『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第4話『堕ちる妹──初めての推しとの遭遇』】

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「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」

 私は、必死に自分の中の何かと戦っていた。

 ここは秋葉原、聖地ど真ん中。
 どこを向いても、二次元の美少女たちが微笑みかけてくる。

(負けない……負けない……!!)

 心の中で必死に叫びながら、私は小さな歩幅でフィギュアショップの中を進んでいた。

 ──そのとき。

 目に飛び込んできたのは、
 棚の一角、ガラスケースの中に飾られていた、ひとつのフィギュア。

 小さな女の子。
 ふわふわの白い髪に、大きな赤いリボン。
 うるうるした瞳で、こちらを見上げている。

(……かわいい)

 思わず、足が止まった。

(なに、この子……)

 胸の奥が、きゅうっと締めつけられる感覚。

 こんなふうに、
 ただ"存在している"だけで、
 こんなにも愛おしいって、あるんだろうか。

(かわいい……こんな子が、いるんだ……)

 心臓が、ドクン、と鳴った。

 危険な音だった。

「ふふっ」

 すぐ隣で、紗季ちゃんの甘い笑い声が聞こえた。

「見つけちゃったんだね、英梨ちゃんの“推し”を♡」

「──!!」

 私は、びくりと身体を震わせた。

「ち、ちがっ……! ちがうもん!!」

 全力で否定する。

「ただ、ちょっと……ちょっとだけ、かわいいなって思っただけで!!」

「それが“推し”の第一歩だよ♡」

「ちがああああああう!!」

 叫んだ。

 だって、だって私は──

 お兄ちゃんを助けに来たんだ。
 オタクの世界に、屈するためじゃない!

 こんなところで、負けるわけには──

「でもね、英梨ちゃん」

 ふわりと、紗季ちゃんが耳元に囁く。

「一度、推しを見つけたら……もう、元には戻れないんだよ?」

 ぞくり、と背筋が冷たくなった。

 私は、ぶんぶんと頭を振った。

「戻るもん!! 私は……オタクになんか、ならないもん!!」

「ふふふ♡」

 紗季ちゃんは、余裕たっぷりに笑った。

「大丈夫、大丈夫。怖がらなくていいんだよ?」

「怖いんだよ!!」

「推しはね、生きる力になるんだよ? 毎日が、キラキラするんだよ?」

「いらない!!」

 震える声で、叫んだ。

 だって、そんなの……
 そんなの、認めたら──

 私まで、お兄ちゃんみたいに、
 遠い世界へ行ってしまう気がして。

(怖い……)

 自分の中で、何かが変わってしまいそうで。
 それが、怖かった。

 私は、必死に目を逸らした。

 だけど。

 どうしても。

 さっき見た、あの白い髪の少女のフィギュアが、頭から離れなかった。

 あの、うるうるした瞳が。
 小さな手が。
 ふわふわ揺れるリボンが。

(……かわいかったな)

 そう思ってしまった自分が、
 何より怖かった。

「英梨ちゃん」

 紗季ちゃんが、やさしく微笑む。

「もし、英梨ちゃんがオタクになったら──私、全力で歓迎するね♡」

 その笑顔は、
 悪魔みたいに甘かった。

「ならないっ!!」

 私は、叫びながら店を飛び出した。

 走った。

 秋葉原の街を、
 人波をかきわけながら、必死に走った。

(逃げなきゃ……!)

(逃げなきゃ……オタクになっちゃう!!)

 はあはあと肩で息をしながら、
 私は駅のホームのベンチに座り込んだ。

 ポケットから、作戦ノートを取り出す。

 目標:利家お兄ちゃんのオタク卒業。
 手段:推し禁止/オタ活排除。

 そこに、自分で書き殴った文字。

(私まで……推し、できちゃったら……)

 手が、ぶるぶる震えた。

 ──大丈夫。
 私は、違う。

 私は、オタクになんか、ならない。

 そう自分に言い聞かせながら、
 私はもう一度、ぎゅっとノートを抱きしめた。

 でも──

 胸の奥に、小さな違和感が、
 確かに芽生えていた。

 あの子──

 あの白い髪の、小さな天使みたいな女の子が、
 にっこりと笑う幻が、頭から離れなかった。

 ──つづく。
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