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第2章 再会
第5話
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二週間後。
二人は夜の間に入れ替わりを決行した。
その日から三日間、カーティスが仕事のため不在の予定だったからだ。
いきなりカーティスに見られては騙し通せる自信がない。
だからどれだけ隠し通せるものか、予行演習のつもりだった。
緊張を押し隠し「おはよ」とリディらしく気だるげな挨拶をしてみせれば、使用人たちからはよそよそしい挨拶が返ってくる。
フリージアには決して向けられることのない態度だ。
そして邸の中でリディとフリージアが入れ替わって二日目。
グレイが訊ねてくることになり、フリージアは浮足立った。
「いい? あんたは本物ではあるけど、グレイは成長したフリージアを私が演じた姿だと思ってる。だからちゃんとそこは合わせてよね」
リディにこっそりとそう言って見送られ、フリージアは高鳴る胸をおさえながらグレイを出迎えた。
久しぶりに向かい合う彼はやはり遠くから見ていたのとは違う。
顔にも体にも丸みはなくなっていて、鼻筋が通り、体はごつごつとしている。
けれど、その優しげな瞳だけは変わらなかった。
「フリージア、久しぶり。会えて嬉しいよ」
リディとは一週間前にも会っていたはずだ。
なのに、グレイは本当に久しぶりに会うみたいにそう言って、嬉しそうに微笑んだ。
この顔が、ずっと見たかった。
けれど、素直に喜びきれず複雑だった。
この笑顔はフリージアではなく、リディに向けられたもの。
そう思ってしまったから。
「私もお会いできて嬉しいです。今日も外に席を設けましょうか?」
「いや。今日はティールームでゆっくり落ち着いてお茶がしたいなと思うんだけれど。いいかな?」
リディとお茶をするときはずっと外だったのに。
今日は風が少し冷たいから、気遣ってくれたのだろうか。
「わかりました。ではどうぞこちらへ」
すぐにティールームに支度をさせるよう指示を出してから、フリージアとグレイは並んで向かった。
それからは夢のような時間だった。
いや、事実夢見た通りだと言っていい。
ずっとこうして顔を見て話したいと思っていた。
それがかなったのだ。
話しているのが楽しくて。
ただ同じ場所にいて、この時間を共有しているだけで嬉しくて。
自然と笑みがこぼれていた。
「またこうしてお話しできるようになるなんて。夢のようです」
グレイに見つめられてそんな風に言われれば、フリージアの顔は赤くなった。
「はい。私も、こんな日はもう来ないかと思っておりました」
「そういえば、リーンにもずっと会っていませんね。元気にしていますか?」
はっとして扉にちらりと目をやった。
そこにいるだろう侍女に聞こえてもいいように、言葉を選ぶ。
「ごめんなさい。リーンは事情があって、ずっと私の傍にいたのです。元気にしています」
手紙に矛盾が出てしまえば、怪しまれてしまうから。
だからリーンは遊びにきてくれるものの、手紙を運ぶのはお願いしていなかったのだ。
「そうでしたか。フリージアにもリーンにも会えず寂しい思いをしていましたが、今日はほっとしました」
優しく微笑んだそんな言葉に、切なくなる。
でもこれからは、うまくやればまた会えるようになる。
「あの――」
フリージアが口を開こうとしたその時。
穏やかな時間は唐突に終わりを迎えた。
強いノックの音に、それが侍女によるものではないことを知る。
まさか、と固まる喉でなんとか「どうぞ」と答えれば、ドアを開けて入ってきたのは義兄だった。
カーティスは、笑みに細めた瞳をまっすぐにグレイに向ける。
「これはグレイ卿。ようこそおいでくださいました」
二人は夜の間に入れ替わりを決行した。
その日から三日間、カーティスが仕事のため不在の予定だったからだ。
いきなりカーティスに見られては騙し通せる自信がない。
だからどれだけ隠し通せるものか、予行演習のつもりだった。
緊張を押し隠し「おはよ」とリディらしく気だるげな挨拶をしてみせれば、使用人たちからはよそよそしい挨拶が返ってくる。
フリージアには決して向けられることのない態度だ。
そして邸の中でリディとフリージアが入れ替わって二日目。
グレイが訊ねてくることになり、フリージアは浮足立った。
「いい? あんたは本物ではあるけど、グレイは成長したフリージアを私が演じた姿だと思ってる。だからちゃんとそこは合わせてよね」
リディにこっそりとそう言って見送られ、フリージアは高鳴る胸をおさえながらグレイを出迎えた。
久しぶりに向かい合う彼はやはり遠くから見ていたのとは違う。
顔にも体にも丸みはなくなっていて、鼻筋が通り、体はごつごつとしている。
けれど、その優しげな瞳だけは変わらなかった。
「フリージア、久しぶり。会えて嬉しいよ」
リディとは一週間前にも会っていたはずだ。
なのに、グレイは本当に久しぶりに会うみたいにそう言って、嬉しそうに微笑んだ。
この顔が、ずっと見たかった。
けれど、素直に喜びきれず複雑だった。
この笑顔はフリージアではなく、リディに向けられたもの。
そう思ってしまったから。
「私もお会いできて嬉しいです。今日も外に席を設けましょうか?」
「いや。今日はティールームでゆっくり落ち着いてお茶がしたいなと思うんだけれど。いいかな?」
リディとお茶をするときはずっと外だったのに。
今日は風が少し冷たいから、気遣ってくれたのだろうか。
「わかりました。ではどうぞこちらへ」
すぐにティールームに支度をさせるよう指示を出してから、フリージアとグレイは並んで向かった。
それからは夢のような時間だった。
いや、事実夢見た通りだと言っていい。
ずっとこうして顔を見て話したいと思っていた。
それがかなったのだ。
話しているのが楽しくて。
ただ同じ場所にいて、この時間を共有しているだけで嬉しくて。
自然と笑みがこぼれていた。
「またこうしてお話しできるようになるなんて。夢のようです」
グレイに見つめられてそんな風に言われれば、フリージアの顔は赤くなった。
「はい。私も、こんな日はもう来ないかと思っておりました」
「そういえば、リーンにもずっと会っていませんね。元気にしていますか?」
はっとして扉にちらりと目をやった。
そこにいるだろう侍女に聞こえてもいいように、言葉を選ぶ。
「ごめんなさい。リーンは事情があって、ずっと私の傍にいたのです。元気にしています」
手紙に矛盾が出てしまえば、怪しまれてしまうから。
だからリーンは遊びにきてくれるものの、手紙を運ぶのはお願いしていなかったのだ。
「そうでしたか。フリージアにもリーンにも会えず寂しい思いをしていましたが、今日はほっとしました」
優しく微笑んだそんな言葉に、切なくなる。
でもこれからは、うまくやればまた会えるようになる。
「あの――」
フリージアが口を開こうとしたその時。
穏やかな時間は唐突に終わりを迎えた。
強いノックの音に、それが侍女によるものではないことを知る。
まさか、と固まる喉でなんとか「どうぞ」と答えれば、ドアを開けて入ってきたのは義兄だった。
カーティスは、笑みに細めた瞳をまっすぐにグレイに向ける。
「これはグレイ卿。ようこそおいでくださいました」
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