同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『選択の文化祭──誰と“その先”へ行くのか』

【第六一一話】 『午後の自由行動──選ばれるのは、誰?』

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 午後一時、文化祭のピークがひと段落し、放送委員の生徒が校内放送で宣言する。

「これより、午後の自由行動タイムに入ります。校内の模擬店や展示、舞台、スタンプラリーを楽しんでください」

 

 その瞬間──。

 

「さてと。弘弥くん……このあとの予定、あるよね?」

「兄、まだ団子ブース付き合ってくれてないよね?」

「わたくしの“和風ワイン体験ブース”、今日限りの特別企画ですの」

 

 文化祭最大の地雷タイムが、静かに、そして確実に幕を開けた。

 

 昼食を終えようとしていた弘弥のトレーを囲むように、ヒロインたちが“偶然”を装って次々と現れる。

 

「ねぇ、弘弥。今日の午後、まだ予定ないなら……さ、さすがに付き合ってくれるよね?」

 ルナが目を逸らしながら、だが腕はしっかりと弘弥の制服の袖をつまんでいる。

 

「えっと……でも、兄は私との約束が──」

 碧純が即座に“兄専用スケジュール帳”を取り出し、「午後一時~三時、空白。つまりこの時間は予約可能」と主張する。

 

「弘弥くん、喫茶室での読書体験ブース。私、付き合ってもらいたいの」

 すみれが静かに微笑みながら言うと、後方からガタガタと机を倒すような勢いでミレーヌが割って入った。

 

「い、いけませんわ! そういう静かな場所こそ、“特別な時間”になるのですの! つまり、わたくしの領分ですの!」

 

 その横で、ひよりは無言で“観察ノート”を開き、さらさらと何かを書き込んでいる。

「文化祭後半における“手を繋いだ回数”統計開始。目視確認でデータ補正……」

 

 ことねはというと、すでに“文化祭午後ペア投票”という配信枠を立ち上げていた。

 

『【速報】午後ペア戦争開始のお知らせ』
 ──コメント欄──
【すみれ派】読書ブースが優勝候補!
【ルナ派】射的からの手つなぎデート強すぎ
【碧純派】家族力(ブラコン)最強説ある
【ことね派】推しカメラ視点の勝利を見届けよ!

 

 ──弘弥は、目の前の昼食のたまごサンドを見つめながら思った。

(……喉、通らねぇ)

 

 文化祭の午後。

 本来ならばクラスごとの出し物や、のんびりと回る友人たちとの時間。恋人同士が手を繋ぎ、校舎裏で告白なんて光景も見られる甘酸っぱい時間帯。

 

 しかし今、弘弥の目の前には──

 恋心むき出しのヒロインたちが、己の青春と欲望を背負って立っていた。

 

「じゃ、決めよう。誰と一緒に文化祭回るか」

 すみれが静かに提案したその声で、一同の空気がピリッと緊張に変わる。

 

「……誰かひとりを選ぶ、ってこと?」

 弘弥の声が震える。

 

「ま、まさかそれで、残りの人は……?」

 

「もちろん──負け、ですわね」
 ミレーヌが美しく宣言する。

 

「この自由行動タイムは、**“誰と青春の午後を過ごすか”**が勝負なの」

 すみれの声に、どこか甘くて、そして厳しい響きがあった。

 

「配信も一時中止。リアルで動くわ」
 ことねがスマホをスリープモードにして、マイクを外す。

 

「……文化祭の“午後”って、特別なんだよ」

 ルナがぼそりと呟いた。

「もしも、もしもだけど──誰かが“好き”って言ったらさ。弘弥、ちゃんと聞いてくれる?」

 

 弘弥は喉が鳴るのを止められなかった。

(こんなの……もう逃げ場ないじゃん)

 

 背筋にうっすら汗が滲む。制服の下に貼った冷えピタが剥がれかけている。

 文化祭という空間が、校内の熱気と共に一気に“恋”に染まっていくのを、彼はひしひしと感じていた。

 

「それじゃあ、弘弥さん──」

 すみれが柔らかく、でも真っ直ぐに尋ねる。

 

「午後の文化祭、誰と一緒に回りますか?」

 

 ──心臓の音だけが、教室に響いた。

 

 そして、物語は次の選択へ向かって動き始める。

 

 ──つづく
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