594 / 630
『現実誘惑バトル編』
【第五八三話】 『触れたのは誰の指──不意打ち手つなぎ事件』
しおりを挟む
「今日の青春接触テーマは“無自覚接触”よ!」
ルナの号令と共に、リビングの照明が落とされ、スクリーンにホラー映画のイントロが流れ出した。
「どうしてホラー!? 接触っていってもさ、もっとこう、穏やかな──」
「違うのよ弘弥。“怖い”って感情は、接触に正当性を与えるの」
すみれが神妙な顔で頷く。
「つまり、“驚いて手を握った”は、完全に合法接触」
「やめろ、感情を法的に分析するなああああ!!」
「ちなみに今日の配信タイトルは“青春×恐怖=距離0センチ”です」
ひよりが静かにカチッと録画ボタンを押した。
◆
弘弥は、中央のソファに座らされていた。
右に碧純、左にルナ、前にはすみれが床座り、後方にはひよりとミレーヌが並ぶ。
部屋の灯りは消され、スクリーンの映像だけが青白く揺れる。
タイトルは『鏡の中の彼女』。
日本の山村を舞台にした、静かで不気味な邦画。
(いやいやいや……これ怖いやつだろ……しかもこの距離感……)
開始5分で、耳元に風が吹き抜ける演出。
その瞬間──
「ひゃっ!?」
隣の誰かの手が、がしっと弘弥の手に絡みついた。
(うわっ!? なに!? 誰!?)
掌は細く、しかし温かく、微かに震えている。
まさに“驚いたときの反応”だった。
だが──
その手はすぐに離されなかった。
むしろ……指が、ほんの少しだけ絡みつくように動いてきた。
(え、これ、演技じゃなくて……リアル……?)
映画の恐怖演出とは裏腹に、弘弥の脳内では“誰の手か問題”でフル回転が始まる。
──右か? 左か?
──温度は? 触感は?
──ほんのり、柑橘系の香り……いや、これルナか? それとも……
だがそのとき、画面に“ギャアアアアア”と幽霊が出現。
全員が叫び、ドタバタと転げ回り──その“手”の主が誰かは、あやふやになってしまった。
◆
鑑賞後。
明かりがつき、安堵の息が教室中に広がったかと思いきや──
「で、さっき手握ってたの、誰?」
弘弥の何気ない問いが、戦争の火種となった。
「私だよ!」
ルナが即座に挙手。
「いや、違う。私だよ」
碧純も手を挙げる。
「……わたくしですわ」
ミレーヌも、なぜか上品に主張。
「ちょっと待て!? じゃああの時、俺の両手は……!? 両手とも握られてたのか!?」
「私は後ろから肩越しに支えてたけど、手には触れてない」
ひよりが冷静に補足。
「私は目の前で、震えてる弘弥くんの表情を観察してたから、違うわ」
すみれも否定。
しかし──
ルナ、碧純、ミレーヌの三人は、譲らない。
「感触的には絶対右手は私だった!」
「いーや、兄の右手を握ったぬくもり、あれは私!」
「右か左かではなく、わたくしの想いが先に到達したのですわ!」
「いや、想いの到達とかじゃなくて!! 物理的な話しよう!? 今は物理の話を!!」
「じゃあ証拠出してよ」
ルナが挑戦的に言った。
「その手、今握って確かめてみて。誰の手だったか、弘弥が感覚で答えて」
「そ、それはさすがに恥ずかし──」
「……いいわよ」
すみれが目を伏せながら、そっと手を差し出した。
「私は“違う”ってわかってるけど……試してみてもいいんじゃない?」
「む、むしろ、試さないと誰も納得しませんわよ!」
ミレーヌが同調。
結局──
弘弥は、目隠しをされた状態で、順番に手を握らされるハメになった。
「これ誰の手……?」
「……ルナ」
「はずれ!」
「これは?」
「碧純……?」
「うーん、正解かもしれないし、不正解かもしれない♥」
「次は……すみれさん……?」
「わたし、違うって言ったわよね?」
こうして──
**“誰の手でドキドキしたか選手権”**が開催され、
弘弥の理性はガタガタと音を立てて崩れ始めた。
(手を……握るって、こんなに破壊力あるんだ……)
思春期の男子にとって。
“ぬくもり”という名の合法接触は──心臓に悪すぎた。
【つづく】
ルナの号令と共に、リビングの照明が落とされ、スクリーンにホラー映画のイントロが流れ出した。
「どうしてホラー!? 接触っていってもさ、もっとこう、穏やかな──」
「違うのよ弘弥。“怖い”って感情は、接触に正当性を与えるの」
すみれが神妙な顔で頷く。
「つまり、“驚いて手を握った”は、完全に合法接触」
「やめろ、感情を法的に分析するなああああ!!」
「ちなみに今日の配信タイトルは“青春×恐怖=距離0センチ”です」
ひよりが静かにカチッと録画ボタンを押した。
◆
弘弥は、中央のソファに座らされていた。
右に碧純、左にルナ、前にはすみれが床座り、後方にはひよりとミレーヌが並ぶ。
部屋の灯りは消され、スクリーンの映像だけが青白く揺れる。
タイトルは『鏡の中の彼女』。
日本の山村を舞台にした、静かで不気味な邦画。
(いやいやいや……これ怖いやつだろ……しかもこの距離感……)
開始5分で、耳元に風が吹き抜ける演出。
その瞬間──
「ひゃっ!?」
隣の誰かの手が、がしっと弘弥の手に絡みついた。
(うわっ!? なに!? 誰!?)
掌は細く、しかし温かく、微かに震えている。
まさに“驚いたときの反応”だった。
だが──
その手はすぐに離されなかった。
むしろ……指が、ほんの少しだけ絡みつくように動いてきた。
(え、これ、演技じゃなくて……リアル……?)
映画の恐怖演出とは裏腹に、弘弥の脳内では“誰の手か問題”でフル回転が始まる。
──右か? 左か?
──温度は? 触感は?
──ほんのり、柑橘系の香り……いや、これルナか? それとも……
だがそのとき、画面に“ギャアアアアア”と幽霊が出現。
全員が叫び、ドタバタと転げ回り──その“手”の主が誰かは、あやふやになってしまった。
◆
鑑賞後。
明かりがつき、安堵の息が教室中に広がったかと思いきや──
「で、さっき手握ってたの、誰?」
弘弥の何気ない問いが、戦争の火種となった。
「私だよ!」
ルナが即座に挙手。
「いや、違う。私だよ」
碧純も手を挙げる。
「……わたくしですわ」
ミレーヌも、なぜか上品に主張。
「ちょっと待て!? じゃああの時、俺の両手は……!? 両手とも握られてたのか!?」
「私は後ろから肩越しに支えてたけど、手には触れてない」
ひよりが冷静に補足。
「私は目の前で、震えてる弘弥くんの表情を観察してたから、違うわ」
すみれも否定。
しかし──
ルナ、碧純、ミレーヌの三人は、譲らない。
「感触的には絶対右手は私だった!」
「いーや、兄の右手を握ったぬくもり、あれは私!」
「右か左かではなく、わたくしの想いが先に到達したのですわ!」
「いや、想いの到達とかじゃなくて!! 物理的な話しよう!? 今は物理の話を!!」
「じゃあ証拠出してよ」
ルナが挑戦的に言った。
「その手、今握って確かめてみて。誰の手だったか、弘弥が感覚で答えて」
「そ、それはさすがに恥ずかし──」
「……いいわよ」
すみれが目を伏せながら、そっと手を差し出した。
「私は“違う”ってわかってるけど……試してみてもいいんじゃない?」
「む、むしろ、試さないと誰も納得しませんわよ!」
ミレーヌが同調。
結局──
弘弥は、目隠しをされた状態で、順番に手を握らされるハメになった。
「これ誰の手……?」
「……ルナ」
「はずれ!」
「これは?」
「碧純……?」
「うーん、正解かもしれないし、不正解かもしれない♥」
「次は……すみれさん……?」
「わたし、違うって言ったわよね?」
こうして──
**“誰の手でドキドキしたか選手権”**が開催され、
弘弥の理性はガタガタと音を立てて崩れ始めた。
(手を……握るって、こんなに破壊力あるんだ……)
思春期の男子にとって。
“ぬくもり”という名の合法接触は──心臓に悪すぎた。
【つづく】
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる