同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『選択の文化祭──誰と“その先”へ行くのか』

【第六一三話】 『ペアチケット──特別イベントの鍵』

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「今年の文化祭、特別イベントがあるらしいぜ」
「なになに、夜の星空上映会? なにそれロマンチックすぎない?」

 

 昼休みが終わり、自由行動の時間が本格的に動き出した午後二時。廊下に貼られた一枚の告知ポスターが、校内の空気を一変させた。

 

 ――《文化祭特別企画:星空下の後夜祭上映会》

 “特別な相手と見ると、願いが叶うかも?”

 ※ペア専用チケット制。ペア成立者のみ入場可。

(場所:校庭特設スクリーン/時間:19:00~20:30)

 

「ペア専用……!?」

 

 弘弥は掲示を見て思わず声を漏らした。

 

 文化祭の最後を飾るイベント──それが、夜空の下で行われるロマンチックな野外上映会だった。しかも“ペア専用”と来た。つまり誰かとペアにならなければ参加できない。

 

 手元には、配布されたばかりの“ペアチケット”が一枚。

 ペアの片方が持つことで、もう一人を指名し、入場が許される。

 

(これって……実質、告白タイムじゃないか!?)

 

 理解した瞬間、弘弥は心拍数が爆上がりした。手の中のチケットが灼けるように熱い。

 

「弘弥ーっ!」

 その時、校舎の反対側から走ってきたのはルナだった。

「ペアチケット、もらったー!? なにそれ、運命案件じゃない!?」

「え、あ、いや、まぁ……」

「あのさ、もしアタシが今、超運命的な再会シチュで告白したら──受け取る?」

「ちょ、ちょっと落ち着け、ルナ!」

 

「弘弥くん……」

 すぐにすみれが現れ、静かな声で語りかける。

「後夜祭って、毎年“本気のペア”が出る場所だって聞いてるの。……あなたは、誰を選ぶの?」

「え、いや……あの、それは……」

 

「弘弥さん」
 後方から声をかけたのはミレーヌだった。

「この国の文化祭は恋愛と繋がりすぎてますの! ペアで過ごす? はっきり言って、戦争ですの!」

「お、おちついてミレーヌ。顔がこわい……!」

 

「兄ぃ……」

 碧純が胸の前で手をぎゅっと握りしめている。

「今日の午後、あの上映会に誰と行くのか……それが、全部を決めちゃう気がするの」

 

(やめてくれ……プレッシャーがやばい……)

 

 ――ヒロインたちの目が、チケットへ、そして弘弥へと注がれる。

 まるで、その一枚の小さな紙が、この文化祭、いや、彼の青春の“選択”そのものを背負っているかのようだった。

 

 その場をなんとかやり過ごした弘弥は、教室へ戻るふりをして、ふらりと空き教室に入った。

 

 がらんとした無人の部屋。午後の光が静かに差し込む。

 彼はひとり、机に座り、封筒からチケットを取り出す。

 

 片手で持つには軽すぎる。だがその“重さ”は、肩にどっしりとのしかかってくる。

 

(誰かを選ぶって……誰かを、選ばないってことになるんだよな)

 

 ルナはいつも明るく、誰より近い距離で向き合ってくれる。
 すみれは静かに、でも強く、僕の物語を読んでくれる。
 碧純は妹だけど──もうそれ以上の気持ちで僕に向き合ってるのが分かる。
 ひよりは、僕のことをずっと観察してきて、誰よりも“分かろう”としてくれる。
 ミレーヌは、不器用でまっすぐで、僕の国にまで来てくれた。
 ことねは、世界に僕の作品を広めてくれて、裏でもずっと支えてくれてる。

 

 ──選べない。

 そんなこと、選べるはずがない。

 

「でも……誰かを誘わなきゃ、入れない」

 そう呟いて、弘弥はチケットを机の上に置いた。

 

 そのとき、そっと開いた扉から一人、静かな足音が聞こえた。

 

「悩んでるの?」

 現れたのは、意外にもエレノアだった。彼女は異国の姫であり、普段は控えめな立ち位置にいる。が、今この瞬間、彼女の瞳には一切の遠慮がなかった。

 

「わたくしも……“選ばれたい”と思ってしまうのですのよ」

 

「エレノア……」

「でも、強くなければ、“あなたの隣”には立てない。だから今は、ただ伝えますの」

 

 彼女はほんの少しだけ微笑んで、チケットを見下ろした。

「それ、あなたが選ぶチケット。誰かを選んでも、きっと誰かは泣いてしまう……それでも、“あなたの選択”であってほしいのですわ」

 

 弘弥は言葉を失った。

 

 静かに、エレノアは背を向け、部屋を出て行った。

 

(俺は……ちゃんと向き合わなきゃいけないんだ)

 

 手元のチケットが、まるで炭火のようにじわりと熱くなっていくのを感じた。

 

 

 ──つづく。
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