『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第4章 オタクに優しい日焼け黒ギャル

【第34話『英梨、心ざわめく──新たなライバル出現』】

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 教室のざわめきは、まだ消えていなかった。

「南條マジかよ……」「利家先輩、どうすんのこれ……」

 みんなの囁き声が、耳にまとわりつく。

 私は、席に座ったまま、動けなかった。

 目の前では、陽葵が無邪気にお兄ちゃんに話しかけている。

「ねー先輩、放課後カフェ行こ♡」

「え、いや……」

「いいじゃん~!お礼もしたいしさぁ♡」

 肩をポン、と叩く。

 距離感が近い。

 近すぎる。

(なにこれ……)

 胸の奥が、ざわざわと波立っていた。

 今まで、こんな気持ち、感じたことがなかった。

 友達に笑われても、
 推し活がうまくいかなくても、
 悔しかったり、悲しかったりはしたけど。

 この感情は──初めてだった。

(……取られる)

 喉の奥で、かすかな声が震えた。

(お兄ちゃんが、誰かに取られるかもしれない──)

 そんな現実を、
 こんなにもリアルに突きつけられたのは、初めてだった。

 陽葵は、悪い子じゃない。

 明るくて、素直で、
 真っ直ぐで、憎めない。

 だけど──

 だからこそ、怖い。

 お兄ちゃんが、ああやって笑っているのを見るのが、
 こんなに苦しいなんて。

 机の端を、ぎゅっと握りしめた。

「……英梨、大丈夫?」

 隣のこころが、そっと覗き込んできた。

「う、うん……」

 かろうじて答えたけど、声が震えていた。

「無理しないでね~」

 こころは、ふわっと笑った。

 その優しさが、余計に胸に染みた。

(こんな気持ち、知らなかった)

 兄妹だから、
 一緒にいて当たり前で。

 お兄ちゃんが、誰かに笑いかけることに、
 こんなにもざわめくなんて、考えたこともなかった。

 でも今、はっきりわかる。

 私は、怖いんだ。

 お兄ちゃんが、誰かを選んで、
 私の手の届かない場所に行ってしまうことが。

 陽葵みたいな、
 あったかくて、眩しい人に。

(いやだ)

 心の奥で、小さな私が叫んでいた。

(いやだよ……お兄ちゃん)

 私は、俯いた。

 机の上に、ぽたりと涙が落ちそうになって、慌てて拭った。

「……強くならなきゃ」

 誰に聞かせるでもなく、
 小さな声で呟いた。

 強くならなきゃ、守れない。

 自分の「好き」も、
 自分の「大切」も。

 どこかで、そんな覚悟が芽生えた。

 授業が始まるベルが鳴った。

 私は、顔を上げた。

 赤くなった目を、ぐっとこらえた。

(負けたくない)

 陽葵にも。
 自分の弱さにも。

 私は、私の好きなものを、
 ちゃんと守れる自分になりたい。

 たとえ、どんなに怖くても。

 たとえ、涙が出そうでも。

 好きな人を、
 好きなものを、

 簡単になんか、手放したくないから。

 私は、そっと拳を握った。

 ──つづく。
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