われようだ。

 だが、俺は胸を張って答えた。

「違う」

「これは──」

「“パンツ”という布一枚を通して、人と人との心の壁と、そこを越える勇気を描いた青春文学だ!」

「「「「……」」」」

 沈黙。

「……ほんと、兄は……」

 碧純が、呆れたように笑った。

「めんどくさいくらい、真剣だよね」

 ルナも、苦笑しながら頷く。

「……でも、そういう兄が、好きだよ」

 すみれが、そっと眼鏡を押し上げた。

「青春とは、恥じらいと希望の融合体──記録完了」
 ひよりが静かにペンを走らせる。

「先生、わたくし、感動しましたの!」
 ミレーヌは、満面の笑みで拍手していた。

 ◆

 俺は、モニターを指差す。

「読んでみろよ」

 ヒロインたちは顔を見合わせた後、
 恐る恐る、順番に画面に目を通していった。

 ページをめくるごとに、表情が変わっていく。

 最初は苦笑。

 次に赤面。

 そして──

 最後には、
 みんな、目を潤ませていた。

 ◆

「……バカ兄……」

 碧純が、ぽつりと呟いた。

「こんな、パンツパンツ言ってるくせにさ……」

「なんで、ちゃんと、泣かせにくるんだよ……」

 ルナが、拳で目元をこする。

「本当に、好きだなぁ……人のこと……」

 すみれが、柔らかく笑った。

「青春は、恥ずかしくて、眩しい」
 ひよりが、静かに読み上げた。

「だから、未来に続く──って」

 誰よりも早く泣き出したミレーヌが、鼻をすすった。

「先生、最高ですの……!」

 ◆

 俺は、ゆっくりと立ち上がる。

 窓の外では、春の風が柔らかく吹いていた。

「……俺たちの青春も、きっと、こうなんだろうな」

「恥ずかしくて、くだらなくて、でも、どうしようもなく尊くて」

「だからこそ、書きたくなるんだ」

「こんな、バカみたいな物語を」

 みんなが、黙って聞いていた。

 ◆

「兄」

 碧純が、そっと俺の手を取った。

「私たちの青春も、書いてよ」

「ちゃんと、全部、残してよ」

「……わかってるよ」

 俺は、小さく笑った。

「絶対に忘れない」

「だって、こんなにバカみたいで、泣きたくなるくらい楽しい日々なんだから」

 ◆

 外では、
 桜が、静かに舞っていた。

 まだ終わらない。

 俺たちの青春は、
 まだ、これからだ。

【続く】
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