鍛えすぎて婚約破棄された結果、氷の公爵閣下の妻になったけど実は溺愛されているようです

佐崎咲

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その後

番外編:シリスの懸念

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「なあ、旦那」

「なんだ」

「我慢に我慢を重ねてやっと今が幸せの絶頂なんだってことはわかってるけどさあ。あれじゃ奥方が死ぬぞ? いや、いくら鍛えてるとは言えなー。だって毎日昼まで起きられなくなってんだぞ」

「わかっている…。わかっているが、無理なんだ」

「なんでだよ。……いや答えはわかってる気がす」

「ティファーナがかわいすぎるんだ!! 私にもどうしたらいいのかわからない。あの潤んだ瞳で名を呼ばれると、もう理性など吹っ飛んでしまうのだ」

「あー、うん。そうか。じゃあショウガナイネ」

「私を見て顔を赤らめるのを見ていたら止まれるものも止まれなくなる。それが道理だろう」

「ハイハイ」

「あのティファーナが! あのティファーナがだぞ!? 今や惜しげもなく『好きです』と言ってくれるようになったのだ。何が起きたのだと思う? なあ、シリス。私は幸せすぎて怖い」

「じゃあ俺、休憩入りまーす」

「待て。助けてくれ。どうしたらティファーナを大事にできる? このまま愛しすぎたら壊してしまうのではないかと不安なのだ」

「いいんじゃないの? ティファーナも幸せそうだし」

「名を呼ぶな。しかし、そうか? そう見えるか?」

「ハイハイ奥方ね。まあ、だって最近いっつもぽっとしてるし、思い出しては顔を真っ赤にしてじたばたして、疲れ果てて息切れしてるし」

「待て。それをお前が見ているというのが気に食わない」

「はああ?! おい、色ボケも大概にしろよ!? 俺はあんたに頼まれたから奥方に張り付いて」

「いや、わかっている。わかっているのだが、許せん」

「全然わかってねえじゃん……。あのさあ、旦那。そんなんで奥方に飽きられない? 引かれない? もっとこうさ、駆け引きとかさあ」

「飽きられたくはないし、引かれたくもないが、駆け引きなんぞはしない。万が一にもティファーナを傷つけるようなことはしたくないからな」

「なあ、氷の公爵閣下とかどこ行ったわけ? そんなんでまともに仕事できんの?」

「仕事に私情は挟まない」

「そんなこと言ってさあ、毎日毎日そんな甘々で、周りにもバレてんじゃないの? ナメられるよ。ティファーナだって……いや睨むなよこえぇから、奥方な? ハイハイ。いやうん、今ので氷の公爵閣下が健在なのは十分わかったよ。
 まあ、あれだよ。とにかく旦那はさ、ちょっとぐいぐい行くの控えてみたら? 奥方の方から来てくれるようになるかもよ?」

「そうか? だが、今でもティファーナはわりと……」


 耐えきれなかった。
 私はドアを勢いよく開けて中へと踏み込んだ。


「シリス!!」

 部屋の中には驚いた顔のシリスと、クレウス様。

「やっべ、いたの? つい話に夢中んなって、気付かなかった。俺マジで日和ってんなー。もうダメかも」

 シリスが真顔でぼやいたので、私はきっとそちらに顔を向けた。

「ダメじゃないわ。私も自分を平和ボケしたと思ったこともあったけれど、それは生きる上で大切なことよ。同じ生きているのなら、日常を楽しまなきゃ損よ。平和になった分、シリスも気を抜けばいいのよ」

「いやあ、そうやってさあ、俺に睡眠時間はくれるし、食事は三食しっかり座って摂らせるしさ」

 それはホワイト企業を目指しているからだ。
 いつも飄々としたシリスには珍しく、ぼりぼりと頭をかきながら言葉に迷っていたから私が続けた。

「シリス一人が一日中私を守らなきゃいけないことになったら、パフォーマンスが落ちるでしょ」

「だけどそのせいであんたが連れ去られたんだってわかってる?」

 なるほど。殊勝にも私が連れ去られたのは自分のせいだと思っているのだろう。

「無事だったじゃない。メアリーが助けを連れて来てくれたし、クレウス様なんて隠れ筋肉だし、敵にはわりと容赦しないし、私だって相変わらず鍛えてるし。ちゃんと立派に戦ってきたわよ? そもそも、自分のことは自分が守る前提なの。それに加えてシリスが守ってくれてただけ。だからシリスのせいじゃない」

 はっきりとそう告げれば、シリスは困ったような顔になって、それから大きなため息を吐いた。

「だめだこりゃ。俺、とても他でやっていけそうにないわ」

「だからずっとここにいればいいって言ってるでしょう?」

 クレウス様も笑ってシリスを見ている。
 二人からじっと見られ、シリスはやがて「お手上げ」というように両手を上げ、すたすたと部屋の扉に向かって歩き出した。

「あーはいはい。考えときますよっと」

 そうして背を向けて扉が閉まると、私はクレウス様と目を見合わせ、少しだけ笑った。

「暗殺者を飼いならしてしまうとは、本当に妙なことになったな」

「始まりはクレウス様じゃないですか。突拍子もない発想ですよ」

「あの気まぐれを納得させたのはティファーナだ」

 お互いに言い合って、また笑ってしまった。

「ところで、クレウス様」

「ああ、なんだ?」

「私はクレウス様に飽きたりしませんし、引きません。時々困るだけです。それと、あんまり距離を置かれてしまったら、寂しいです。もう、いつものクレウス様に慣れてしまったから……」

 おずおずと告げれば、クレウス様はわずかに言葉を詰まらせた。

「ほとんど最初から、聞いていたのだな?」

「はい、ごめんなさい。入るタイミングがわからなくなってしまって」

「いや、いい。ティファーナに隠すことなど何もないからな」

 そう言ってクレウス様はまたも私を甘やかす。
 駆け引きなんてしないでほしい。
 これまでクレウス様が私に示してくれていた愛情を控えられたら、どうしたのだろうと不安になるし、寂しくなる。
 それは本心で。
 だけど。

「あの……。やっぱり一つだけ。人目があるところでは控えてください」

「それはティファーナ次第だな」

 そう言って笑ったクレウス様に抱き締められて、また私は諦めにも似たため息を吐き出すのだった。
 顔が笑っているのが、幸せのため息と言われてしまう所以なのだとはわかっていながら。
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