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水島信也、別に語ることはない。以上。
しおりを挟むテレビクルーが異世界にやってくる日が真実味を増してきた。猫たちの間でもこの話で持ちきりだった。水島信也のところにもその話は聞こえ伝わっていた。
「水島さん、テレビが来たときは、影からその様子をちゃんと記録しておいてくださいね。やはり後世に伝えることを考えると記録は大切ですから。それには、やっぱり水島さんほどのカメラの腕前の人にお願いするのが一番です。でも、決して姿を見せてはいけませんよ。基本的にこの異世界は人間がいないということで売っていますので」
そういって、茶トラの真面目猫〈チャー〉は襟を正した。
「相変わらずくそまじめだな。その話し方なんとかならないか?」
水島信也は撮影に出かけるためにカメラやレンズをカバンに入れる作業をしていたが、真面目猫〈チャー〉の話に手を止めた。
「水島信也さん、それは私のことですか?」
真面目猫〈チャー〉のひげが神経質そうにぴくぴく動く。
お?怒ったか?
でも、ポーカーフェイスの真面目猫〈チャー〉からはその表情は見てとれない。そもそも猫の表情なんて俺にはわからん。
「いや、俺たちもうダチだろ?もうちょっとフランクに話そうぜ。肩こるじゃん」
「いえ、これが私のデフォルトですので」
なんだよ、こいつ。チャーちゃんのくせに。
チャーちゃんという名前をはじめて聞いたとき、水島信也は腹を抱えて笑った。
腹筋が崩壊しそう。
真面目猫〈チャー〉の顔を見るたびに吹いてしまって大変だったので、今はチャーと呼んでいる。まだましだろ。
真面目猫〈チャー〉は水島信也が大笑いしている間中、ずっと正しく猫すわりをして、その笑いを苦々しそうに見ていた。
といっても、猫の表情を推し量ることはできないが。
たぶん人間ならそうだろうってところだよ。
漫画ならさしずめ、たらりと汗をかく描写になりそうだが、猫なんでね、真面目猫〈チャー〉が本当に汗をかいていたのかどうかはわからん。
まったく、人間というのは、飼い猫にドキュンな名前を付けたがる傾向にあるらしい。
この異世界に来た時、最初に知り合った猫が真面目猫〈チャー〉だった。
真面目猫〈チャー〉はもともとはこの異世界の人間に飼われていたらしい。
この異世界から人間たちが出ていってしまい、真面目猫〈チャー〉だけが一人でこの家に暮らしている。
真面目猫〈チャー〉は若いのに意外と物知りだった。
「水島信也さん、今カバンに入れようとしているのはネクサスのNX5ですね。これは光学フィルターですね」
お、そうそう、猫のくせによく知ってんじゃん。
「チャー、お前よく知ってるな」
真面目猫〈チャー〉はちょっとひげを得意そうにぴくぴくさせて
「私はこの島の物知り博士ですから。将来は研究者を目指しているんです」
とまさに志をもった若者がするようなきらきらした目をしてそういう。
「ところでチャー、テレビクルーがやってきたとき、誰が迎えるんだい?」
「本来なら村長さんです。ですが、きっと現実は田中ショコラさんが出しゃばって出てくると私は想像します」
あーあ、あのデブ猫ね。確かに出たがりっぽいもんなあ。
水島信也は擦り切れてぼろぼろになっている真っ赤なアルバムを小脇に抱えて立ち上がった。
「さぁ、チャー、今日も撮りに行くぞ」
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