32 / 48
第三章 一番星の光
第31話 優しすぎること
しおりを挟む
「柊真さん」
心なしか顔色の悪い彼を、ぎゅっと強く抱きしめる。
「素敵なことだと思うんです」
彼の肩に顎を乗せてそう呟くと、彼は驚いたように顔を上げた。
私はそっと腕を離し、ソファに正座する形で彼と向き合う。
「誰にでも優しい柊真さんだからこそ、私は助けられたんです。そんな柊真さんを尊敬してます」
柊真さんは、ぽかんとしたまま固まって私を見つめていた。
その表情があまりにも彼らしくなくて、場違いだと分かっていながら、思わず笑ってしまう。
「……本当ですか? 私と一緒にいたいって、思ってくれたんですか。私、ここにいていいんですか?」
笑顔を保ったまま尋ねると、彼は戸惑ったまま、こくこくと何度も頷いた。
「ああ……うん。それは本当だ。さっき、そのお友達との電話で『家を決める』って言ってるのが聞こえて……慌てて。そうだ。電話、遮っちゃってごめん」
いつもより少し弱々しくて、どこか可愛らしいその姿に、私は気持ちを抑えきれなくなっていた。
「好きです。私も」
そう告げると、彼は数秒間、完全に固まってから、改めてこちらを向く。
「いや、待って……俺は、茉莉を傷つけるかもしれないって話を——」
話を戻そうとする彼に私は少しムッとした。
「……じゃあ、それなら止めるって言ってほしかったんですか?」
気持ちをそのまま、小さな声に乗せる。
柊真さんは驚いたように目を瞬かせ、言葉を探していた。
「傷つきません」
私は、はっきりと続ける。
「柊真さんの分け隔てない優しさ、本当に魅力的だと思っています。見ていて不快になることなんてありません。……私が、実際に助けられてきましたから」
言い切る前に、彼の腕が私を引き寄せた。
「……本当に?」
耳元で囁かれたその声に、私は迷いなく頷く。
「もちろんです」
抱きしめ返すと、彼の温もりが胸いっぱいに広がった。
「こんなに素敵な優しさを持つ柊真さんに、『一緒にいたい』って言ってもらえるだけで……それだけで、十分特別だって思えます」
彼は少し息を吸ってから、まっすぐに言葉をくれた。
「誰よりも大切に思ってる。それだけは、ずっと伝えることを約束する。茉莉が不安にならないように、傷つく結果にならないように、ちゃんと考える。だから、不安になったときは言ってほしい。気づけないことがあったら、何度でも伝えてほしい」
そんなまっすぐな言葉を向けられて、これ以上、私に何を求めろと言うのだろう。
「幸せです。柊真さんは、出会った日から私のヒーローです」
彼の大きな手のひらが、そっと肩に触れる。
少し距離ができた私たちは、静かに見つめ合った。
「いいのかな、本当に……」
不安そうに、でも初めて浮かべた小さな笑顔。
その表情に、なぜかこちらの胸のほうがぎゅっと締めつけられる。
そっと頬に触れる指先が、くすぐったくて、あたたかい。
思わず目を細めたその瞬間、ふいに唇に柔らかな感触が落ちてきた。
「……っ」
驚いて目を開くと、すぐ目の前に、少しだけ照れたような柊真さんの顔があった。
見慣れないその顔に、私は思わず首に腕を回す。
「気付いてますか?……柊真さんからしてくれたの、初めてです」
そう言って、目を見つめると、彼はまた照れたように口元を緩めた。
「……確かに。不思議だな」
そう呟きながら、そっと私の肩に手をかける。
次の瞬間、ふわりと視界が傾いて、私はソファに押し倒されていた。
上から覗き込む彼の表情は、いつもの落ち着いた顔とは違って、どこか熱を持っていた。
「ずっと、こうしたかったのかもしれない。誰かを忘れさせるためじゃなく、俺の意志で」
低く、照れ混じりの声に、胸にピリリと刺激的な熱が加わった。
「ずっと隣にいてほしい」
その言葉を、今度はすぐ近くで聞きながら、私は彼のシャツをぎゅっと掴んだ。
思わず泣きそうになりながら、それでも笑ってしまう。
——こんなふうに、誰かの腕の中で、自分の居場所を見つけたのは、久しぶりだった。
_/_/_/_/_/_/
第31話、読んでいただきありがとうございます_(⑉• •⑉_)
気に入っていただけたら、お気に入りやエールをいただけますと励みになります!
次回もぜひよろしくお願いいたします。
心なしか顔色の悪い彼を、ぎゅっと強く抱きしめる。
「素敵なことだと思うんです」
彼の肩に顎を乗せてそう呟くと、彼は驚いたように顔を上げた。
私はそっと腕を離し、ソファに正座する形で彼と向き合う。
「誰にでも優しい柊真さんだからこそ、私は助けられたんです。そんな柊真さんを尊敬してます」
柊真さんは、ぽかんとしたまま固まって私を見つめていた。
その表情があまりにも彼らしくなくて、場違いだと分かっていながら、思わず笑ってしまう。
「……本当ですか? 私と一緒にいたいって、思ってくれたんですか。私、ここにいていいんですか?」
笑顔を保ったまま尋ねると、彼は戸惑ったまま、こくこくと何度も頷いた。
「ああ……うん。それは本当だ。さっき、そのお友達との電話で『家を決める』って言ってるのが聞こえて……慌てて。そうだ。電話、遮っちゃってごめん」
いつもより少し弱々しくて、どこか可愛らしいその姿に、私は気持ちを抑えきれなくなっていた。
「好きです。私も」
そう告げると、彼は数秒間、完全に固まってから、改めてこちらを向く。
「いや、待って……俺は、茉莉を傷つけるかもしれないって話を——」
話を戻そうとする彼に私は少しムッとした。
「……じゃあ、それなら止めるって言ってほしかったんですか?」
気持ちをそのまま、小さな声に乗せる。
柊真さんは驚いたように目を瞬かせ、言葉を探していた。
「傷つきません」
私は、はっきりと続ける。
「柊真さんの分け隔てない優しさ、本当に魅力的だと思っています。見ていて不快になることなんてありません。……私が、実際に助けられてきましたから」
言い切る前に、彼の腕が私を引き寄せた。
「……本当に?」
耳元で囁かれたその声に、私は迷いなく頷く。
「もちろんです」
抱きしめ返すと、彼の温もりが胸いっぱいに広がった。
「こんなに素敵な優しさを持つ柊真さんに、『一緒にいたい』って言ってもらえるだけで……それだけで、十分特別だって思えます」
彼は少し息を吸ってから、まっすぐに言葉をくれた。
「誰よりも大切に思ってる。それだけは、ずっと伝えることを約束する。茉莉が不安にならないように、傷つく結果にならないように、ちゃんと考える。だから、不安になったときは言ってほしい。気づけないことがあったら、何度でも伝えてほしい」
そんなまっすぐな言葉を向けられて、これ以上、私に何を求めろと言うのだろう。
「幸せです。柊真さんは、出会った日から私のヒーローです」
彼の大きな手のひらが、そっと肩に触れる。
少し距離ができた私たちは、静かに見つめ合った。
「いいのかな、本当に……」
不安そうに、でも初めて浮かべた小さな笑顔。
その表情に、なぜかこちらの胸のほうがぎゅっと締めつけられる。
そっと頬に触れる指先が、くすぐったくて、あたたかい。
思わず目を細めたその瞬間、ふいに唇に柔らかな感触が落ちてきた。
「……っ」
驚いて目を開くと、すぐ目の前に、少しだけ照れたような柊真さんの顔があった。
見慣れないその顔に、私は思わず首に腕を回す。
「気付いてますか?……柊真さんからしてくれたの、初めてです」
そう言って、目を見つめると、彼はまた照れたように口元を緩めた。
「……確かに。不思議だな」
そう呟きながら、そっと私の肩に手をかける。
次の瞬間、ふわりと視界が傾いて、私はソファに押し倒されていた。
上から覗き込む彼の表情は、いつもの落ち着いた顔とは違って、どこか熱を持っていた。
「ずっと、こうしたかったのかもしれない。誰かを忘れさせるためじゃなく、俺の意志で」
低く、照れ混じりの声に、胸にピリリと刺激的な熱が加わった。
「ずっと隣にいてほしい」
その言葉を、今度はすぐ近くで聞きながら、私は彼のシャツをぎゅっと掴んだ。
思わず泣きそうになりながら、それでも笑ってしまう。
——こんなふうに、誰かの腕の中で、自分の居場所を見つけたのは、久しぶりだった。
_/_/_/_/_/_/
第31話、読んでいただきありがとうございます_(⑉• •⑉_)
気に入っていただけたら、お気に入りやエールをいただけますと励みになります!
次回もぜひよろしくお願いいたします。
3
あなたにおすすめの小説
わたしの愉快な旦那さん
川上桃園
恋愛
あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。
あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。
「何かお探しですか」
その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。
店員のお兄さんを前にてんぱった私は。
「旦那さんが欲しいです……」
と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。
「どんな旦那さんをお望みですか」
「え、えっと……愉快な、旦那さん?」
そしてお兄さんは自分を指差した。
「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」
そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの
偽装結婚を偽装してみた
小海音かなた
恋愛
「家借りるときさぁ、保証人が必要だと困るとき来そうで不安なんだよね」
酒の席で元後輩にそんなことをグチったら、旦那ができました――。
降って湧いたような結婚話を承諾したら、そこにはすれ違いの日々が待っていた?!
想いを寄せている相手の気持ちに確信が持てず、“偽装”を“偽装している”夫婦のモダモダ遠回り生活。
苦くてしょっぱくて甘酸っぱい、オトナ思春期ラブストーリー第2弾。
※毎日19時、20時、21時に一話ずつ公開していきます。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる