同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『選択の文化祭──誰と“その先”へ行くのか』

【第六一二話】 『下駄箱の前で待ってる──作戦開始』

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 午後一時半。

 文化祭の午後自由行動タイム、開幕からわずか数十分。
 だというのに──弘弥はすでに、下駄箱の前で五分以上立ち尽くしていた。

 

「……なんで、こんなに足が動かないんだろう」

 白い上履きを脱いで、黒いローファーに履き替える。それだけの行為すら、胃が重くなる。

 理由は明白だった。

 

 ──この数分の間に、“全ヒロインが、別ルートで待ち構えている”ことが判明したからだ。

 

 ルナは、射的ブース前で仁王立ちしていたという。

「弘弥が来たら、一緒に撃ちまくって、最後に“願いごと”聞かせてもらうからねっ♪」
 そんな宣言がクラスLINEで共有された瞬間、弘弥の足は止まった。

 

 碧純は、体育館裏の特設ステージ近くで“弁当ブース”を設営中。

「兄は私と一緒に食べるのが当たり前だよね?」
 彼女の得意料理であるだし巻き卵入りのランチボックスが、もう三段用意されているという。

 

 すみれは、茶道部が貸し出している和室にて──

「弘弥くん、よかったら一緒に和菓子を……。ふふ、ひとつだけ、“恋結び”っていう名前なんだけど」

 その表情が、どれだけ破壊力のある“笑み”だったかは、文化委員が後に「一瞬空気止まった」と語っている。

 

 さらに──

 

 ことねは、*“ことね視点・弘弥ルート決定戦”*と銘打ち、突発的な実況配信を開始。

 

 📱『#文化祭午後は誰と?』
「皆さん、今日の午後、真壁くんと一緒に回るべきヒロインは誰だと思いますか? 投票開始です♥」
 コメント:
【すみれでしょ!あの和菓子ずるい】
【ルナの射的→願いごとはRPGのイベント】
【碧純の飯テロ写真つよ……】
【ことね様は配信しながら推しを奪うスタイル】

 

「……完全に戦場だろ、これ」

 

 弘弥は、己の上履きを見つめる。

 “ただ靴を履き替えるだけの空間”が、“誰を選ぶかという青春の分岐点”に変貌しているこの状況が信じられなかった。

 

 足音がした。

 ゆっくりと誰かが近づいてくる。

 

「……弘弥?」

 

 振り向くと──そこにいたのは、ミレーヌだった。

 異国から来た金髪の美少女は、白い文化祭用ブラウスに刺繍入りのカーディガンを羽織り、やや頬を染めて立っていた。

 

「い、今、お一人でしたのね……?」

「そ、そうだけど……」

 

「でしたら……その、もしもお時間があれば──わたくしと、“異文化屋台”の方へ……」

 言い終えるよりも早く、どこからともなく複数の視線が突き刺さる。

 

 ──ルナ、体育館裏から双眼鏡。
 ──碧純、弁当持って物陰から。
 ──すみれ、和菓子の箱片手に廊下の角。
 ──ことね、スマホを掲げて実況中。

 

「あわわっ……み、見られてますの!? わ、わたくし、ただの偶然を装って──」

「……無理ありすぎるでしょ」

 弘弥が苦笑する。

 

 そして、ポケットの中にあるペアチケットをそっと握った。

 これは、午後の自由時間の“特別イベント”──校庭奥の観覧スペースで行われる“後夜祭ミニ上映会”の、二人専用チケット。

 

 弘弥は思う。

(これを誰に渡すか──それが、午後を誰と過ごすか、ってことなんだよな)

 

 足が重くなる。
 心が熱くなる。
 視線が痛くなる。

 それでも、決めなければいけない。

 

 だが──。

 

「……迷ってる?」

 

 ふいにすみれの声がした。

 さっきまで廊下の影にいた彼女が、そっと弘弥の隣に並ぶ。

 

「いいの。迷って。青春って、そういうものでしょ」

 すみれが、優しく笑った。

 

「でも、誰かが泣いちゃう前に──決めなきゃ、だよね」

 

 弘弥は、握っていたペアチケットを見つめる。

 その紙切れ一枚に、自分の青春と、誰かの気持ちが重なるなんて、想像すらしていなかった。

 

(俺は、誰と──)

 

 その選択は、次第に避けて通れぬ“運命”へと形を変えていく。

 

 そして、午後の太陽が角度を変える頃──

 弘弥は、足を一歩、踏み出した。

 

 ──つづく

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