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ドレス選び
しおりを挟む「リアはどれがいい?何色が好きだ?」
お父様はカタログを捲る手を止めて、私を見た。
私……私は、何色が好きなんだろう。
よく見ていたのは窓の外の空。私の生活で変化と彩りのあるものといえば、空しかなかったから。
「……空が…」
「空?では…このような水色か?」
「青空も好きですが…私は、たぶん…夜空のほうが好き、だと…思います。」
青空がでている昼間は、お家のどこからでも話し声や物音がしていて、私は余計に孤独だった。でも、夜空が綺麗な時間になると、どこも静かで、みんな1人の部屋にいて…私だけがひとりぼっちなんじゃないと思えたから。
「そうか。それなら……これなんてどうだ?」
「わぁ……」
お父様が見せてくれたのは、冷たく澄んだ空気の夜の、月に照らされて夜空を映す湖のようなドレス。
昨日お兄様からいただいたドレスの夜明けのような明るさは無く、上品なデザインだ。
「とっても綺麗です…!でも、私が着るには少々大人っぽいでしょうか…?」
「ん~、おれもいまのおじょーさまにはちょっと暗いかなと思いますけど…」
「そう?…確かに10歳でこういうデザインのドレスを着る令嬢はあまりいないけど、僕はリアが着るならなんでも似合うと思うな。既にこのドレスに負けないくらい綺麗じゃないか。」
クラウシー様とフロリアン様が私よりも私のことを考えて話してくれているのが嬉しい反面、逃げ出したいほど恥ずかしい気もする。
「おれならここの部分をこのレースにしてボリュームを出して、代わりに肩周りをスラっとさせるかな~。ね、どう?流行りそうじゃない?」
クラウシー様は、カタログの横にあったメモにサラサラと新しいデザインを書いた。ドレスのデザインについても知識があるなんてすごいわ。それに絵が上手……!
「…だが、確かこの後流行るデザインは……こっちの、首元が広めにあいている方じゃないか?」
「そんなのリアおじょーさまがちょろっとお茶会に出れば変わるって。それともヘルベルトくんは妹ちゃんのこんなドレス姿が見たいの?ほかの人に見られていいの?」
「…今回はお前のデザインにしてやろう。」
……私より私のことを考えてくれすぎて、結局私に発言権はなかったわ。でもクラウシー様のデザインは本当に素敵だから着るのが楽しみ…!
だけど、勝手にデザインを変えてしまっていいのかしら?
「よし、とりあえず1着はこれだな。リア、次はどれにする?」
「え?次?」
「……1着しか頼まないわけないだろう。最低でも10……いや20着は今日買うから、気になるデザインは全て言ってくれ。」
「に……20…ですか…!?そんな、既にお兄様が見つけてくださったドレスもありますし……!」
「あれはリアの体に合わせて作った物ではないし、既製品だ。家の中で着るには良いが外に出るには相応の品が必要だろう?」
「そーそー。社交界では“1度袖を通したドレスなんて2度と着れないわ!”って言って本当に捨てちゃう令嬢もそんなに珍しくないし。それに、招待されるお茶会によってドレスコードが変わるからそのくらいは持っていたほうがいいよ。おじょーさまは侯爵令嬢なんだしさ!」
「うんうん。色んな姿のリアが見たいな。」
「そ、そうなんですね…わかりました。」
「リア、金のことなら気にするな。この店ごと買ったってちっとも財政には影響しない。……そうか、店ごと……」
「お父様!?待ってください、20着分ちゃんと選びますから!お店の購入はちょっと待ってください!」
「あぁ、お前のためなら多少財政に影響するくらいの仕立て屋をいつか見つけて買ってやろう。」
「そ…そういうことではないのですが…。」
どうにかお店の購入を止め、私はカタログを必死に捲った。
好きとか、そういうのはまだピンとこないけど…でも、みんなが似合うはずだって言って選んでくれたドレスは着るのが楽しみだわ。もしかしたら、それが私の好きなものかもしれない。
ドレスを注文し終わったのは、すっかり夕方になった頃。みんなお昼も食べないで、カタログや生地見本を見て話していた。ある程度デザインがまとまると、クラウシー様が「この方がいい」と手直しを加えて、私だけのドレスが完成していく。
「あの、ありがとうございました。素敵なドレスをこんなに…。私、ドレスを着ても恥ずかしくないような素敵なレディーになりたい…です…。」
「んふ、だいじょーぶだよおじょーさま。おれが王国1の完璧な淑女にしてあげる!」
「僕も手伝えることがあればなんでも言ってね。ほら、もしかしたらダンスとか基本的なエスコートとかは僕とやったのを体が覚えているかもしれないし。」
「は、はい。よろしくお願いいたします!」
「…君はまだガリアナの婚約者ではないからな。」
「えぇ、わかっていますよ、お義兄様。まだ、ですね。」
「そのくらいにしておけ。…リア、夕食は食べられそうか?」
「……はい!たくさん考えたからお腹空いちゃいました!」
「そうか。それなら少し早いが夕食にしよう。」
「はい!」
夕食には何がでてくるかしら。食べたことの無いものも食べてみたいけど、やっぱりコーンのスープがあったら嬉しいわ。
私は、これまでで1番胸を弾ませながら食堂に向かった。
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