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第四章『妹ルート暴走編:文化祭決戦パート』

第47話 『思い出の町──鮟鱇鍋と、冬の記憶』

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 つくば駅から、電車を乗り継いで一時間半。

 俺たちは、茨城県北部の海沿いの町──北浜町に降り立った。

 

 この町は、かつて俺と幸香が
 一度だけ“家族旅行”で訪れた場所だった。

 そのとき、ちょっとした喧嘩をして、
 寒空の下、二人きりで迷い込んだのが──

 

 そう。

 あんこう鍋の店だった。

 

 

 ***

 

「……変わってないわね、ここ」

 歩美が、懐かしそうに暖簾を見上げる。

 

「兄妹で寄ったって話、あの子から聞いたことあるよ。
『寒かったけど、心はぽかぽかだった』ってさ」

 

 玲奈はスマホを閉じて頷いた。

「昨日、この町のターミナルで“それらしき子”が目撃されていました。
 最後に立ち寄りそうな場所は、やはりここかと」

 

 舞香は腕を組み、きっぱり言う。

「さあ、入りましょう。鍋と記憶、両方の残滓を回収しますわ」

 

 

 ***

 

 ──暖簾をくぐると、懐かしい匂いが鼻をくすぐった。

 ダシの効いた、濃厚な磯の香り。
 店の奥には、古びた木のテーブルと、壁に貼られた手書きのメニュー。

 

「いらっしゃい」

 奥から出てきたのは、恰幅のいい女将さん。

 

 俺たちが事情を説明すると──
 彼女は一瞬、目を細めた。

 

「……ああ。あの子、来たよ。昨日の夕方だね」

 

 女将さんは、静かに湯呑を差し出しながら語り始めた。

 

「ひとりで来てさ。注文もせず、しばらく席に座ってた。
 じっと店内を見回して、まるで“思い出を探してる”みたいに」

 

「声かけたら、笑ってたけどね。目、真っ赤で。
『ここ……昔、兄と来たんです』って」

 

 俺は、ごくりと喉を鳴らした。

 

「でね……最後にこう言ってた」

 

 女将さんは、少し遠い目をして言った。

 

「“今度こそ、終わらせに来た”って」

 

 

 ***

 

 席に座ったまま、俺はしばらく動けなかった。

 あの時のことが、胸の奥からじんわりと浮かび上がってきた。

 

 寒かった日。
 俺と幸香は、ちょっとしたことで喧嘩をした。

「勝手についてくるなよ!」
「うるさい、バカ兄貴!」

 そんな言い合いの後で迷い込んだのが、この店だった。

 

 黙って座り、
 黙って鍋をつつき、
 最後には──ふたりで笑ってた。

 

「……ごめんね、お兄ちゃん。
 あたし、好きって言っちゃいけないのかな」

 あのとき、幸香がぽつりと言った。

 

「“妹”って、恋しちゃダメなの?」

 

 

 ***

 

 玲奈が、女将さんに質問した。

「その後、あの子はどこに行ったか……何かおっしゃってましたか?」

 

 女将さんは、少し考えてから言った。

 

「『神社、残ってるかな』って言ってたよ。
 山の上にある、昔の神社。いまは廃れちゃってるけど、
 “また来たい場所”なんだってさ」

 

 俺たちは顔を見合わせた。

 舞香が言う。

「そこが、次の目的地ですわね」

 

 歩美が深く頷く。

「急ごう。あの子、寒さにも弱いんだよ。
 一人きりで震えてるかもしれないじゃん……」

 

 

 ***

 

 店を出たとき、空は薄曇り。

 山の方角から、冷たい風が吹いていた。

 

 俺は、心の中で何度も呟いた。

(待ってろ、幸香──)

(まだ終わってない。……お前を、“消させる”もんか)
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