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第七部

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「本日は、皇帝陛下より勅書をお預かりしてまいりました」
「勅書?」

 勅書とは、最高権力者が下の者に命じる時に出す命令書だが。
 俺は、いつから帝国の下に付いたことになっているんだ?
 そんな疑問を持ちながらも、俺はアイゼナッハの差し出した書類を家臣から受け取り、中を開いた。

「皇帝陛下から、エルドール王ディークニクト様を後継者に指名する旨がしたためられております」

 アイゼナッハが言うように、確かに勅書には俺を帝国皇帝の後継とすると書かれている。
 ただ、問題が一つある。
 それは、俺がわざわざ皇帝の所へ出向き、跪かねばならないのだ。
 ただ、それを補って余りあるのは、皇帝位だ。
 実質ランドバル帝国の後継者となれば、この大陸の覇者となるのだ。

「……分かった。皇帝陛下には、近日中に準備を整えお迎えに上がるとお伝えくだされ」
「おぉ! 流石はディークニクト様。ありがとうございます。では、私は早速陛下にご報告する為に戻らせて頂きます」

 アイゼナッハは、そう言うと足早に謁見の間を辞して帰路についた。
 彼が、出て行くのを見届けてから臣下たちが口を開いた。

「陛下、これは罠の可能性はありませんか?」
「その可能性は十分あるだろうな」
「では、なぜお受けに!?」
「罠だが、書状も出しているのだ。こちらが窮地を切り抜ければ、後はあっさり滅ぼして終わりだ」

 俺がそう言うと、別の臣下が口を開いた。

「しかし、今更皇帝位など利用のしようもないかと思うのですが……」
「いや、それは違うぞ。皇帝位を得るという事は、今後の戦い全てが我らに大義があるという事になる。なにせ、旧領の復旧をと言う大義が手に入るのだ。それに、最悪皇帝をそのまま擁立という方法もある。凡愚なら擁立し、非凡なら廃位するだけだ」

 俺が、そう言ってのけると何人かの臣下がギョッとした。
 まぁ、一応相手は歴史ある皇帝の血筋だ。
 もし廃位を強行すれば、それこそ他の国から袋叩きに合うだろう。
 そうなっては、こちらとしても辛いものがある。

「何にしても、まずは皇帝を迎えに行く用意をせねばなるまい。兵を揃えよ、常備兵のみでよい。数は1万、兵装は式典ではなく実践を想定して用意する様に」
「はっ!」

 精兵1万と最新の装備で、皇帝の度肝を抜いてやろう。




ランドバル帝国 シャムロック皇帝

 エルドール王国に向かわせたアイゼナッハが、無事に帰還したという一報を受けた余は、急いで執務室へと移動させた。
 と言っても、急造の田舎城なので、みすぼらしい物ではあるが。

「アイゼナッハ、大義であった。して、エルドール王ディークニクトはどう言っていた?」
「お受けするとの事でございます」
「そうか、そうか! それは誠にめでたい! これで余の計略はなる!」
「はっ! 皇帝陛下の計略までは見破られていないでしょう。ただ、問題はあちらにそれを受け入れる準備があるか……」

 アイゼナッハはそう言うと、眉間にしわを寄せた。
 だが、余にとっては既に第一の関門を、一番の難関を突破したのだ。
 その後は、比較的楽というものだ。

「さて、アイゼナッハの心配性も致し方ないが、ここまでくれば余の計略はほぼ完成だ」

 余がそう言い切ると、アイゼナッハもこれ以上は何も言えないとばかりに引き下がるのだった。

「なに、余もそこまで馬鹿ではない。奴がダメなら二世、三世と時間をかければよい。もっとも、そうなってしまっては余の短い人生では追いつかんだろうがな」
「陛下……」

 気丈に振る舞おうとすればするほど、アイゼナッハは余の心中を察するのか、表情が曇っていく。
 それでも、構わない。
 余の、最後の意地を通さねばならないのだ。

「して、ディークニクトはいつ頃ここに来ると言っておった?」
「準備ができ次第、先触れを出してこちらに向かうそうです。ですので、こちらはこちらで準備を進めておくのがよろしいかと思われます」
「うむ、では文官たちにそちらは任せるとしよう。そちは下がって休め。また近日中にあの野蛮人たちが攻めてくるだろうからな」
「ははっ!」

 返事をするのと同時に、敬礼をしてアイゼナッハは執務室を退室していった。

「さぁ、あとは奴にどうにかこの条件をねじ込まねばな……」

 余は、独り言ちると暗く沈みゆく太陽を眺めるのだった。
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