呪いの騎士と生贄の王女

佐崎咲

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第十二話 切り開いた道

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 騎士たちは勝鬨の声を上げ、互いに抱き合い、魔王の消滅を喜びあった。
 その中をプリメラは「行くわよ」とロードに声をかけ、颯爽とその場から姿を消した。

 そうしてブリジットのいる場所へと戻り、魔王がいなくなったことを報告した。
 晴れ晴れとした顔で姉妹は抱き合い、それから騎士たちよりも先にと岩山を出た。
 そのままイザベラの元へとブリジットを送り届けると、久しぶりの三姉妹の再会もそこそこにプリメラは王都へと向かう馬車に乗り込んだ。
 いなくなったプリメラをエドワードが心配しているだろう。

 疲れ切ったらしいプリメラはがたごと揺れる馬車のなかでくうくうとかわいらしいいびきを立てている。
 それを一人眺めながら、ロードはずっと考え込んでいた。
 切り開かれたこの先を。
 プリメラの「滅び去れ魔王!」とかわいらしくはない寝言に思考を邪魔されながら。

 魔王が消えると、多くの魔物は人間に恐れをなしたのか、大手を振って闊歩することはなくなり、森に隠れ住むようになったようだ。
 それだけで人間への被害は各段に減るだろう。
 この国も少しずつ平和を取り戻していくにちがいない。

 城に戻ると、中庭でエドワードに行き会い、プリメラは約束通りしっぺ十回をその細い腕に受けた。
 剣で鍛えた腕にしては、エドワードのしっぺは優しく撫でるようなものでしかなかった。
 プリメラがブラコンになるわけだ。

「反省しているのか?」
「……」

 そこは嘘でもハイだろう。

「わかっているのか? 私の大事な妹の身を危険に晒すのではない!」

 そう言ってエドワードはプリメラをがばりと抱きしめた。
 一瞬ロードに言われたのかと全身に冷や汗をかいたが、「ごめんなさい」と呟いたプリメラの肩越しにじっとこちらを見られていたということは勘違いでもなかったようだ。

「お兄様に救っていただいた命です。私もお兄様のように、王女として今後魔王の被害に遭う人がいなくなるよう全身全霊をもって努めねばならないと邁進しただけのことです」
「おまえがいきなり魔王に斬りかかったときは心臓が破裂するかと思った」

 それはロードも思った。

「魔王に跳ね飛ばされながらもまた向かって行った時にはもうやめてくれと思った」

 それも思った。

「最後に一刀を背後の騎士に譲ったのは、心から安堵した」

 本当にそう。

「だが結果としてプリメラは無事帰った。だから言わねばならない。この国のため、よく働いてくれた」
「はい!」

 目に涙を浮かべ抱き合うプリメラを見て、ロードはその場をそっと離れようとした。
 しかしすぐにバレて「君がロードだな」と王太子に声をかけられた。

「プリメラ。母上が心配してずっとおろおろ歩き回って憔悴しているよ。無事な顔を見せて止めてあげて」
「はっ! そうでした。すぐ向かいます」

 プリメラは思い出したように王太子からがばりと離れ、中庭から小走りに駆け去って行った。
 その後ろ姿を見送り、くるりとロードに向き直った王太子エドワードは、にこりと笑顔を浮かべた。

「プリメラが強引で悪かったね」
「いえ。命を救われた大事な兄弟を失いたくないと思う気持ちは理解できますから」
「ああ、そっちの話か。だが生贄なんて無意味だと私が直訴したのは、きっかけはプリメラだったんだよ」

 どういうことかとロードがエドワードに目を向けると、思い出すようにふっと笑った。

「父から『次の生贄はお前だ。覚悟しておくように』と告げられたまだ幼いプリメラは首を傾げて言ったんだ。『何故生贄は王女でなければならないのですか?』とね」

 幼い、しかし純粋な疑問に、国王は『魔王への捧げものなのだから、若い女でなくてはならないだろう』と答えた。
 だがプリメラはさらに首を傾げた。
『魔王の好みをご存じなほど意思の疎通がはかれているのですか? それなら、交渉により平和の糸口を探り根本解決に努めたほうがよろしいのでは?』

 それを聞いた国王陛下は閉口しつつも『魔王の好みなど知らん』と突っぱねた。
 それに対しプリメラは反対側に首を傾げ、にこっと笑った。
『なら渋みがかったおじさまが好みかもしれませんね。試してみられては?』と。

 鶏肉も雛鳥が好きな人もいればしっかりした親鳥が好きな人もいる。脂肪の多い雌鶏が好きな人もいれば、筋肉質な雄鶏が好きな人もいる。
 魔王の好みにあえば、満足して生贄を求める間隔も長くなるかもしれず、そうなれば犠牲者の数も少なく済む。
 それがプリメラの主張だった。

「しかし国民に代わって王家が犠牲を払うという慣習が続いてきた背景からすれば、プリメラが言っているのは『父上が行けばいいんじゃないですか?』ということになる。父もそう捉えて、『私には国を守り、導く役目がある』と腹立たしげに返したんだけど。プリメラは全然納得していなかったんだよね」

『私が将来お父様よりも国民に必要とされる立派な人間になる可能性もあります。私はまだ子どもで、この先どのように成長するのかわからないのですから、早々に決断されるのはリスクではありませんか?』

 ――ですが今、お父様の代わりをできる方はいますよね?

 暗にそう問われた国王は顔を真っ青にするやら真っ赤にするやら、そのまま立ち上がって部屋を出て行ってしまったそうだ。
 実の娘にそんなことを言われて平静でいられるわけがない。
 しかし国王こそが同じことを先に実の娘に告げたのだ。

「その会話を聞いていた者たちは、なんと非情な娘だと言ったけれど、父は既に姉と妹たちを生贄として送り出している。なぜ父親はだめなのに娘はいいのか。私も初めてそう思ったよ」

 それがきっかけとなり、生贄を捧げることに疑問を持ち、膨大な情報を集計し、意味などないと立証して見せたのだ。
 プリメラも、エドワードも、イザベラも、ブリジットも。
 生贄を送り出す国王の子供たちは、『生』へ向かう道を辿ったのだ。

「そんなプリメラだから、君のことを放っておけなかったのだろうね。私に呪いなどないと証明してみせると豪語したのは、それだけじゃないんだろうけど」

 そう言ってエドワードは笑みを浮かべると、プリメラの後を追うように中庭を去っていった。

 プリメラも、ロードも、生まれた時から背負ってきたものをやっと追いやることができた。
 だがどんな立場の人間であれ、何かに縛られている。
 どんな望みも叶えられるわけではなく、そのためには――。
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