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第2章 新たな青春戦線──変わりゆく距離と、交差する想い
【第12話『揺れる心──私だって、推しが欲しい』】
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秋葉原駅のホームで、私はぼんやりと立っていた。
帰りの電車は、思ったより空いていた。冷房の風が心地よくて、さっきまでの熱気が嘘みたいだった。
「楽しかったなぁ」
隣で、お兄ちゃん──利家が、心底幸せそうに呟いた。
私は、うん、と小さく頷いた。確かに、楽しかった。最初は不安だったけど、気づけば笑っていて、夢中になっていた。グッズ売り場で、ガチャガチャ回して、限定ブロマイドを喜んで。それを見て、私まで嬉しくなって。
(推し活って、こういうことなんだ)
大げさじゃなく、世界がちょっとだけ、明るくなった気がした。
電車が滑り込んできた。私たちは乗り込んで、並んで座った。私は、リュックの中に入れた小さな缶バッジをそっと撫でた。つい買ってしまった、推しキャラのグッズ。これを手に入れた時、胸がじんわりと温かくなったのを覚えている。
(……あたしも)
ふと、そんな考えが頭に浮かんだ。
(私も、何かを、全力で好きになりたい)
そんなふうに思ったのは、たぶん、初めてだった。
子供の頃は、何も考えずにお兄ちゃんが一番だった。だけど、今は違う。お兄ちゃんはもちろん大切だけど、それとは別に、自分だけの「大好き」を見つけたいって思った。
「英梨?」
お兄ちゃんが、不思議そうに私を見た。
「ううん、なんでもない」
私は、慌てて笑った。たぶん、顔に出てたんだと思う。なんだか恥ずかしくて、視線をそらした。
窓の外を流れていく夜の街。ビルの灯りが、川みたいにキラキラ流れていく。
(私にも、推しって、できるのかな)
ちょっとだけ、不安だった。私は、そんなに情熱的な方じゃない。好きなものに一直線になれるタイプでもない。それでも、今日感じたあのドキドキを、もう一度味わってみたいって思った。
ふと、となりを見る。
お兄ちゃんは、リュックを抱えたまま、座席にぐったりもたれている。きっと疲れたんだろう。けれど、その顔はすごく満足げだった。
(……いいな)
心から好きなものがあって、それを全力で楽しめる人。それって、きっとすごく強い。羨ましかった。私も、そんなふうになれたらいいのに。
電車が揺れるたびに、お兄ちゃんの肩がちょっとだけ私の方に傾く。そのたびに、ドキドキしてしまう自分に、思わず苦笑した。
(私……まだまだだなぁ)
そんなふうに思いながら、私はそっと、缶バッジをリュックのポケットにしまった。
家に帰ったら、改めて探してみようと思う。
私だけの、大好きなものを。胸を張って「好き」って言えるものを。
推し活って、きっと、誰かに強制されるものじゃない。誰かに理解されなくても、誰かに笑われても、それでも「好きだ」って言えるものなんだ。
そんなふうに、思った。
電車は、やがて私たちの街へと戻ってきた。降りる駅が近づいて、私はそっと立ち上がる。
お兄ちゃんも、眠そうな顔をしながら、立ち上がった。
「帰ったら、アイス食べようぜ」
「……うん」
他愛もない会話。でも、それがすごく嬉しかった。
(あたし、これから少しずつでもいい)
(自分の「好き」を、大事にできるようになりたい)
そんなことを思いながら、私は夜風の吹き抜ける駅の改札をくぐった。
──つづく。
帰りの電車は、思ったより空いていた。冷房の風が心地よくて、さっきまでの熱気が嘘みたいだった。
「楽しかったなぁ」
隣で、お兄ちゃん──利家が、心底幸せそうに呟いた。
私は、うん、と小さく頷いた。確かに、楽しかった。最初は不安だったけど、気づけば笑っていて、夢中になっていた。グッズ売り場で、ガチャガチャ回して、限定ブロマイドを喜んで。それを見て、私まで嬉しくなって。
(推し活って、こういうことなんだ)
大げさじゃなく、世界がちょっとだけ、明るくなった気がした。
電車が滑り込んできた。私たちは乗り込んで、並んで座った。私は、リュックの中に入れた小さな缶バッジをそっと撫でた。つい買ってしまった、推しキャラのグッズ。これを手に入れた時、胸がじんわりと温かくなったのを覚えている。
(……あたしも)
ふと、そんな考えが頭に浮かんだ。
(私も、何かを、全力で好きになりたい)
そんなふうに思ったのは、たぶん、初めてだった。
子供の頃は、何も考えずにお兄ちゃんが一番だった。だけど、今は違う。お兄ちゃんはもちろん大切だけど、それとは別に、自分だけの「大好き」を見つけたいって思った。
「英梨?」
お兄ちゃんが、不思議そうに私を見た。
「ううん、なんでもない」
私は、慌てて笑った。たぶん、顔に出てたんだと思う。なんだか恥ずかしくて、視線をそらした。
窓の外を流れていく夜の街。ビルの灯りが、川みたいにキラキラ流れていく。
(私にも、推しって、できるのかな)
ちょっとだけ、不安だった。私は、そんなに情熱的な方じゃない。好きなものに一直線になれるタイプでもない。それでも、今日感じたあのドキドキを、もう一度味わってみたいって思った。
ふと、となりを見る。
お兄ちゃんは、リュックを抱えたまま、座席にぐったりもたれている。きっと疲れたんだろう。けれど、その顔はすごく満足げだった。
(……いいな)
心から好きなものがあって、それを全力で楽しめる人。それって、きっとすごく強い。羨ましかった。私も、そんなふうになれたらいいのに。
電車が揺れるたびに、お兄ちゃんの肩がちょっとだけ私の方に傾く。そのたびに、ドキドキしてしまう自分に、思わず苦笑した。
(私……まだまだだなぁ)
そんなふうに思いながら、私はそっと、缶バッジをリュックのポケットにしまった。
家に帰ったら、改めて探してみようと思う。
私だけの、大好きなものを。胸を張って「好き」って言えるものを。
推し活って、きっと、誰かに強制されるものじゃない。誰かに理解されなくても、誰かに笑われても、それでも「好きだ」って言えるものなんだ。
そんなふうに、思った。
電車は、やがて私たちの街へと戻ってきた。降りる駅が近づいて、私はそっと立ち上がる。
お兄ちゃんも、眠そうな顔をしながら、立ち上がった。
「帰ったら、アイス食べようぜ」
「……うん」
他愛もない会話。でも、それがすごく嬉しかった。
(あたし、これから少しずつでもいい)
(自分の「好き」を、大事にできるようになりたい)
そんなことを思いながら、私は夜風の吹き抜ける駅の改札をくぐった。
──つづく。
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