伯爵令嬢は身代わりに婚約者を奪われた、はずでした

佐崎咲

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第1章 アシェント伯爵家の令嬢

第4話

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 銀に近い淡い金色の髪に碧の瞳。
 フリージアにそっくりな少女が邸に連れられてきたその日。
 フリージアはもう二度とグレイとは会えないのだと知った。

「お義兄様、あの、こちらの方は……?」
「リディだ。今日からリディがフリージアとなる」
「え……?」

 にこりと笑みを浮かべた少女は、何故かフリージアのドレスを着ている。

「フリージアはこの邸から出ることはできない。だから代わりにリディにグレイの婚約者となってもらう。もちろん、実際に侯爵家に嫁ぐのもリディだ。フリージアとしてな」

 その言葉にフリージアは耐え難い衝撃を受けた。

「お義兄様……! 約束したではありませんか。グレイ様を、侯爵様を信じるに足るとわかれば会ってもよいと」
「だが今現在信じられるとしても、この先がどうかはわからないだろう? 力があることを知れば、人が変わることだってある」
「お義兄様のように、ですか」

 フリージアは悲しみのあまり余計なことを言ってしまったと、すぐに後悔した。
 しかしカーティスは動揺することもなく、冷たい目をしたままフリージアを見下ろした。

「そうだな。身近に例がいてわかりやすいだろう?」

 ぐっと奥歯を噛みしめ、突き上げる悲しみをこらえた。
 そんなフリージアの前に、リディがすっと進み出た。

「リディよ、よろしく。このために自慢の金髪までフリージアと同じ白けた金に染めたんだから」

 にっこりと笑った少女は、フリージアの目から見てもよく似ていた。
 明るく溌溂とした印象はフリージアとは正反対で、口調もあけすけだ。
 貴族らしくない話し方からすると、下町育ちなのだろうか。
 だが、すぐに淑女の礼をとって見せたことから、既にカーティスによって相応の教育がされていることがわかった。
 髪も染めたせいもあってか、絹糸のようなフリージアの髪と比べればぱさついてはいたが、よく手入れされている。

 つまり、カーティスは最初からフリージアをグレイと会わせるつもりなどなかったのだ。
 フリージアに顔立ちの似た人間を探し出し、淑女教育を受けさせ、準備していたのだ。
 フリージアの代わりに侯爵家へと嫁がせるために。

「これからいろいろと教えてね? あなたに成り代わらなきゃならないんだから」

 成り代わる。
 その言葉がフリージアの胸に重い衝撃をもたらした。

 ――奪われる

 フリージアの大切なものが。
 グレイが。



 ――そんなのはイヤ!!



 初めてフリージアの中に強い衝動が湧きあがった。
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