12 / 101
第96話『ここな、“仮面”を外したその先で』
しおりを挟む
夕暮れの風が、校舎裏の植え込みを優しく揺らしていた。
放課後のざわめきも遠のき、運動部の掛け声も聞こえない。
まるで、ここだけ世界から切り離されたような、静かな時間だった。
利家は、呼び出されたその場所で待っていた。
教室を出るとき、ここなは言った。
「放課後、校舎裏で。……話があるの」
──少しだけ、震える声だった。
ふだんの、笑顔とテンションの裏にある、本当の“何か”を感じていた。
やがて──
「……待たせた?」
ここなが現れた。
制服の裾を少しだけ握って、眉を少しだけ寄せて。
「ううん。ちょうど来たとこ」
そう言って、利家は笑った。
ここなは、小さく「ふふっ」と笑い返した。
けれどその笑みは、どこか決意を帯びていた。
──星乃こころ。
利家が長いこと“推して”いたVTuber。
その正体が、クラスメイトの“ここな”だった。
ずっと秘密だったこと。
けれど、ここなはもう、その“仮面”を外す決意をした。
「ねえ、利家くん……昨日の配信、見てた?」
「……ああ。全部」
言葉に詰まる。
あの配信──VTuber星乃こころが活動“休止”を宣言した、生配信。
「わたし、少しだけ、VTuberをおやすみします。
理由は……今、現実の自分として、恋がしたいから」
それは、ファンにとっても、ここな自身にとっても──覚悟の言葉だった。
「……嘘じゃないんだよ」
ここなが口を開いた。
「台本とか、演出とか、そういうのじゃない。
あたし、ほんとに……バーチャルじゃない“今の自分”で、恋がしたいの」
俯いたまま、言葉を選ぶように、ここなは続けた。
「VTuberってね、“理想の自分”でいられるの。
可愛くて、元気で、明るくて。……でも、現実のあたしは──
人見知りで、怖がりで、失敗もたくさんして、ほんとはずっと……怖かった」
「……」
「でもね、利家くんと関わるようになって、変わったの。
素の自分のままでいられる時間が、だんだん増えてきて──
その時間が、“画面の向こうよりあったかい”って、思っちゃったんだよね」
ぽろっと、涙が零れた。
「うそ……バカみたい。こんなところで泣くつもりじゃなかったのに」
「……バカじゃないよ」
利家の声が、静かに重なった。
ここなは顔を上げた。
赤くなった目で、まっすぐ利家を見た。
「利家くん。
あたし、“星乃こころ”じゃなくて、“ここな”として、
あなたに好きって言いたかった」
「……」
「バーチャルのあたしを好きになってもらうんじゃなくて、
素顔の、等身大の、こんなダメダメなあたしのこと──
それでも、好きって言ってもらえたらって、ずっと、思ってた」
沈黙。
けれど、それは“拒絶の間”じゃない。
──利家の胸の奥に、彼女の言葉がゆっくり、しみ込んでいく。
「だから……言わせて」
ここなは、制服の胸元をぎゅっと握りしめた。
そして──
「利家くんが、好きです」
それは、星乃こころではない。
ファンサービスでもない。
演技でもない。
ひとりの少女・ここなが、自分の心から絞り出した、たったひとつの想い。
沈黙が流れる。
けれど、それは美しい“余韻”だった。
利家は、ゆっくりと目を閉じた。
あの日の配信、あの日のコメント、そして目の前のここなの涙──
全部が重なって、胸の奥で音を立てていた。
「……ごめん。すぐに返事、できない」
「うん。わかってる」
「でも、ありがとう。
その言葉を、“星乃こころ”じゃなくて、“ここな”が言ってくれたこと……
すげぇ、嬉しかった」
ここなの表情が、少しだけ緩んだ。
「そっか……よかった」
「俺も……ちゃんと、考えるよ。
誰か一人を選ぶってことは、誰かの想いに応えられないってことだ。
だから、もう少しだけ、待ってくれる?」
「もちろん」
風が、ふたりの間を通り抜ける。
「……ねえ、利家くん」
「ん?」
「いつかまた、“仮面”じゃなくて、“笑顔”で会おうね」
その言葉に、利家も頷いた。
「──うん。約束」
──“仮面”の向こう側にいた少女は、いま、たしかにそこにいた。
放課後のざわめきも遠のき、運動部の掛け声も聞こえない。
まるで、ここだけ世界から切り離されたような、静かな時間だった。
利家は、呼び出されたその場所で待っていた。
教室を出るとき、ここなは言った。
「放課後、校舎裏で。……話があるの」
──少しだけ、震える声だった。
ふだんの、笑顔とテンションの裏にある、本当の“何か”を感じていた。
やがて──
「……待たせた?」
ここなが現れた。
制服の裾を少しだけ握って、眉を少しだけ寄せて。
「ううん。ちょうど来たとこ」
そう言って、利家は笑った。
ここなは、小さく「ふふっ」と笑い返した。
けれどその笑みは、どこか決意を帯びていた。
──星乃こころ。
利家が長いこと“推して”いたVTuber。
その正体が、クラスメイトの“ここな”だった。
ずっと秘密だったこと。
けれど、ここなはもう、その“仮面”を外す決意をした。
「ねえ、利家くん……昨日の配信、見てた?」
「……ああ。全部」
言葉に詰まる。
あの配信──VTuber星乃こころが活動“休止”を宣言した、生配信。
「わたし、少しだけ、VTuberをおやすみします。
理由は……今、現実の自分として、恋がしたいから」
それは、ファンにとっても、ここな自身にとっても──覚悟の言葉だった。
「……嘘じゃないんだよ」
ここなが口を開いた。
「台本とか、演出とか、そういうのじゃない。
あたし、ほんとに……バーチャルじゃない“今の自分”で、恋がしたいの」
俯いたまま、言葉を選ぶように、ここなは続けた。
「VTuberってね、“理想の自分”でいられるの。
可愛くて、元気で、明るくて。……でも、現実のあたしは──
人見知りで、怖がりで、失敗もたくさんして、ほんとはずっと……怖かった」
「……」
「でもね、利家くんと関わるようになって、変わったの。
素の自分のままでいられる時間が、だんだん増えてきて──
その時間が、“画面の向こうよりあったかい”って、思っちゃったんだよね」
ぽろっと、涙が零れた。
「うそ……バカみたい。こんなところで泣くつもりじゃなかったのに」
「……バカじゃないよ」
利家の声が、静かに重なった。
ここなは顔を上げた。
赤くなった目で、まっすぐ利家を見た。
「利家くん。
あたし、“星乃こころ”じゃなくて、“ここな”として、
あなたに好きって言いたかった」
「……」
「バーチャルのあたしを好きになってもらうんじゃなくて、
素顔の、等身大の、こんなダメダメなあたしのこと──
それでも、好きって言ってもらえたらって、ずっと、思ってた」
沈黙。
けれど、それは“拒絶の間”じゃない。
──利家の胸の奥に、彼女の言葉がゆっくり、しみ込んでいく。
「だから……言わせて」
ここなは、制服の胸元をぎゅっと握りしめた。
そして──
「利家くんが、好きです」
それは、星乃こころではない。
ファンサービスでもない。
演技でもない。
ひとりの少女・ここなが、自分の心から絞り出した、たったひとつの想い。
沈黙が流れる。
けれど、それは美しい“余韻”だった。
利家は、ゆっくりと目を閉じた。
あの日の配信、あの日のコメント、そして目の前のここなの涙──
全部が重なって、胸の奥で音を立てていた。
「……ごめん。すぐに返事、できない」
「うん。わかってる」
「でも、ありがとう。
その言葉を、“星乃こころ”じゃなくて、“ここな”が言ってくれたこと……
すげぇ、嬉しかった」
ここなの表情が、少しだけ緩んだ。
「そっか……よかった」
「俺も……ちゃんと、考えるよ。
誰か一人を選ぶってことは、誰かの想いに応えられないってことだ。
だから、もう少しだけ、待ってくれる?」
「もちろん」
風が、ふたりの間を通り抜ける。
「……ねえ、利家くん」
「ん?」
「いつかまた、“仮面”じゃなくて、“笑顔”で会おうね」
その言葉に、利家も頷いた。
「──うん。約束」
──“仮面”の向こう側にいた少女は、いま、たしかにそこにいた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました~
みずがめ
青春
高校入学前、俺は車に撥ねられそうになっている女性を助けた。そこまではよかったけど、代わりに俺が交通事故に遭ってしまい入院するはめになった。
入学式当日。未だに入院中の俺は高校生活のスタートダッシュに失敗したと落ち込む。
そこへ現れたのは縁もゆかりもないと思っていた金髪ギャルであった。しかし彼女こそ俺が事故から助けた少女だったのだ。
「助けてくれた、お礼……したいし」
苦手な金髪ギャルだろうが、恥じらう乙女の前に健全な男子が逆らえるわけがなかった。
こうして始まった俺と金髪ギャルの関係は、なんやかんやあって(本編にて)ハッピーエンドへと向かっていくのであった。
表紙絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストです。
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる