9 / 88
第8話 『編集者は見た──Twitterに潜む“リアル”』
しおりを挟む
東京都・市ヶ谷。
某ライトノベル出版社の編集フロア。
日付は変わって午前0時を回ったが、まだ残業中の編集者がちらほら。
その一角、書類の山に囲まれた男が、ひとり静かに呻いていた。
「……またトレンド入りしてんじゃねぇか、この作家……!」
担当編集者・渋谷利雅(しぶやとしまさ)。
27歳。入社5年目。担当作家10人。
その中でも、圧倒的に手がかかる──そして今、最も売れている作家。
それが──
「久慈川幸喜……お前、ほんっとに……!」
目の前にあるモニターには、Twitterのタイムライン。
【#おっぱいチッパイ夢いっぱい】のタグが、再び盛り上がりを見せていた。
──原因は、彼の新作青春ラブコメ企画に関する“深夜ポエム”ツイートだった。
「ヒロインの胸のサイズに悩む夜、人生の意味を問いたくなる。青春とは“触れられそうで触れられない曲線”──。」
「そんなタグ生まれていいわけねぇだろ……!!」
だが、それが現実だった。
いいね:2.1万
RT:1.3万
引用リプ:6500
──全部、ひと晩で。
それを見て、渋谷は悟った。
「こいつ、ただの“萌えオタ童貞”じゃない。……“天才型リアル修羅場構築クリエイター”だ……」
***
思えば最初から、異質だった。
担当初期。
戦国ラノベのプロットを渡されたとき──
「ヒロインは政宗の異母妹で、実は夜になるとタイムスリップしてラブホに飛ばされる呪いを──」
「ボツ!! まず設定が地上波NG!!!」
彼の脳内は常に爆発していた。
理性と妄想と実体験とフィギュアのパーツが、渾然一体となって創作を構築する──そんな作家だった。
だが最近。
様子がおかしい。
“明らかに筆が止まっている”。
それもそのはず。
渋谷のもとに、関係者や読者、さらには謎の女子高生からまで、“作家の近況”が届けられるようになっていたのだ。
【情報その①:幼なじみ、ガチ嫁化】
→ 朝食提供・掃除洗濯・風呂上がりに遭遇済み
【情報その②:妹、毛収集家】
→ パンツから毛を収集して瓶詰。今月だけで13本。
【情報その③:地味子後輩、実は伝説のコスプレイヤー】
→ 同人イベントにて“綾波覚醒”済み
【情報その④:金髪転校生、実は初恋相手&イラストレーター】
→ 現在同居疑惑あり(!?)
「……なんだよこのキャラ表……! どんなバトルラノベより破壊力あるぞ……」
渋谷はコーヒーをすすりながら、ふと天井を仰いだ。
──この作者、何をどう生きたらこうなる?
原稿が遅れるのはいつものこと。
だが最近は、“日常が修羅場すぎて創作が現実に負けてる”という稀有な事態に突入していた。
「……ラブコメ書けないんじゃなくて……現実がラブコメすぎて、脳が混乱してるんだな」
納得。
そして、編集者として出すべき答えは一つ。
「いいぞ、もっとやれ」
そう呟いた瞬間、Slackがポロンと鳴った。
【久慈川先生】
「渋谷さん、相談です。ラブコメって、“妹の毛を保存してるキャラ”ってアリですか?」
「あるかぁぁぁあああああああああああ!!!!!!」
叫んだ声が深夜のフロアに響いたが、
誰も驚かない。
それが日常だから。
***
一方その頃、俺──久慈川幸喜は。
リビングで鮟鱇鍋をつつきながら、妹と幼なじみと謎の転校生に囲まれていた。
舞香「鍋の具、全部おいしかったよ! でも最後の雑炊、よっちゃんが炊いてくれると、もっと美味しい気がするの」
歩美「いや、そこは私が仕上げるわよ! 彼の味覚と体調は全部把握してるんだから!」
幸香「私は……お兄ちゃんの出汁で煮る“兄鍋”がいい……♥」
(──俺のラブコメ、修羅場すぎね!?)
原稿、書ける気がしない。
いや、もはや──
「この日常を全部、原稿にしよう……」
そう決意した瞬間、
俺の手はキーボードへと伸びていた。
某ライトノベル出版社の編集フロア。
日付は変わって午前0時を回ったが、まだ残業中の編集者がちらほら。
その一角、書類の山に囲まれた男が、ひとり静かに呻いていた。
「……またトレンド入りしてんじゃねぇか、この作家……!」
担当編集者・渋谷利雅(しぶやとしまさ)。
27歳。入社5年目。担当作家10人。
その中でも、圧倒的に手がかかる──そして今、最も売れている作家。
それが──
「久慈川幸喜……お前、ほんっとに……!」
目の前にあるモニターには、Twitterのタイムライン。
【#おっぱいチッパイ夢いっぱい】のタグが、再び盛り上がりを見せていた。
──原因は、彼の新作青春ラブコメ企画に関する“深夜ポエム”ツイートだった。
「ヒロインの胸のサイズに悩む夜、人生の意味を問いたくなる。青春とは“触れられそうで触れられない曲線”──。」
「そんなタグ生まれていいわけねぇだろ……!!」
だが、それが現実だった。
いいね:2.1万
RT:1.3万
引用リプ:6500
──全部、ひと晩で。
それを見て、渋谷は悟った。
「こいつ、ただの“萌えオタ童貞”じゃない。……“天才型リアル修羅場構築クリエイター”だ……」
***
思えば最初から、異質だった。
担当初期。
戦国ラノベのプロットを渡されたとき──
「ヒロインは政宗の異母妹で、実は夜になるとタイムスリップしてラブホに飛ばされる呪いを──」
「ボツ!! まず設定が地上波NG!!!」
彼の脳内は常に爆発していた。
理性と妄想と実体験とフィギュアのパーツが、渾然一体となって創作を構築する──そんな作家だった。
だが最近。
様子がおかしい。
“明らかに筆が止まっている”。
それもそのはず。
渋谷のもとに、関係者や読者、さらには謎の女子高生からまで、“作家の近況”が届けられるようになっていたのだ。
【情報その①:幼なじみ、ガチ嫁化】
→ 朝食提供・掃除洗濯・風呂上がりに遭遇済み
【情報その②:妹、毛収集家】
→ パンツから毛を収集して瓶詰。今月だけで13本。
【情報その③:地味子後輩、実は伝説のコスプレイヤー】
→ 同人イベントにて“綾波覚醒”済み
【情報その④:金髪転校生、実は初恋相手&イラストレーター】
→ 現在同居疑惑あり(!?)
「……なんだよこのキャラ表……! どんなバトルラノベより破壊力あるぞ……」
渋谷はコーヒーをすすりながら、ふと天井を仰いだ。
──この作者、何をどう生きたらこうなる?
原稿が遅れるのはいつものこと。
だが最近は、“日常が修羅場すぎて創作が現実に負けてる”という稀有な事態に突入していた。
「……ラブコメ書けないんじゃなくて……現実がラブコメすぎて、脳が混乱してるんだな」
納得。
そして、編集者として出すべき答えは一つ。
「いいぞ、もっとやれ」
そう呟いた瞬間、Slackがポロンと鳴った。
【久慈川先生】
「渋谷さん、相談です。ラブコメって、“妹の毛を保存してるキャラ”ってアリですか?」
「あるかぁぁぁあああああああああああ!!!!!!」
叫んだ声が深夜のフロアに響いたが、
誰も驚かない。
それが日常だから。
***
一方その頃、俺──久慈川幸喜は。
リビングで鮟鱇鍋をつつきながら、妹と幼なじみと謎の転校生に囲まれていた。
舞香「鍋の具、全部おいしかったよ! でも最後の雑炊、よっちゃんが炊いてくれると、もっと美味しい気がするの」
歩美「いや、そこは私が仕上げるわよ! 彼の味覚と体調は全部把握してるんだから!」
幸香「私は……お兄ちゃんの出汁で煮る“兄鍋”がいい……♥」
(──俺のラブコメ、修羅場すぎね!?)
原稿、書ける気がしない。
いや、もはや──
「この日常を全部、原稿にしよう……」
そう決意した瞬間、
俺の手はキーボードへと伸びていた。
0
あなたにおすすめの小説
俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた
夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。
数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。
トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。
俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話
頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。
綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。
だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。
中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。
とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。
高嶺の花。
そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。
だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。
しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。
それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。
他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。
存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。
両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。
拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。
そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。
それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。
イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。
付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
高校生なのに娘ができちゃった!?
まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!?
そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる