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第7話 『君の名は、よっちゃん──運命の再会』

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 4月某日。
 季節外れの強風が吹き荒れる昼休み、教室の扉がガラリと開いた。

 

「──転校生を紹介する。今日からお前たちのクラスに加わる、舞香だ」

 

 担任の紹介に合わせて、扉の前に立った少女。

 透き通るような白い肌に、さらりと揺れる金髪。
 深い海のような碧眼が、教室をゆっくりと見渡す。

 

「──舞香・アシュレイ・カールトン・リーヴス・天城。よろしくね」

 

 その場にいた男子の脳が、同時にクラッシュした。

(え、誰この異世界系ヒロイン!?)
(リアル金髪!? 本物!?)
(名前長ッ!?!)

 

 それも当然だ。

 この地方都市・茨城県北部の高校において、
 金髪碧眼の美少女が転校してくるなど──

 ライトノベル以外で見たことがない。

 

 しかも。

 その金髪美少女は、静かに視線を巡らせ──

「──あら」

 

 俺を、見つけた。

 目が合った。

 瞬間、視界がスローモーションになったような錯覚を覚えた。

 

「……えっ?」

 

 彼女の表情に浮かんだのは、驚きと、喜びと、そして──

 確信。

 

「やっぱり……久慈川、幸喜」

 

 彼女は俺の名前を、フルネームで呼んだ。

 それだけで、胸の奥がざわついた。

 

 

 ***

 

「ちょっと、アンタ……知り合い?」

 

 休み時間、歩美がぐいっと肘で突いてくる。
 机の向こうでは、転校生──舞香が女子たちに囲まれ、質問攻めにあっていた。

「え? いや……知らない……はず……」

「じゃあなんで、あんなにジーッと見られてたのよ?」

「……それは俺も気になってるんだけどさ……」

 

 俺の脳裏に、あの“声”が蘇る。

 ──よっちゃん。
 ──よっちゃん、早くーっ!

 

 幼いころ、夏の海浜公園で、走り回っていたあの記憶。

 金髪の女の子と、短い時間だけ“遊んだ”。

 名前も、連絡先も、なにも知らなかった。
 でも──確かに、俺の“初恋”だった。

 

 まさか、まさか──

 あの“よっちゃん”が。

 

 

 ***

 

 放課後。昇降口。

「──久しぶりだね、よっちゃん」

 

 声をかけられ、振り返った。
 そこにいたのは──舞香だった。

 制服の上から羽織ったジャケットが風に舞い、
 その笑顔は、どこか懐かしい温度を持っていた。

 

「……ま、まさか……」

「ふふっ。覚えてない?」

 

 彼女は、ポケットから小さな石を取り出した。

 

 ──それは、海浜公園で拾った“桜貝”。

 

「あのとき、私にくれたんだよ。“これ、宝物にしよう”って」

 

 思い出す。
 あの日。
 波打ち際で、手を繋いで走った。

「……まさか、本当に、あの“よっちゃん”が……!?」

「正解。私は“舞香”──そして、“IRM”よ」

 

「……………へ?」

 

 ──情報量の暴力で脳が止まる。

 まさか、目の前の金髪転校生が、
 かつて出会った“初恋の子”であり、
 さらに、俺の作品のイラストレーター《IRM先生》だったなんて──!!

 

「嘘……だろ……」

「嘘じゃないよ。私、本気で探してたんだから。あのときの“よっちゃん”に、もう一度会うために──この町に引っ越してきたの」

 

 心臓が跳ねる。

 それは──小説よりも劇的な、“ヒロイン登場”の瞬間だった。

 

 

 ***

 

「君の作品、『関ヶ原から始める』を初めて読んだとき、気づいたの。“この筆跡、あの時と同じだ”って」

「そんな、偶然で……」

「偶然じゃない。私、絵を描いて、プロになって、出版社に潜って、君の正体を編集経由で突き止めたんだから」

 

「──え、えぐくない!? ストーカー!? それって完全にストー……」

「違うもん、努力って言うの!」

 

 彼女の瞳が真っすぐで、ぐいぐいくる。
 ちょっと怖いけど、それ以上に──

(嬉しい)

 

 だって、俺の作品を見て、俺を見つけて、
 “会いに来てくれた”んだから。

 

 

 ***

 

「今、君は“青春ラブコメ”を書いてるって聞いた」

「う、うん。正確には“書こうとしてる”……でも全然進んでなくて……」

「じゃあ、一緒に書こう」

 

 舞香は、俺の胸の前に拳を握って差し出した。

「君のヒロインたちに、命を与える絵を、私が描く」

「……舞香……」

「だから、この物語を、ちゃんと完結させよう。──今度こそ、途中で終わらせないように」

 

(あの日、突然いなくなった“彼女”)

(あのとき、何も言えなかった俺)

 

 今、こうして再会できたことに、
 きっと意味がある。

 

 俺は、そっと拳を合わせた。

「……うん。よろしく、舞香」

 

 こうして。

 ──俺の“最初のヒロイン”が、物語に帰ってきた。
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