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第八章《声優が、教室にいる日》編

第85話 『収録現場襲撃──ラブコメ現場は戦場だった』

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 ──都内某・アニメ収録スタジオ。

 防音扉の内側には、いつもの収録準備が整えられていた。
 台本が並び、スタッフがモニターを操作し、照明が調整され、今日も“物語の声”が紡がれようとしている。

 

「ふふっ、今日はちょっと、特別ゲストを呼んじゃいました♪」

 

 その笑顔とともに、現れたのは声優・姫崎るりあ。

 ──そして、その背後から現れたのは。

 

 ・袋田歩美(制服のまま、無言の怒気を発しながら)
 ・舞香(なぜかスーツケース付き)
 ・磐城玲奈(手作りのおにぎり弁当を抱えて)
 ・そして妹・幸香(スタジオに“兄好感度表”を掲げて堂々入場)

 

 るりあ「今日、実は“現場視察ツアー”ってことで、みなさんをお連れしましたぁ♥」

 

 監督「え、え、えええっ!? 視察!? 聞いてないよ!? どこのプロダクションの指示!?」

 

 スタッフ(ざわつき)「てか、なんで女子高生……?」
「この制服、つくばの高校じゃない?」
「え、原作の作者って……え、あの男子生徒?」
「え、嘘でしょ?“本人”?マジで? 収録止めた方が……」

 

 俺(……やばい。この現場、五分でラブコメ地獄になる……!)

 

 

 ***

 

 その不安は、開始3分で的中した。

 

 ディレクター「はい、それじゃあ第10話のアフレコ入りまーす。姫崎さん、お願いします」

 

 るりあ「はいっ、よろしくお願いします」

 

【収録ブース・台詞】

 

 るりあ「……あなたの隣にいられるなら、私は……他に何もいらない……」

 

 

 そのセリフの余韻が、ブースに満ちる。

 モニタールームのスタッフも「さすがだな……」と頷き合う。

 だが、その背後から――

 

「ちょっと待ったぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 ブースマイクが、爆発的な割れ音で叫びに包まれる。

 

 歩美がブース内に突撃してきたのだ。

 

 歩美「……そのセリフ、現実で言えるの? こうきに、ちゃんと届いてると思ってんの?」

 

 るりあ「えっ……なに……急に……!?」

 

 舞香「申し訳ありませんが、“公式ヒロイン席”は本日、譲りませんわ♥」

 

 玲奈「わたしの弁当が、彼の原動力です……アニメなんかに負けない……!」

 

 監督「ちょ、ちょっと! アマチュアさんはブースに入らないでくださいぃぃぃ!!」

 

 

 ***

 

 そして──ついにマイク前。

 全ヒロインが揃って立ち、口々に叫ぶ。

 

 歩美「こうきの“本命”は私です」
 舞香「作者が私に惹かれるのは、もはや文化的必然ですわ」
 玲奈「魂が書いたんです。私たちとの時間を」
 幸香「兄の性欲構造は、私が一番把握してます♥」

 

 収録ブースが、ラブコメ修羅場の特設会場と化した。

 

 るりあ「な、なんで……この台詞録るだけなのに、ここまで混沌としてるの……」

 

 

 ***

 

 監督「──カット! カット! 撮れません!! 一旦休憩!!」

 

 アシスタント「マイク前で“本命宣言”したの、史上初です!!」

 

 音響監督「こんな現場、聞いたことねえ!!」

 

 

 ***

 

 その後。

 控室で正座させられた俺は、頭を抱えて呻いていた。

 

「……お前ら、頼むから収録現場くらい空気読んでくれぇぇ……」

 

 歩美「だって、“画面の中で勝つ”ってことは、“現実で負けてもいい”ってことになるじゃん」

 

 舞香「声では勝てても、心では譲れませんわ♥」

 

 玲奈「台詞より……日常の一言の方が、強いこともあります」

 

 幸香「兄が喘いだの、わたしの耳が記録してますから♥」

 

 ──言い逃れ不可能。

 

 俺「もう誰か、記憶消してくれ……」

 

 スタッフ「いい声録れたら、アニメの告知PVに使おうかと思ったんだけどな……“本命争奪会議”の音源」

 

 俺(絶対やめてぇぇぇぇ!!)

 

 

 ***

 

 その夜。

 るりあから、一通のDMが届いた。

 

 🟦るりあ【非公開チャット】
「……ねえ、“こうきくんの物語”って、今どこまで進んでるの?」
「私は、まだ“ヒロイン候補”でいられる……かな?」

 

 ──その問いに、俺はまだ答えられなかった。
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