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第4章 来客
第2話
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最近なんだか使用人たちのフリージアを見る目がとても優しい。
最初からよくしてくれていたが、日増しに使用人たちの笑みが増していくように感じていた。
フリージアを『リークハルト侯爵子息の奥さん』ではなく、フリージアとして慕ってくれるようになってきたのだろう。
そう感じられて、フリージアは満ち足りた日々を送っていた。
のだが。
「フリージア様、お幸せそうで私たちも嬉しいですー」
「本当にフリージア様はグレイ様がお好きなんですね!」
「家のために決まった結婚なのに、お二人がこんなにも思い合っているなんて。ああ、素敵……!」
そっくりな顔のサシャ、ユーシャ、ミーシャに口々に言われ、フリージアは戸惑った。
「今朝も、本当に幸せそうな声が邸中に響いて、私たちも幸せな気持ちになりましたー」
ポニーテールのサシャにそう言われ、フリージアはぴきり、と動きを止めた。
「え……。え? 聞こえて……たの?」
「はい! 『幸せな気持ちだわ。ずっとこうしていたい』って聞こえました」
「私は『夢みたい』、とだけ聞こえました」
「私は『グレイ様がまだ起きなければいいのに』と」
微笑んだあたたかな目が、今はフリージアの首を真綿でぎゅっと締めているようだった。
「は……恥ずかしい……! 聞こえていたなんて、思わなかったわ。私、そんなに心で強く思ってしまったかしら」
「私はお二人の寝室からそれほど遠くないところにおりましたから」
「私もミーシャと一緒にいましたー」
「ごめんなさい、私はその時一番離れた厨房にいましたけど、聞こえてしまいました」
フリージアは思わず両手で顔を覆った。
恥ずかしい。
朝の、そんな無防備な声を聞かれてしまうのはあまりに恥ずかしい。
しかしふっと気が付いた。
「でも……、それならみんなと心が通じたということなのね。私を受け入れてくれたということね。それはとても嬉しいわ。教えてくれてありがとう、サシャ、ユーシャ、ミーシャ」
恥ずかしいことに変わりはない。
けれど、それに勝る嬉しさがあった。
顔を赤らめながらも微笑めば、三人も同じように笑みを返してくれた。
「フリージア様も、私たちを受け入れてくれたということですから。だから初めて聞こえた時、私たちとても嬉しかったんです」
「でも『私は聞えた』、って言ってしまうと、まだ聞こえてない他の人たちが寂しい気持ちになるかなと思って、言えませんでした」
「ずっと黙っていてごめんなさい」
「そうだったのね……」
確かに、そうではない者がいれば、フリージアに受け入れられていないのだと思ってしまうかもしれない。
自然とそういう配慮までできる仲間思いで主人思いな使用人たちに囲まれて、フリージアは幸せだなと改めて思った。
「けど、今日は邸中のみんながとてもにこにこしていましたから。もうみんな聞こえてるんだなってわかりました」
「みんな、嬉しいんですよ」
「ええ。本当に。奥様は……、そういう方ではありませんでしたから、なおさら」
ユーシャがそう呟けば、二人は沈んだ顔になった。
「グレイ様から聞いたわ。お義母様はグレイ様を受け入れることができなかった、って」
自分が産んだ息子すらそうなのだから、邸の使用人たちのこともまた受け入れられなかったのだろう。
「はい。私たちは代々このお邸に仕えておりますので、そのことも伝え聞いておりまして。だから、グレイ様の奥様はどんな方かって、ずっと不安だったんです」
「グレイ様がフリージア様をとても大切に思っていらっしゃるのはわかっていましたけど、でも、混血であることを受け入れてくれるかどうかはまた別のお話ですから」
「好きでも受け入れられない。いえ、好きだからこそ受け入れられないということが、よくあるのです」
口々にそう告げた三人に、フリージアは彼女たちがこれまで辛い思いをしてきたのだということを思い知った気がした。
それでも結婚式のあの日、不安を押し隠して笑顔で受け入れてくれたのだと思うと、感謝ばかりがわいた。
同時に、そんな彼女たちをフリージアがグレイと共に守っていきたいと心から思った。
その日、リークハルト侯爵家には一人の客人が舞い込んだ。
フリージアが嫁いで初めての客だった。
最初からよくしてくれていたが、日増しに使用人たちの笑みが増していくように感じていた。
フリージアを『リークハルト侯爵子息の奥さん』ではなく、フリージアとして慕ってくれるようになってきたのだろう。
そう感じられて、フリージアは満ち足りた日々を送っていた。
のだが。
「フリージア様、お幸せそうで私たちも嬉しいですー」
「本当にフリージア様はグレイ様がお好きなんですね!」
「家のために決まった結婚なのに、お二人がこんなにも思い合っているなんて。ああ、素敵……!」
そっくりな顔のサシャ、ユーシャ、ミーシャに口々に言われ、フリージアは戸惑った。
「今朝も、本当に幸せそうな声が邸中に響いて、私たちも幸せな気持ちになりましたー」
ポニーテールのサシャにそう言われ、フリージアはぴきり、と動きを止めた。
「え……。え? 聞こえて……たの?」
「はい! 『幸せな気持ちだわ。ずっとこうしていたい』って聞こえました」
「私は『夢みたい』、とだけ聞こえました」
「私は『グレイ様がまだ起きなければいいのに』と」
微笑んだあたたかな目が、今はフリージアの首を真綿でぎゅっと締めているようだった。
「は……恥ずかしい……! 聞こえていたなんて、思わなかったわ。私、そんなに心で強く思ってしまったかしら」
「私はお二人の寝室からそれほど遠くないところにおりましたから」
「私もミーシャと一緒にいましたー」
「ごめんなさい、私はその時一番離れた厨房にいましたけど、聞こえてしまいました」
フリージアは思わず両手で顔を覆った。
恥ずかしい。
朝の、そんな無防備な声を聞かれてしまうのはあまりに恥ずかしい。
しかしふっと気が付いた。
「でも……、それならみんなと心が通じたということなのね。私を受け入れてくれたということね。それはとても嬉しいわ。教えてくれてありがとう、サシャ、ユーシャ、ミーシャ」
恥ずかしいことに変わりはない。
けれど、それに勝る嬉しさがあった。
顔を赤らめながらも微笑めば、三人も同じように笑みを返してくれた。
「フリージア様も、私たちを受け入れてくれたということですから。だから初めて聞こえた時、私たちとても嬉しかったんです」
「でも『私は聞えた』、って言ってしまうと、まだ聞こえてない他の人たちが寂しい気持ちになるかなと思って、言えませんでした」
「ずっと黙っていてごめんなさい」
「そうだったのね……」
確かに、そうではない者がいれば、フリージアに受け入れられていないのだと思ってしまうかもしれない。
自然とそういう配慮までできる仲間思いで主人思いな使用人たちに囲まれて、フリージアは幸せだなと改めて思った。
「けど、今日は邸中のみんながとてもにこにこしていましたから。もうみんな聞こえてるんだなってわかりました」
「みんな、嬉しいんですよ」
「ええ。本当に。奥様は……、そういう方ではありませんでしたから、なおさら」
ユーシャがそう呟けば、二人は沈んだ顔になった。
「グレイ様から聞いたわ。お義母様はグレイ様を受け入れることができなかった、って」
自分が産んだ息子すらそうなのだから、邸の使用人たちのこともまた受け入れられなかったのだろう。
「はい。私たちは代々このお邸に仕えておりますので、そのことも伝え聞いておりまして。だから、グレイ様の奥様はどんな方かって、ずっと不安だったんです」
「グレイ様がフリージア様をとても大切に思っていらっしゃるのはわかっていましたけど、でも、混血であることを受け入れてくれるかどうかはまた別のお話ですから」
「好きでも受け入れられない。いえ、好きだからこそ受け入れられないということが、よくあるのです」
口々にそう告げた三人に、フリージアは彼女たちがこれまで辛い思いをしてきたのだということを思い知った気がした。
それでも結婚式のあの日、不安を押し隠して笑顔で受け入れてくれたのだと思うと、感謝ばかりがわいた。
同時に、そんな彼女たちをフリージアがグレイと共に守っていきたいと心から思った。
その日、リークハルト侯爵家には一人の客人が舞い込んだ。
フリージアが嫁いで初めての客だった。
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