同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『ハワイアンズ旅行編』

第五八八話『移動中から全力──サービス過剰バスツアー』

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 まだ目的地には着いていない。

 まだ、着いていないのに──

「はぁ、はぁ……ここ、戦場じゃねぇか……」

 俺こと真壁弘弥は、バスの中、まさかの最前列シート中央で汗をぬぐっていた。

 今、俺は「ヒロインズ全員による車内誘惑耐久戦」の真っ只中にいた。

 この地獄(あるいは天国)は、バスが走り出してわずか10分後から始まった。

「弘弥くん、肩、凝ってない?」

 すみれが微笑を浮かべながら、俺の肩にふわりと触れた。その指先は冷たく柔らかく、どこか……色っぽい。

「え、いや、大丈夫……です」

「ふふ、そうやって我慢ばかりしてると、青春が腐ってしまうわよ?」

 うまく返せない俺の隣では、ルナがむくれ顔でいきなり俺の膝に頭を乗せてきた。

「は? ちょ、ルナ!? なに膝枕して──」

「移動中は寝るっしょ。だいたい、すみれだけズルい! 弘弥の左肩は私がキープするから!」

「いやいやいや、そもそもこれバスの中だよ!?」

「だから何? 揺れるし、寄りかかりたくなるじゃん」

 膝枕と肩占領。すでに両サイドを制圧されているというのに──

「……右手、失礼しますね」

「え、ひより?」

 一ノ瀬ひよりは俺の右手をスッと取った。

「移動中に握った手の温度を測って、青春反応を計測中です」

「そ、それは何の科学的意味があるの!?」

「“愛”です」

「測定の答え、重すぎぃ!」

 それだけでは終わらない。

 後部座席から前の通路をそろそろと進んで来る黒い影。碧純だ。

「……兄、忘れたの? こういう旅行では“誰かの足に頭を乗せる”っていう伝統があるの。たぶん」

「いや、聞いたことないよ」

 そう言いながらも、気がつけば俺の太ももには碧純の柔らかい後頭部が……

「ちょ、碧純、ルナが今、俺の膝枕──!」

「うるさい。兄の太ももは“予約制”です」

 すでにこの時点で、俺は

 肩:すみれ

 右手:ひより

 左太もも:碧純

 膝:ルナ

 という限界多角同時接触状態に突入していた。

「先生……まさか、ここに“余ってるスペース”があるなんて思ってませんでしたの!」

 最後に現れたのは、異国のお姫様・ミレーヌ。

 彼女は俺の前に立ち、俺の足の間にすっぽり座り込んだ。

「ミ、ミレーヌ!? それはさすがに……!」

「これは“この国の移動文化”だと聞きましたの。女子が男子の間に座って、交流を深めるのが通例……ですのよね?」

「それ、誰情報!?」

「インターネットですの♥」

 すべて嘘だった。

 だが、すでに誰も止められない。

 窓の外では、青空が広がっていた。ハワイアンズの緑とスライダーが見えてくる。

 だがその車内では、すでに俺の理性は8割削られていた。

(……だめだ、今日絶対鼻血出す)

 そう確信し、そっと鼻の下をぬぐう。

「そろそろ着きますよー!」

 運転席からガイドのアナウンスが響く。

 俺の青春は、すでに目的地に到着する前に溺れていた。
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