同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『現実誘惑バトル編』

【第五八三話】 『触れたのは誰の指──不意打ち手つなぎ事件』

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「今日の青春接触テーマは“無自覚接触”よ!」

 

 ルナの号令と共に、リビングの照明が落とされ、スクリーンにホラー映画のイントロが流れ出した。

 

「どうしてホラー!? 接触っていってもさ、もっとこう、穏やかな──」

 

「違うのよ弘弥。“怖い”って感情は、接触に正当性を与えるの」
 すみれが神妙な顔で頷く。

「つまり、“驚いて手を握った”は、完全に合法接触」

 

「やめろ、感情を法的に分析するなああああ!!」

 

「ちなみに今日の配信タイトルは“青春×恐怖=距離0センチ”です」
 ひよりが静かにカチッと録画ボタンを押した。

 

 ◆

 

 弘弥は、中央のソファに座らされていた。

 右に碧純、左にルナ、前にはすみれが床座り、後方にはひよりとミレーヌが並ぶ。
 部屋の灯りは消され、スクリーンの映像だけが青白く揺れる。

 

 タイトルは『鏡の中の彼女』。

 日本の山村を舞台にした、静かで不気味な邦画。

 

(いやいやいや……これ怖いやつだろ……しかもこの距離感……)

 

 開始5分で、耳元に風が吹き抜ける演出。
 その瞬間──

「ひゃっ!?」

 隣の誰かの手が、がしっと弘弥の手に絡みついた。

 

(うわっ!? なに!? 誰!?)

 

 掌は細く、しかし温かく、微かに震えている。
 まさに“驚いたときの反応”だった。

 

 だが──

 その手はすぐに離されなかった。
 むしろ……指が、ほんの少しだけ絡みつくように動いてきた。

 

(え、これ、演技じゃなくて……リアル……?)

 

 映画の恐怖演出とは裏腹に、弘弥の脳内では“誰の手か問題”でフル回転が始まる。

 

 ──右か? 左か?
 ──温度は? 触感は?
 ──ほんのり、柑橘系の香り……いや、これルナか? それとも……

 

 だがそのとき、画面に“ギャアアアアア”と幽霊が出現。

 全員が叫び、ドタバタと転げ回り──その“手”の主が誰かは、あやふやになってしまった。

 

 ◆

 

 鑑賞後。

 明かりがつき、安堵の息が教室中に広がったかと思いきや──

 

「で、さっき手握ってたの、誰?」

 弘弥の何気ない問いが、戦争の火種となった。

 

「私だよ!」
 ルナが即座に挙手。

 

「いや、違う。私だよ」
 碧純も手を挙げる。

 

「……わたくしですわ」
 ミレーヌも、なぜか上品に主張。

 

「ちょっと待て!? じゃああの時、俺の両手は……!? 両手とも握られてたのか!?」

 

「私は後ろから肩越しに支えてたけど、手には触れてない」
 ひよりが冷静に補足。

 

「私は目の前で、震えてる弘弥くんの表情を観察してたから、違うわ」
 すみれも否定。

 

 しかし──
 ルナ、碧純、ミレーヌの三人は、譲らない。

 

「感触的には絶対右手は私だった!」
「いーや、兄の右手を握ったぬくもり、あれは私!」
「右か左かではなく、わたくしの想いが先に到達したのですわ!」

 

「いや、想いの到達とかじゃなくて!! 物理的な話しよう!? 今は物理の話を!!」

 

「じゃあ証拠出してよ」
 ルナが挑戦的に言った。

 

「その手、今握って確かめてみて。誰の手だったか、弘弥が感覚で答えて」

 

「そ、それはさすがに恥ずかし──」

 

「……いいわよ」
 すみれが目を伏せながら、そっと手を差し出した。

「私は“違う”ってわかってるけど……試してみてもいいんじゃない?」

 

「む、むしろ、試さないと誰も納得しませんわよ!」
 ミレーヌが同調。

 

 結局──

 弘弥は、目隠しをされた状態で、順番に手を握らされるハメになった。

 

「これ誰の手……?」

「……ルナ」

「はずれ!」

 

「これは?」

「碧純……?」

「うーん、正解かもしれないし、不正解かもしれない♥」

 

「次は……すみれさん……?」

「わたし、違うって言ったわよね?」

 

 こうして──
 **“誰の手でドキドキしたか選手権”**が開催され、
 弘弥の理性はガタガタと音を立てて崩れ始めた。

 

(手を……握るって、こんなに破壊力あるんだ……)

 

 思春期の男子にとって。
 “ぬくもり”という名の合法接触は──心臓に悪すぎた。

 

【つづく】
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