9 / 33
津倉佐々美、仕事のできないヘタレでもいいかな?
しおりを挟むザバーン、ザバーン。
波打ち際の音を聞きながら、暖かい日差しを浴びて、うとうとしてしまう…。
昨日あまり眠れなかったからなあ。今朝も朝早かったし。
ああ、睡魔が…。日向ぼっこって気持ちがいいなあ。
「おい、津倉佐々美、寝るな、バカ。落ちるぞ!あ、落ちた…」
漁師猫〈タマ〉の罵声がかすかに聞こえる……
ぼこぼこぼこ…。え!わ!ごほ、ゴホゴホ!!
落ちたじゃねーよ!助けろよ、バカ!
津倉佐々美は必死に手をのばしたけれど、その手の先には何もなかった。
なんとか津倉佐々美は一人で海岸に這い上がった。しょせん、ガタイのいい漁師猫〈タマ〉でさえ、猫は猫ですから。人間を助け上げることはできなかったようだ…と思いたい。猫の手も貸りたかったけど。
ぜいぜい。
津倉佐々美はなんとか海岸に這い上がってきたけれど、体中ずぶぬれだった。全身からしずくが飛び散っていた。
「わ、こっちくんな。しずくが飛ぶ!」
漁師猫〈タマ〉はあかさらさまにそんな津倉佐々美を避けた。
普通、大丈夫か?とか、けがはない?とか言うよね。でも、猫はけっこう薄情らしい。
漁師猫〈タマ〉は自分の体についたしずくを必死になめていた。
どうやら水は苦手らしい。
なのに、なぜ漁師?まあ、細かいことはおいておこう。
どうやら海岸で居眠りをしていて、頭から海に落ちたらしい。
漁という言葉で漁船に乗って航海かと内心びびり、もとい、わくわくしたんだけど、猫の漁って、ただ、岸壁からしっぽを垂らしているだけのことだった。
漁っていうより釣りだね、釣り。
漁師猫〈タマ〉はそれはそれはすごいことのように津倉佐々美に漁のやり方を説明した。
「まずはしっぽをなめる。丁寧になめる。これは道具を手入れする意味も含まれる。ほかにもジンクスみたいなもんもある。心をこめることが大事だ。そうすることでいい魚が釣れる。次に、しっぽを水面に垂らす。垂らすときにはあまり深すぎない方がいい。深すぎると、大きな魚に食いつかれて危険だ。漁は男と男の戦いだ。時には命を張ることもある。だからこそ、ロマンなんだ。わかるか?」
わからねー。女ですもの。そもそも命張るところあるか?
「時に、魚が食いつかないときもある。そういうときは、繊細に水面でしっぽをゆらゆらさせる。まるで海の人魚のように。ゆらゆらゆらゆら。いいか、ゆらゆらだぞ。ぐるぐるぐるぐるじゃないぞ。ここがテクニックだ」
漁師猫〈タマ〉は神経質な顔をしていった。意外と漁師猫〈タマ〉はガタイに似合わず繊細なのかもしれないなあ。
「そして、最後に、しっぽに魚が食いついたらつかさずペシッとしっぽを地面に叩きつける。ペシッとやるんだ。ペシッとな」
へいへい、ペシッとですね。でも、わたし、しっぽなんてないぞ。
「タマちゃんさん、わたししっぽなんてないんですけどね」
「え、しっぽがない?しっぽがないなんて。お前、どんだけ下等なんだ?」
おい!人間ってみんなしっぽないぞ。進化の過程でなくなったんだよ。進化の過程だよ。知ってるか?しっぽ至上主義のたまちゃんさんよ。
津倉佐々美は心の中でつぶやくしかなかった。
「フウ、ダメダネ、キミコノシゴト、ムイテナイヨ」
なぜかいきなり漁師猫〈タマ〉は外国人のような片言の日本語を話し首を傾げた。
一体なんの真似だというんだ?
完全に人をなめているとしか思えなかったけれど、ここではやっぱり漁師猫〈タマ〉よりはレベルが低いわけで…。くやしいけれど、言い返せなかった。
0
あなたにおすすめの小説
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた──
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる