同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『君と、納豆と、発酵と。──美少女納豆実験編』

【第五七〇話】 『“君と、納豆と、発酵と。”──新作完成!』

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 ──数日後。

 深夜二時。弘弥の部屋の灯りは、まだ消えていなかった。

 キーボードの打鍵音だけが部屋に響く。
 机の上には食べかけのカップ味噌汁、そして半分ほど空になった納豆のパック。

 その香りすら、今の弘弥にはインスピレーションの源だった。

 

「よし……最後の一文……」

 彼は、深く息を吸った。

 

『君と、納豆と、発酵と。──変わってゆくことは怖い。でも、君が温めてくれたから、僕は……僕でいられる。』

 

「……完成だ」

 モニターに映し出されたタイトルが、静かに瞬いた。

『君と、納豆と、発酵と。』

 誰がどう見ても変態タイトル。
 でも、その中には確かな青春の温度が、込められていた。

 

 ◆

 

 翌日。
 出版社がその短編小説を「次世代青春文学の挑戦」として発表した瞬間──

 文壇は、爆発した。

 

 ──《天才か変態か!? 人気作家・真壁弘弥氏、“納豆”を題材に衝撃の青春小説を発表!》
 ──《文学界、ぬか床の次は納豆で再び沸騰!》
 ──《“発酵”という言葉にここまで多層的意味を持たせた作家は初めて》
 ──《SNSで“#青春納豆派”がまさかの世界トレンド入り》

 

「いやいや、納豆だよ!?納豆の話だよ!? なにこれ!?」

「美少女×納豆で泣いたの初めてかもしれない……」

「胸で温めるシーン、完全に合法なのになぜか読んでるこっちが捕まりそうになる……」

 

 国内外の読者が賛否の嵐を巻き起こす中、なぜか“納豆を抱いて寝る女子”のコスプレも出現。
 弘弥の作品は、文化論争の最前線に踊り出た。

 

 しかし──

 

 その頃、当の作者・真壁弘弥はというと、
 台所で味噌汁をよそいながら、ぼんやりしていた。

 

「兄ー! 起きてたの!?」

 碧純が寝癖のまま、納豆の入った容器を抱えてやってきた。

 

「朝食、準備してあるよ。納豆ご飯、五種盛りだよ!」

 ルナが元気よく声をかける。

 

 すみれ、ひより、ミレーヌも次々とリビングに顔を出す。

 皆パジャマ姿で、なんだかんだ髪がぼさぼさだった。

「文壇が爆発してるってのに……当人たちは納豆朝食会……」
 すみれが笑う。

 

 弘弥は、五つの納豆容器をじっと見つめた。

「あれだな……この味、たぶん一生忘れられない」

 

「そうでしょ?」
 碧純が小さく微笑む。

「だって……わたしたち、青春を煮た大豆に込めたんだもん」

 

 弘弥はふっと笑って、炊き立ての白飯に納豆をのせる。

「変な言い回しだけど……その通りだよな」

「腐っても食える。発酵すれば、うまい」

「青春って……きっと、そういうもんだ」

 

 ルナが箸を構えたまま、口を開いた。

「じゃあまた新作、“美少女の納豆第二弾”書く予定あり?」

 

「やめてルナ! 弘弥兄に変な種まかないで!」

 碧純が止めに入るが、ミレーヌが追加する。

「次は……納豆オムレツとか、どうですの?」

「卵で包む青春納豆……あり、かも……」

 ひよりが記録帳にメモを取る。

 

「やめろぉぉぉおお!!!」
 弘弥が叫んだ。

「青春をそんなに包んだり混ぜたりするなぁぁぁ!!」

 

 大爆笑が、リビングに広がる。

 朝の光が差し込む中、全員で囲む納豆ご飯。

 変なプロジェクトだったかもしれない。

 けれど──たしかに、あれは青春だった。

 

「さ、次の企画、なにやる?」

 すみれが笑う。

 

 弘弥は、空になった茶碗を見下ろしながら、そっと呟いた。

 

「……まぁ、腐ってなきゃ、なんでも青春だろ」

 

 皆、思わず吹き出した。

 笑って、笑って、
 納豆の香りに包まれた朝が、静かに幕を下ろす。

 

【納豆編──完】
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