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第三章 一番星の光
第32話 自分で選ぶ
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——本当によかったのかな。
彼の寝室で、同じベッドに横になりながら、私はぼんやりと壁を見つめていた。
背中から伝わってくる柊真さんの体温。
抱き枕みたいに抱え込まれている腕の重さが、安心と同時に、小さな不安を連れてくる。
<もし彼を選ぶつもりなら、不安に思ってることは、全部ちゃんと解決してからにしな>
今になって、春菜の言葉が胸の奥をざわつかせた。
私を抱き枕のように抱え込んで寝ている柊真さんの温もりを感じながら、彼の話を思い出していた。
柊真さんの話が、頭の中で何度も再生される。
時折会いに行っていたという女性も、きっと彼の助けを必要としていた人で。
帰りが遅い日があったことを思い返せば、男女の関係になっていた可能性だって、ゼロじゃない。
——それが、彼の「優しさ」ということなんだよね。
どこまでが許せて、どこからが苦しくなるのか。
そんな境界線を言葉にして確認するのは、あまりにも無粋な気がして、自分の中に押さえ込む。
嬉しくて、夢中で彼を掴んでしまっていたけれど。
理解したい気持ちは紛れも無い本音だったけれど。
でも、もしかしたら、どうしても受け入れられない部分があるのかもしれない。
だって私も、あの日、ぽっかりと開いていた喪失感を埋めたくて、彼に手を伸ばした。
拒まれるどころか、優しく受け止めてくれた彼に、正直、救われた自分がいる。
その日のことを思い出して、思わず体を丸め、胸の前で手を握りしめた。
自分だって、同じことを経験している。
それなのに、他の子にはしないでなんて、言えるわけがなかった。
考えが堂々巡りを始めた、そのとき。
お腹に回されていた腕の力が、ぎゅっと強まった。
「なんか、考えてる……?」
いつから起きていたのだろう。
低めの声が耳元で落ちてきて、私は驚いて、反射的に身を起こそうとした。
「だめ、逃げないで」
ぎゅっと強まる腕に、大人しく動きを止める。
「なにも……ちょっとぼんやりしてた、だけで」
悪い癖だ。
嫌われたくなくて、本当のところを飲み込んでしまう。
「さっき約束したじゃん」
そう言って、脇腹をくすぐられる。
「わっ、ちょ、やめてくださいっ!!」
思わず身をよじったその隙に、彼は私の体を転がすようにして、向き合う形にした。
楽しそうな笑顔から、優しい瞳が見えて、私は少し考えてから口を開いた。
「……その、夜、女性に会いに行くこともあるのかなって。少し考えちゃって」
そう言うと、柊真さんは目を丸くする。
「時々、ありましたよね。電話がかかってきて、出ていくこと。それに……」
言葉がもつれて、布団の端を指先で掴む。
「私自身も、その……柊真さんに、求めてしまったことも、ありましたし」
もごもごと濁しながら、布団に潜り込もうとすると、彼の腕がそれを許さず、私を引き寄せた。
「それはないよ」
はっきりとした声だった。
「ごめん、俺がはっきりと言うべきだったよね」
そういって、彼は私の頭を優しく撫でる。
「……正直、茉莉のことも拒まなかったわけだから、信用できないって思うのも分かる。でも、彼女がいるときに、そういうことは絶対にしない。沙織のときもなかったし……」
少し間を置いて、続ける。
「それでも……耐えられないって、言われちゃったんだけどね」
私は、黙って聞いていた。
彼は起き上がって、ベッドにもたれかかる。
「一応……最近、会いに行ってた女の子とも、ちゃんと話してきたんだ。もう会えないって、伝えてきたんだ。茉莉に言う前に、ちゃんとしておきたくて」
そう言った彼の瞳は、小さく揺れているように見えた。
きっと信じてもらえないと、諦めているような。
「あの」
私は、その瞳の揺れをかき消したくて、布団をきたまま、起き上がって彼と向かい合う。
信じるしかないと思った。
春菜の言葉が、頭のどこかで引っかかっているのも事実だ。
一般論を唱えて、守りに入っている思考があるのも、分かっている。
でも、心の奥では、まっすぐ柊真さんを信じたいと思ってしまっているのだ。
「……それなら、安心しました」
そう言って、少しだけ笑う。
「できたら、この温かい場所だけは……私のものだって、思えたら嬉しいなって。欲張りかもしれないですけど」
にっこり微笑むと、柊真さんは、少し目を見開いた後、私を引き寄せる。
「当たり前だろ。茉莉の居場所だ」
ちゅっと口付けされる温かい温もりの中で、私は静かに考えていた。
愛されたいと願って、好かれるために、必死に頑張ってきたこと。
その一方通行の気持ちが、どれだけ自分を苦しくしてきたのかを、私はよく知っている。
彼と出会って、思ったのだ。
私は今度こそ、自分を大切にしてくれる人じゃなくて、自分が大切にしたいと思える人と一緒にいたいと。
_/_/_/_/_/_/
第32話、読んでいただきありがとうございます_(⑉• •⑉_)
気に入っていただけたら、お気に入りやエールをいただけますと励みになります!
次回もぜひよろしくお願いいたします。
彼の寝室で、同じベッドに横になりながら、私はぼんやりと壁を見つめていた。
背中から伝わってくる柊真さんの体温。
抱き枕みたいに抱え込まれている腕の重さが、安心と同時に、小さな不安を連れてくる。
<もし彼を選ぶつもりなら、不安に思ってることは、全部ちゃんと解決してからにしな>
今になって、春菜の言葉が胸の奥をざわつかせた。
私を抱き枕のように抱え込んで寝ている柊真さんの温もりを感じながら、彼の話を思い出していた。
柊真さんの話が、頭の中で何度も再生される。
時折会いに行っていたという女性も、きっと彼の助けを必要としていた人で。
帰りが遅い日があったことを思い返せば、男女の関係になっていた可能性だって、ゼロじゃない。
——それが、彼の「優しさ」ということなんだよね。
どこまでが許せて、どこからが苦しくなるのか。
そんな境界線を言葉にして確認するのは、あまりにも無粋な気がして、自分の中に押さえ込む。
嬉しくて、夢中で彼を掴んでしまっていたけれど。
理解したい気持ちは紛れも無い本音だったけれど。
でも、もしかしたら、どうしても受け入れられない部分があるのかもしれない。
だって私も、あの日、ぽっかりと開いていた喪失感を埋めたくて、彼に手を伸ばした。
拒まれるどころか、優しく受け止めてくれた彼に、正直、救われた自分がいる。
その日のことを思い出して、思わず体を丸め、胸の前で手を握りしめた。
自分だって、同じことを経験している。
それなのに、他の子にはしないでなんて、言えるわけがなかった。
考えが堂々巡りを始めた、そのとき。
お腹に回されていた腕の力が、ぎゅっと強まった。
「なんか、考えてる……?」
いつから起きていたのだろう。
低めの声が耳元で落ちてきて、私は驚いて、反射的に身を起こそうとした。
「だめ、逃げないで」
ぎゅっと強まる腕に、大人しく動きを止める。
「なにも……ちょっとぼんやりしてた、だけで」
悪い癖だ。
嫌われたくなくて、本当のところを飲み込んでしまう。
「さっき約束したじゃん」
そう言って、脇腹をくすぐられる。
「わっ、ちょ、やめてくださいっ!!」
思わず身をよじったその隙に、彼は私の体を転がすようにして、向き合う形にした。
楽しそうな笑顔から、優しい瞳が見えて、私は少し考えてから口を開いた。
「……その、夜、女性に会いに行くこともあるのかなって。少し考えちゃって」
そう言うと、柊真さんは目を丸くする。
「時々、ありましたよね。電話がかかってきて、出ていくこと。それに……」
言葉がもつれて、布団の端を指先で掴む。
「私自身も、その……柊真さんに、求めてしまったことも、ありましたし」
もごもごと濁しながら、布団に潜り込もうとすると、彼の腕がそれを許さず、私を引き寄せた。
「それはないよ」
はっきりとした声だった。
「ごめん、俺がはっきりと言うべきだったよね」
そういって、彼は私の頭を優しく撫でる。
「……正直、茉莉のことも拒まなかったわけだから、信用できないって思うのも分かる。でも、彼女がいるときに、そういうことは絶対にしない。沙織のときもなかったし……」
少し間を置いて、続ける。
「それでも……耐えられないって、言われちゃったんだけどね」
私は、黙って聞いていた。
彼は起き上がって、ベッドにもたれかかる。
「一応……最近、会いに行ってた女の子とも、ちゃんと話してきたんだ。もう会えないって、伝えてきたんだ。茉莉に言う前に、ちゃんとしておきたくて」
そう言った彼の瞳は、小さく揺れているように見えた。
きっと信じてもらえないと、諦めているような。
「あの」
私は、その瞳の揺れをかき消したくて、布団をきたまま、起き上がって彼と向かい合う。
信じるしかないと思った。
春菜の言葉が、頭のどこかで引っかかっているのも事実だ。
一般論を唱えて、守りに入っている思考があるのも、分かっている。
でも、心の奥では、まっすぐ柊真さんを信じたいと思ってしまっているのだ。
「……それなら、安心しました」
そう言って、少しだけ笑う。
「できたら、この温かい場所だけは……私のものだって、思えたら嬉しいなって。欲張りかもしれないですけど」
にっこり微笑むと、柊真さんは、少し目を見開いた後、私を引き寄せる。
「当たり前だろ。茉莉の居場所だ」
ちゅっと口付けされる温かい温もりの中で、私は静かに考えていた。
愛されたいと願って、好かれるために、必死に頑張ってきたこと。
その一方通行の気持ちが、どれだけ自分を苦しくしてきたのかを、私はよく知っている。
彼と出会って、思ったのだ。
私は今度こそ、自分を大切にしてくれる人じゃなくて、自分が大切にしたいと思える人と一緒にいたいと。
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