同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

『文化祭準備編──青春爆走、正妻戦争リターンズ！』

【第六〇三話】 『動き出す準備──クラス企画会議、開幕！』

「じゃあ──文化祭の出し物、そろそろ決めないとね」

　放課後、教室の黒板の前に立つ学級委員長・すみれが静かに口を開くと、ざわついていたクラスの空気がぴたりと止まった。日が傾き始めた教室に西日が差し込み、緩やかな時間の中で議題だけが重く響いた。

　文化祭──それは、学園最大のイベント。
　生徒たちが一致団結し、熱と情熱をぶつけ合い、思い出に爪痕を残す舞台。

　……のはずが。

「とりあえずさ、メイド喫茶、これにしない？　やっぱ定番でしょ？　男どもも食いつくし、女子もかわいくなれるし！　アタシ、黒タイツの準備できてるよ！」

　ルナが前のめりで言った瞬間、碧純が「はあ！？ 真面目な出し物にしようよ！」と即座に食いかかった。

「兄がクラスで“メイド喫茶担当”とか、絶対変な妄想されるに決まってるじゃん！」

「いやでもさ、VTuber系のステージショーもいいと思うんだけど？」
　とことねが手を挙げ、タブレットに表示した“推し衣装デザイン”をクラスに見せる。

「この衣装、動くとちゃんと光るんだよ！　演出もバーチャルで仕込めるし！」

「それはそれでお兄ちゃんがVRゴーグル付けて鼻血出す未来しか見えない」
　と碧純がまたしても刺すようなツッコミ。

　一方で、ひよりは教卓の前で「科学実験ショーとかどうかな……」と呟いていた。

「ドライアイスで人工雲を作ったり、リトマス試験紙でpH変化見せたり……うふふ、意外と盛り上がりますよ？」

　その隣では、ミレーヌが「ならばわたくしは“世界のお菓子屋さん”という提案をいたしますの」と、自国の伝統菓子について熱弁。

「フランス文化と和の融合……まさに今、この学園で必要な多様性ですの！」

　議題は迷走。誰もが譲らず、あらゆる方向から飛び交う企画案が混沌を極める。
　ひとつの黒板に、あらゆるジャンルが書き連ねられ、すでに収拾不能の気配すら漂っていた。

「みんな……！ ちょっと、一旦落ち着こうっ」

　中心で、学級委員長すみれが手を叩いて全体を制した。

「こんなに意見が出るのは素晴らしいこと。でも、時間もないし、方向性を決めていかないと──」

「だったら全部やればいいんじゃね？」

　その言葉を発したのは、当の中心人物──真壁弘弥だった。

　机に頬杖をついたまま、ぼんやりと黒板を見上げながらのひとこと。だがそれは、教室に爆弾のような衝撃を走らせた。

「「「……は？」」」

　一斉にヒロインたちとクラスメイトが声を上げる。

「いや、だって。どれも面白そうだし、みんなの“やりたい”が詰まってるし……どうせなら、“混ざったカオス”で文化祭、やってみたらいいんじゃないかなって」

　弘弥は照れ笑いを浮かべながらも、どこか真剣な眼差しでそう言った。

「だって、俺たちのクラス──変な意味で一体感あるじゃん？」

　その一言に、教室に静寂が落ちる。
　だが、それはじわじわと笑いと熱を呼び起こす沈黙でもあった。

「たしかに……クラスの中に科学班とメイド班と和文化班とオタク班が共存してるのって、わりと奇跡だよね」
「むしろ全部入り文化祭ブース、やってやろうぜ！」
「一日限りの、“カオス総合体験エリア”だー！」

　賛成の声が次々と上がり、結果──

　**『メイド喫茶＋科学ショー＋和菓子＋VTuberステージ＋海外展示』**という、
　常軌を逸した“全部入り文化祭ブース”が爆誕するのだった。

　こうして、クラス全員での準備がスタート。

　弘弥の周囲では、すでにヒロインたちが「誰が最も弘弥と一緒に準備できるか」でバチバチと火花を散らしていた。

「じゃあ、わたし、メイド喫茶の衣装係やるね。ね、弘弥くん。採寸、手伝って？」

「俺、お兄ちゃんと科学ブースの展示作るから！ 測定器の扱い方、教えてもらう！」

「お兄様、試食係はそちらで務めていただけると……お口に入れて、味のフィードバックをお願いしたく♥」

「わ、私は……静かに台本でも書きますわ。弘弥くんと二人きりで、脚本作成会議とか……べ、別に楽しみとか、そういうんじゃ……！」

「うるせえよてめえらああああああああ！！！」
　碧純の絶叫が、廊下にまで響いたのは言うまでもない。

　こうして文化祭準備編は、前代未聞のカオスの渦と共に、その幕を開けたのだった。

　──つづく