『おしっこパニックで恋が始まる!?』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第113話『救世主、ケント参上!?』

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「エミリー!!」

「その角度をキープだ!!」

「そうそう、そのまま! 重心低く!!」

 教室裏の女子トイレ前は、
 すでに完全なカオスと化していた。

 クラスメイトたちは応援団と化し、
 ハルカたちは「しゃがみ講座」を必死で続け、
 エミリは汗だくになりながらがんばっている。

「なんだこの空間……」

 あきれた声が、ふと背後から聞こえた。

 振り返ると──

 そこには、
 ケントがいた。

 相変わらず無表情、
 でもどこか呆れた目つきで、
 みんなを見下ろしていた。

「ケント……!」

 ハルカが思わず声を上げた。

(やばい、見られた……! この地獄みたいな光景……!)

 しかしケントは、
 ため息ひとつついただけで、
 スタスタとエミリの方へ歩いていった。

「……見てらんねえな」

 ぽつりと呟くと──

 しゃがみ込んで、
 自分で実演を始めた。

「いいか、まず重心は──」

 淡々とした口調で語り出す。

「つま先に乗せろ。重心が後ろだと尻もちつく」

「膝を深く曲げて、腰を落とす」

「上半身は少しだけ前傾」

「ほら、こうだ」

 ケントがサッと完璧な和式しゃがみポーズを決めた。

「「おおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」

 一同、盛大にどよめく。

「な、なにこれ……無駄に美しい……!」

「姿勢がプロだ……!」

「ケント、何者なんだ……!!」

 男子も女子も、
 みんな目を輝かせていた。

(え、なにこれ……ケントってこんなに、万能だったの!?)

 ハルカは心の底から驚いた。

 しかし──

 さらに驚くことが起きた。

 エミリが。

 そのケントに。

 ほわぁぁぁぁぁぁ……と。

 頬を染めながら、
 見惚れていたのだ。

「す、すばらしいです……!!」

「先生、わたくしも、その技を……!!」

「先生!?」

 誰かがツッコミを入れる間もなく、
 エミリはキラキラした目でケントを見つめていた。

(……ちょっと待て)

 ハルカは、
 胸の奥が、ぎゅっとするのを感じた。

(なにこの……モヤモヤ……)

 エミリは、別に悪くない。

 ケントだって、別に悪いことはしていない。

 でも。

 でも──!

 エミリがケントを、
 あんなふうに見つめているのを見ると。

 なんか。

 すっごく。

 ムカつく!!!!

「……っ!」

 ハルカは、
 ぎゅっと拳を握りしめた。

 ***

「はい、まずこの姿勢を覚えろ」

 ケントは冷静に言った。

「できるまで繰り返しだ」

「はい、先生!!」

「先生言うな」

 無表情でツッコむケント。

 エミリは、
 本当にうっとりした顔で、
 ケントの指導を受けていた。

 その横で──

 ハルカは、
 ずっとぐるぐるしていた。

(な、なにこれ!?)

(私、なんでこんなにイライラしてんの!?)

 自分でもわからない感情に振り回されて、
 心の中で大パニックだった。

(ケントはケントだし、エミリはエミリだし……)

(別に……別に、私は関係ないし!!)

 でも。

 目が、自然と、ケントとエミリを追ってしまう。

 そして、追うたびに。

 胸がきゅっと、苦しくなる。

(やだ……なにこれ……)

 ハルカは、
 胸を押さえた。

 ドキドキしてる。

 でも、いつものドキドキとは違う。

 嬉しいとか、楽しいとかじゃない。

 もっと、
 苦しい。

 そんな、初めての感情だった。

 ***

「……さて、そろそろ本番いくか」

 ケントが言った。

「はいっ!!」

 エミリが、
 ぴしっと立ち上がる。

 周囲の応援団も、
 再び盛り上がり始めた。

(……)

 ハルカは、
 一人だけ、静かにその様子を見つめていた。

 ドタバタの渦の中、
 ただ一人。

 自分の心と、
 必死に戦っていた。

(続く)
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