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第9話 『取材デートは、笠間稲荷で』

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「青春ラブコメにリアリティが足りない? なら、現地に行こう」

 

 そう言い放ったのは、他ならぬ俺──久慈川幸喜(くじかわこうき)、プロラノベ作家17歳。

 

 戦国ラノベでデビューし、いま青春ラブコメに挑戦中。

 だが、家にいれば幼なじみ・妹・金髪転校生に囲まれて修羅場。

 どこをどう切り取ってもヒロイン過多の地獄。

 そこで──俺は逃げた。否、取材に行くという名目で出た。

 目的地は、茨城の誇る名城、笠間城跡。

 そして同行者は──

「……えへへ。嬉しいです。こうして先輩と、外でお話できるなんて」

 制服のスカートをなびかせ、微笑むのは──

 図書室の地味子ヒロイン、磐城玲奈(いわきれいな)。

 

 しかし──この“ささやかなデート”が、あの修羅場トリオにバレていないわけがなかった。

 

 

 ***

 

 その朝、俺がツーリング用に愛用している折りたたみ原付「スズキ・サルミーニョ号」にまたがったとき──

 

 玄関の陰から、ひときわ強烈な殺気が飛んできた。

 

「ちょっとアンタ……その格好……どこ行くの?」

 ──袋田歩美。
 幼なじみで、最近“既成事実お姉さん”と化している存在。

 

「え? ちょっと……笠間、行ってくる。資料集めに」

「誰と?」

「……あ、あー……磐城」

「……へぇ~~~」

 

 そのとき、俺の背中に、何本もの槍が刺さった気がした。

 

 

 ***

 

【尾行その①:袋田歩美】

 バイク用のメットを被り、ジャージ姿のままチャリで追跡。

「地味子に負けてられないでしょッ!!」

 

【尾行その②:久慈川幸香】

 セーラー服の下に戦闘服を仕込み、バスで先回り。

「殺す……地味女……お兄ちゃんは私の……♥」

 

【尾行その③:舞香】

 レンタルした国産250ccのバイクにまたがり、カチッとナイフを確認。

「……暗殺用ナイフ、OKっと」

 

 こうして、取材ツーリングは“修羅場トレースレース”へと姿を変える。

 

 

 ***

 

 一方そのころ、玲奈と俺は、笠間稲荷神社の前にいた。

 春の風に桜が舞い、石畳の参道には観光客の姿。

 

「……ここが、“笠間城の外郭”だったんですね」

「そう。城郭と神社が重なるのって、ちょっとロマンあるだろ?」

「ふふっ……先輩って、“萌え”より“歴史”のほうが語るの得意ですよね」

「ば……ばか、そういうわけじゃ……!」

 

 顔が熱い。

 いつもと違う。

 普段の玲奈は静かで距離のある子なのに、
 今日の彼女は、どこか“距離が近い”。

 

 ──やっぱり、今日、来てよかった。

 “青春ラブコメ”に必要なのは、こういう“空気”なんだ──と俺は確信していた。

 

 しかしその時。

 鳥居の陰から、ひそかにこちらを覗くギラついた視線が──3方向から、飛んできていたことには気づいていなかった。

 

 

 ***

 

【観測記録:幸香】

 現在、笠間稲荷境内にて兄と地味子が急接近中。

 距離:48cm
 音量:普通(たまに笑い声)

 特記事項:兄、鼻の下を伸ばす傾向あり。

「──射殺していい……?」

 

【観測記録:舞香】

 笠間稲荷、制空権確保完了。
 地味女は胸が薄い。だが甘い雰囲気が出ている。危険。

 対策:ナイフは温存。まずは心理戦。

「……今度、イラスト発注で“地味子焼却ルート”描いてやろうかしら」

 

【観測記録:歩美】

 自販機の陰から睨み中。
 地味子、ニコニコしすぎ。
 それに対して幸喜、完全にデレ顔。

「──今夜の味噌汁は塩入れてやる」

 

 

 ***

 

 夕方。

 俺たちは笠間城跡に立っていた。

 苔むした石垣。
 天守台跡のひらけた広場。
 空の向こうに、わずかに街が見える。

 

「ここ、いいですね……なんか、風が通る感じがして」

「玲奈……」

 

 思わず呼んだその名に、彼女が微笑む。

 

「先輩って、呼び方やめませんか?」

 

「……えっ?」

 

「だって私、もう……あなたと一緒に物語を作りたいって、思ってるんです」

 

 言葉が詰まる。

 彼女の目が、まっすぐに俺を見ていた。

 風が吹き、桜が舞い──
 まるで、告白イベントのような空気が流れた。

 

「──っ!!」

 その瞬間、頭上から──

 

 バサァァァァァァァン!!

 

 天守跡の屋根に登っていた舞香が──バランスを崩して落下!!!

 

「──よっちゃん危ないいいいい!!!」

「おいおいおいおいおい!!!???」

 

 俺は、咄嗟に腕を伸ばして──

 

 ──キャッチ!

 

「う、うわぁ!? ま、舞香!? なんで!? 屋根の上にいたの!?」

「……わ、わたし……見守ってただけ……で……」

 

 そんな騒ぎの最中、近くの林から

 

「隠密任務、失敗……ッ!地味子のせいで……!」

「兄が女の胸に顔をうずめた記録、保存完了……ッ!」

 

 と、複数の声が。

 

 ──もう、バレバレだった。

 この取材、もう“デート”でも“調査”でもない。

 完全に“戦争”だった。

 

 

 ***

 

 こうして、笠間稲荷の桜の下──

 ヒロインたちはそれぞれの“戦場”を駆け抜け、
 俺はなぜか“命懸けの修羅場”を生き抜いていた。

 

 そしてその全てを、俺は──

 

「書く。絶対にこの修羅場、物語にしてやる……!!」

 

 拳を握った。

 青春とは、甘さだけじゃない。

 狂気と笑顔と胸のサイズで構成されている。
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