【R18】お前が好きだから、仕方なく付き合ってやる ～笑顔でお断りしましたが、何か？～

６．ピンチはチャンスと言うが、それは絶対に嘘だ（笑顔で乗り切れない！）

７

　K&Sの社用車に乗せてもらい、後部座席の隅に座った。青山から出発する景色を見ながら、思わずため息を吐きそうになったのを、慌てて飲み込んだ。


　はあぁあぁー。
　その代わり、心の中で盛大に重いため息を吐く。


　気難しい男の得意様か････。さしずめ愛人へのプレゼントを贈った際、壊れたチェーンを見て恥をかかされた、と激昂したとかそういう類なのだろう。青山のブティックでも、ここに置いてある商品は比較的若い女性向けだと思う。二十代から三十代くらいの客層の商品だから。四十代以上となれば、またもっと別の店に行くだろうから。
男の上得意様なんて、きっとロクなものじゃないだろうな。気難しいなんて、余計に最悪だ。

　考え事をしていると、あっという間に豪邸地帯へ到着していた。
　何処を見ても大きな家、いや、最早屋敷というべきか――が立ち並ぶ住宅街へと景色が切り替わっている。
　千代田区富士見のとある一角で車が止められた。この地上五階建ての高級マンションに顧客様は住んでいる模様。外観はラグジュアリーな商業施設の様だ。全面ガラス張りは当たり前、庭の手入れも行き届いた入り口。案内され、一番上の五階の部屋に入った。
　表札等は出ていない。しかし顧客名を聞いて、何となく嫌な感じになった。その顧客名は神原（カンバラ）という男性らしいのだ。まさかとは思うが････。あの、ライバル会社の神原社長じゃないよね････？


　インターフォンを鳴らし、相手が応答するのを待った。既にK&Sの店員がマンション入り口でやり取りをしているので、すぐに『どうぞ』と言う声と共にドアキーが解除された。インターフォン画面のパネルで、開閉キーを操作するタイプのものだろう。
　広い玄関に入ると、早速家主が私達を出迎えた。


「君は少し席を外してくれないか」


　K&Sの社員に告げる声にぞくりとした。背筋が寒くなるこの声――



「ようこそ、杉浦さん。お待ちしておりましたよ」



　こんな珍しい苗字、そうそう他人がいる訳がない。
　やはり、神原の社長だ。
　少し鼻に付くような嫌味な喋り方、本当に大嫌い！


　何せよ、フクシを相当な目の敵にしている事が赦せない！


「どうして貴方がここに？」


　我ながら間抜けな質問だと思う。でも、聞かざるを得ない状況だ。

「自宅ですからねぇ」

　クスクス笑われた。････この男、初めからこれが目的だったんだ。


　・・・・・・・・・・・・・・・・・
　私を一人でここへ寄こしたかっただけ。


　男は嫌いとか体のいい言い訳を盾に、福士社長を来させない作戦だったんだ。という事はまだ････この男はスギウラを諦めていない。