同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『夢精監視プロジェクト発足!──“夜の青春”を科学する』

【第五七七話】 『青春は、測定不能だった──俺の気持ちは……』

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 朝。
 リビングの空気が、少しだけ静かだった。

 

 夢精ポイントランキングは現在、碧純とルナが並走中。
 ひよりの観測ノートは三冊目に突入し、
 “正妻(仮)”の座を巡る【睡眠戦線】は、もはや日常の一部と化していた。

 

 だが──

 弘弥の表情は、どこか沈んでいた。

 

「……俺、ダメかもしれない……」

 

「なに言ってるの。今週6連続記録更新中だよ?」
 ひよりが即座にノートをめくる。

 

「そうじゃなくて……全部に反応して、全部夢精して……」

「俺って……本当に誰かが好きなのか……わかんなくなってきて……」

 

 テーブルの上には、昨夜の観測ログ。

 ■発生:あり(深夜2:22)
 ■寝言:「好き……誰か……」
 ■反応:全身軽く震える、満足げな表情、涙一滴あり

 

「……涙!? 泣いてたの!? 俺!?」

 

「感情の放出による涙分泌。青春濃度が高まったときの典型反応」
 ひよりが淡々と分析。

 

 だが弘弥の手は、震えていた。

 

「なんか……ごめん」
 ぽつりと、弘弥は言った。

「誰が好き、とか、まだ言えないのに……」

「誰かひとりを選べないのに……」

「それでも……夢の中で……俺、みんなに助けられてて……」

 

「どの夜も、誰かのぬくもりがあって……」

「誰かの寝息が、俺を安心させてくれて……」

 

「……それが嬉しくて、安心して、だから……」

「夢精……しちゃってたんだと思う」

 

「……情けない話だけど」

 

 そこまで言って、弘弥は笑った。

 

「でも、どの夜も……幸せだった」

「全部が、青春だった」

「誰かひとり、じゃなくて──全部」

 

「……全部、俺の青春だったんだ」

 

 その言葉に、ヒロインたちは静まりかえった。

 

 すみれが、そっと眼鏡を外す。
 碧純が、口を開けかけて止める。
 ミレーヌが、何かを言いかけて微笑む。

 

 沈黙を破ったのは──ルナだった。

 

「……ちょっと待てやコラァ!!」

 バンッ!!

 

「なに“全部好き”みたいな優等生発言でまとめてんだこの夢精バカ!!」

「そうそう!! まとめて収めたら平和になると思うなよ!!」

 碧純が続く。

 

「あなたねえ、誰に抱きしめられたときが一番気持ちよかったか、言ってみなさいよ!!」

 すみれが静かに微笑しながらも目が笑っていない。

 

「どの夜が最高だったか、書式自由・400字詰原稿用紙3枚で提出していただきますの」

 ミレーヌが資料を準備し始めた。

 

「……だからってまとめようとするな」

 ひよりが締めるように言った。

「観測者として、それは一番ダメな逃げ方」

 

「すみませんでしたああああああああ!!!」

 弘弥は土下座した。

 

 でも。

 ヒロインたちは、みんな少しだけ頬を緩めていた。

 

 “選ばれなかった”わけじゃない。
 “まだ選べない”だけ。

 

 なら──この戦いは、まだ続けられる。

 

「……じゃあ次は、夢精じゃなくて現実勝負ね」
 ルナがウインクする。

 

「えっ!? そっちはそっちで怖い!!」

 

 青春の夜はまだ続く。

 測れない想いと、止まらない体温と──
 そして、誰かの寝言の続きを聞くために。

 

【つづく】
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