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第四章 支え合いの形
第45話 離れたくない
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帰り道、柊真さんは一言も発さず、いつもより速い足取りで歩いていた。
公園では、一瞬優しい雰囲気を感じたけれど、その背中に私はまた後悔に苛まれる。
必死に追いかけながら、彼の背中を見つめる。
広い肩。強い背中。
なのに、今はとても遠く感じた。
不機嫌なのは明らかだった。
偶然だったけれど、また片桐さんと会っていたところを見られてしまった。
昨日のあの空気を思い出すと、言い訳なんて意味を持たない気がしてしまう。
このまま信用を取り戻せないかもしれない。
力になるどころか、捨てられてしまうかもしれない。
――そんな不安が、胸を締め付けた。
「……柊真さん……」
心の奥がじわりと熱くなり、視界が滲む。
こぼれそうになる涙を必死に堪えるけれど、感情を押し留めるのはもう限界だった。
私は思わず立ち止まり、震える声で叫んだ。
「柊真さん!」
足がピタリと止まる。
「……ごめんなさい!」
絞り出すような謝罪だった。
許してほしくて、ただそれだけで必死だった。
「別に怒ってないよ」
柊真さんは低く呟く。
けれど、その声は低く、とてもそうは思えなかった。
私は涙を拭い、震える息を整えてから、勇気を振り絞る。
「本当にごめんなさい。でも……私、柊真さんのことが知りたかったんです」
言葉を選ぶ余裕なんてなく、ただ気持ちのままに、思いを口にする。
「どうしてそんなに苦しそうな顔をするのか。どうして、全部ひとりで抱え込もうとするのか……。柊真さんはきっと話してくれないって思ったから」
柊真さんは足を止めたまま、振り返ってはくれない。
「でも、簡単に片桐さんの誘いに行ったのは軽率でした。本当に反省しています……ごめんなさい」
涙が次々と溢れてくるのに、それを拭う余裕もなく、私は歯を食いしばる。
——これが、最後のチャンスだ。
ここで許してもらえなければ、もう私たちの関係はここまでだと本気でそう思った。
「どうしても、柊真さんの力になりたいんです!隣にいるだけじゃ、嫌なんです」
震える声が、静かな夜道に響いた。
「柊真さんは、私をどん底の人生から救い上げてくれた人だから……っ」
そのとき、彼がゆっくりと振り返った。
その瞳には、もう怒りはなかった。
代わりに、不安そうな瞳が揺れる。
「好きです、柊真さんのことが、本当に……大好きなんです」
涙がこぼれるまま、まっすぐに彼を見つめた。
柊真さんは、しばらく言葉を失っていた。
夜の静寂の中、ただじっと私を見つめる。
やがて、ふっと小さく息を吐き、わずかに視線を落とした。
「……はぁ」
低く漏れたため息には、優しさとどこか自嘲が混ざっていた。
「俺もだよ」
静かにそう言って、彼は一歩、私に近付く。
「俺も、茉莉が好きだ。その気持ちに嘘はない」
何度か聞いたはずの、その言葉。
「……なら、どうして……」
好きだという、それなのにもう一歩を踏み込ませてくれない理由が知りたかった。
続きを言う前に、柊真さんは、そっと私を抱き寄せた。
「ごめん。全部、俺の問題だ」
柊真さんの腕の中、彼の声が微かに震えているのがわかる。
「茉莉がそばにいてくれるだけでそれだけで十分だった。でもそれも、自分勝手な線引きだったよな。結局巻き込んでしまったし」
その言葉に、私は小さく首を振った。
「違います……私は、自分で足を踏み込んだんです」
夜の静寂に、私の声だけが響く。
そして、それは確かに彼の心へ届いた。
柊真さんの腕の力が、少しだけ強くなる。
「……家に帰ったら、時間をもらってもいい?」
そう言って、彼は一度、言葉を探すように息を整えた。
「過去のことを話したい」
彼の温もりに触れながら、張り詰めていた心がゆっくりほどけていく。
腕から離れ、真剣な瞳をした柊真さんと向かい合う。
柊真さんの声はかすかに震えていた。
その震えが、彼の決意を表しているようで私は息を飲む。
「はい、聞きたいです。どんなことでも」
その決意に答えるようにはっきりと答えると、柊真さんは困ったように眉を下げ、ほんの少しだけ、安心したように笑った。
_/_/_/_/_/_/
第45話、読んでいただきありがとうございます_(⑉• •⑉_)
気に入っていただけたら、お気に入りやエールをいただけますと励みになります!
クライマックスです。
次回もぜひよろしくお願いいたします。
公園では、一瞬優しい雰囲気を感じたけれど、その背中に私はまた後悔に苛まれる。
必死に追いかけながら、彼の背中を見つめる。
広い肩。強い背中。
なのに、今はとても遠く感じた。
不機嫌なのは明らかだった。
偶然だったけれど、また片桐さんと会っていたところを見られてしまった。
昨日のあの空気を思い出すと、言い訳なんて意味を持たない気がしてしまう。
このまま信用を取り戻せないかもしれない。
力になるどころか、捨てられてしまうかもしれない。
――そんな不安が、胸を締め付けた。
「……柊真さん……」
心の奥がじわりと熱くなり、視界が滲む。
こぼれそうになる涙を必死に堪えるけれど、感情を押し留めるのはもう限界だった。
私は思わず立ち止まり、震える声で叫んだ。
「柊真さん!」
足がピタリと止まる。
「……ごめんなさい!」
絞り出すような謝罪だった。
許してほしくて、ただそれだけで必死だった。
「別に怒ってないよ」
柊真さんは低く呟く。
けれど、その声は低く、とてもそうは思えなかった。
私は涙を拭い、震える息を整えてから、勇気を振り絞る。
「本当にごめんなさい。でも……私、柊真さんのことが知りたかったんです」
言葉を選ぶ余裕なんてなく、ただ気持ちのままに、思いを口にする。
「どうしてそんなに苦しそうな顔をするのか。どうして、全部ひとりで抱え込もうとするのか……。柊真さんはきっと話してくれないって思ったから」
柊真さんは足を止めたまま、振り返ってはくれない。
「でも、簡単に片桐さんの誘いに行ったのは軽率でした。本当に反省しています……ごめんなさい」
涙が次々と溢れてくるのに、それを拭う余裕もなく、私は歯を食いしばる。
——これが、最後のチャンスだ。
ここで許してもらえなければ、もう私たちの関係はここまでだと本気でそう思った。
「どうしても、柊真さんの力になりたいんです!隣にいるだけじゃ、嫌なんです」
震える声が、静かな夜道に響いた。
「柊真さんは、私をどん底の人生から救い上げてくれた人だから……っ」
そのとき、彼がゆっくりと振り返った。
その瞳には、もう怒りはなかった。
代わりに、不安そうな瞳が揺れる。
「好きです、柊真さんのことが、本当に……大好きなんです」
涙がこぼれるまま、まっすぐに彼を見つめた。
柊真さんは、しばらく言葉を失っていた。
夜の静寂の中、ただじっと私を見つめる。
やがて、ふっと小さく息を吐き、わずかに視線を落とした。
「……はぁ」
低く漏れたため息には、優しさとどこか自嘲が混ざっていた。
「俺もだよ」
静かにそう言って、彼は一歩、私に近付く。
「俺も、茉莉が好きだ。その気持ちに嘘はない」
何度か聞いたはずの、その言葉。
「……なら、どうして……」
好きだという、それなのにもう一歩を踏み込ませてくれない理由が知りたかった。
続きを言う前に、柊真さんは、そっと私を抱き寄せた。
「ごめん。全部、俺の問題だ」
柊真さんの腕の中、彼の声が微かに震えているのがわかる。
「茉莉がそばにいてくれるだけでそれだけで十分だった。でもそれも、自分勝手な線引きだったよな。結局巻き込んでしまったし」
その言葉に、私は小さく首を振った。
「違います……私は、自分で足を踏み込んだんです」
夜の静寂に、私の声だけが響く。
そして、それは確かに彼の心へ届いた。
柊真さんの腕の力が、少しだけ強くなる。
「……家に帰ったら、時間をもらってもいい?」
そう言って、彼は一度、言葉を探すように息を整えた。
「過去のことを話したい」
彼の温もりに触れながら、張り詰めていた心がゆっくりほどけていく。
腕から離れ、真剣な瞳をした柊真さんと向かい合う。
柊真さんの声はかすかに震えていた。
その震えが、彼の決意を表しているようで私は息を飲む。
「はい、聞きたいです。どんなことでも」
その決意に答えるようにはっきりと答えると、柊真さんは困ったように眉を下げ、ほんの少しだけ、安心したように笑った。
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