津倉佐々美の異世界「猫」さんぽ

如月柊

文字の大きさ
19 / 33

水島信也、にゃんこにいいように使われている気がする。以上。

しおりを挟む

「クロちゃんの1日は面白いですね」
「あの子、クロちゃんっていうのね」
「猫じゃらしでじゃれちゃってかわいい!」
「無邪気な猫に癒されるー」

水島信也がネットをチェックしてみると爽やか男子猫〈クロ〉のアップした動画には賛美のコメントが連なっていた。「いいね」の数も半端ない。
これは意外と意外にいけるのかも?

だけど、これが「狙ってる」なんて誰も思わないだろう。おまけに猫のセルフプロデュースだなんて。常識では絶対ありえんだろう?

水島信也がレンズを向ける先には爽やか男子猫〈クロ〉がいる。
カフェの一画をマスターの好意で貸してもらってさっそくコンテンツの撮影が始まっていた。ファインダーを通して、きれいな黒猫が無邪気にかわいい仕草を繰り出す。天真爛漫な様子に確かに癒される。けれど、この仕草も天真爛漫さもすべて計算だなんて。俺、もう猫を信じられなくなるかもしれない…。

「慎也、毎日一本アップの予定です。やっぱり出し続けることって視聴者を引っ張る最善の方法ですから。今日は猫じゃらしで遊ぶ猫の図を撮るので、慎也がボクに猫じゃらしをポンポンって振ってください。ボクが可愛くチョンチョンってしますから」

なんか腹黒―。
お前はクロはクロでも腹黒の黒だな。

「慎也、早く!」
呼び捨て?なんか俺、猫にアゴで使われてない?

「こうかい?」
俺はクロに促されてしぶしぶ猫じゃらしをブンブン振った。

「ちょっ!ダメですって。そんな乱暴なのは。わかってないなあ。視聴者の80パーセントは女子供ですよ。「かわいい!」「キュン死しちゃう!」って言わせてなんぼですからね。いくら『けものフレンズ』が売れたからって、こんな激しい動きでボクがケモノになってる様子なんて見たいわけないじゃないですか。ボクっていうブランドイメージを大切にしてください。カメラワークはあくまでもボクの表情、それから肉球の様子にポイントを絞ってください。手の握った感じに人はまた萌えるんですよ」

うー、悔しいけどよく知ってんなあ。

爽やか男子猫〈クロ〉は猫じゃらしと知りつつ、何これ?みたいに可愛く首を傾けてみる。ちょうど耳が前を向くのでくそかわいい。くそー、オスのくせに、萌えるじゃないか!いや、誤解するな!俺は断じて男にも萌えないぞ。多分。きっと。まさか…目覚めた?いやいやいやいや。

もう毒を食らわば皿までじゃー。クロ推しと一緒にキュン死してやるー。

「クロ、モフモフ感出すためライト当てんぞ!毛が透けてキラキラして見えっから。茶毛もブリーチして少し色落ちさせた方が柔らかいイメージが出るかものも?それと、お前の首輪、茶色にオレンジははえねーわ。やっぱ茶には赤だわ。ドラえもんのようなおっきな鈴つけると、小顔効果でさらにかわいく見えるんじゃね?」

「さすがカメラマンですね。頼もしい!アドバイス大歓迎ですよ。共にいいものを作っていきましょう!」

「お、おう!」

「そうそう、慎也。ボク的には女子のユーチューバーも人気が出ると踏んでるんですよ。女子トークを聞きたがるキモオタは意外と多いですからね」

「女子…ですか」

「そうそう、それでミーコちゃんを次の撮影に誘っておきました。彼女のあの弾丸トークはきっと僕達の戦力になるはずですよ」

「お、おう」
ええと、俺ってどこに向かってんのかな?

だけど。

元の社会ではいつまでも下っ端のアシスタントとしてしか見てもらえず、カメラマンとしてそんなに目覚ましい活躍ができなかった俺でも、ここだといっぱしのカメラマンとして大成できるかもしれねーな。

案外ここはおもしれーのかもしれない?

そんなことが頭をよぎった。

爽やか男子猫〈クロ〉は思った以上に腹黒く、金目のものに鼻が効きそうなので、俺は結局クロについて行くしか道はないようだ。

「お、おう!仲間のしるしとして、俺のこと呼び捨てにしてくれていいぞ」

「ボクのことはプロデューサーと呼んでください。そうだなあ、プロデューサーとカメラマンだと、儲けの分け前は7:3ぐらいが妥当かな?ミーコちゃんはたまにキラキラする首輪でもプレゼントしておけば納得でしょう」

こいつ、どこまで腹黒いんだか。

だけど、俺にはこの条件を飲むしか方法はなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...