鍛えすぎて婚約破棄された結果、氷の公爵閣下の妻になったけど実は溺愛されているようです

佐崎咲

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その後

番外編.ティファーナ様観察日記(記録者:メアリー)

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 これまでクレウス様への報告は口頭でしていましたが、あの事件の翌日、クレウス様からもっと詳しくティファーナ様の様子を報告してほしいと言われました。
 そんなに細かくは覚えていられないので、こうして記録をつけることにしました。

〇月×日
 ティファーナ様は今日も昼近くになるまでお眠りになっていました。
 最近はいつもそうです。
 やはり事件のショックが長引いているのでしょうか。
 まだ三日しか経っていないので、仕方のないことかもしれません。
 それに起きるとぼうっとしていて、顔も赤いので風邪なのではと心配なのですが、何故か侍女頭に報告しても取り合ってもらえません。
 侍医のセイラスさんもにっこりとして「放っておきなさい」と言っていたので、様子を見ることにします。

 昼になり、素振りを始めても、ぼんやりと玄関の辺りを見ています。
 どこか壊れていたでしょうか。掃除が行き届いていないところがあったでしょうか。
 ティファーナ様に訊いてみても、ぼんやりとしていて返事が返ってきません。
 後で確認しておこうと思います。

 夕方が近づくにつれて、ティファーナ様はどんどんそわそわとし始めます。
 クレウス様がお帰りになると知らせが入ると、もはや何も手につかなくなり、うろうろし始めます。
 そしてクレウス様がお帰りになった瞬間、ぱあっと顔を明るませて、クレウス様と楽しそうにお話を始めます。
 私が話し相手にならず、退屈なさっていたのかもしれません。

 このように淡々とティファーナ様の様子と、それについて思ったことを書き連ねてクレウス様に渡したところ、クレウス様はただ一言、「かわいいか!」と呻きました。
 クレウス様がいない間のことを、もう少し詳しく書いてほしいと言われましたが、文字はまだ苦手なので練習が必要です。



〇月△日
 今日はドレスを買うため、クレウス様とティファーナ様は揃って街にお出掛けになられました。
 私もお供をしたのですが、つい習性で猫から逃げてしまいました。
 親切そうな男の人が助けてくれたのですが、路地裏に連れ込まれ、気付けば何人かに囲まれるというよくわからない事態になっていました。

 どうしようかと慌てていると、私に迫ってきた男の脳天にティファーナ様の鋭いピンヒールの踵がかち割るように叩き込まれました。
 男がくずおれた向こうでは、クレウス様が華麗な回し蹴りを決めていて、さらにはティファーナ様も止まることなくそのまま強烈な肘鉄をもう一人の男の腹にめり込ませていました。
 恐ろしさとほっとした安心感で私が泣き出してしまうと、ティファーナ様が「もう大丈夫よ」と優しく抱きしめてくれました。
 思わず惚れそうなほどにかっこよかったです。
 だけど後ろでクレウス様が羨ましそうに見ていたので、自分だっていつもしているくせに、と思いました。

 案の定、馬車の中で頭から花が生えそうなほどにイチャイチャとし始めたので、飛んでお邸に帰らせてほしいとお願いしたら、ティファーナ様が顔を真っ赤にして「ごめんね」と私に謝り、クレウス様をきっと睨んでいました。
 それでも悪びれないクレウス様は、「ははははは、すまないメアリー。だがティファーナ。それは逆効果だな」とか言って留まるところを知らなそうだったので、私は邸に着くまで寝ることにしました。

 クレウス様はティファーナ様が何をしてもかわいいみたいです。
 でもそれは私にもわかる気がします。
 最近、クレウス様の傍にいるティファーナ様は、表情がとろけるように柔らかくて、頬が薄紅を引いたように赤くて、それからとても幸せそうな目をしています。
 同僚のリタは「恋する乙女だからよ」とクールに笑っていましたが、お邸の人たちもどこか嬉しそう。
 どうやら、クレウス様が長年ティファーナ様を想い続けてきたことを知っていて、ずっと見守っていたようです。
 時々熱い視線を交わし合っているのを見ると、くるりと踵を返したくなるというのは使用人たちの総意ですが。



〇月□日
 最近、夜中にティファーナ様が悲鳴を上げることがなくなりました。
 ほんの時々でしたが、これまで何度かそういったことがある度にクレウス様が優しく手を握り、その背をそっと撫でていました。
 ティファーナ様もその手を強く握り返し、しゃくりあげながら泣いています。
 何か言っているのが聞こえますが、悔しい、死にたくない、とだけしか聞き取れません。
 クレウス様はその度に、うん、うん、と聞き、それから「もう大丈夫だ。ティファーナは強くなった、今なら勝てる。私も傍にいる。一人じゃない。共に戦おう」と優しく、力強く声をかけると次第にティファーナ様は落ち着かれます。
 慌てて駆け付け、その様子を見守っていた私は、クレウス様に「しぃ」と人差し指をたてられ、そっと部屋へと戻るのですが。

 もうティファーナ様は、怖くなくなったのだと思います。
 きっと、連れ去られたあの時、クレウス様が助けにきてくれたから。

 あの時。
 それまで張り詰めていたティファーナ様の顔が一気に緩み、ぽろりと涙を零された時、私も心の底からよかったと安心したことを強く覚えています。
 もうティファーナ様は一人で頑張らなくていいんだ。
 そう思ったら、私までほっとして、涙が出そうになりました。
 ずっとずっと、ティファーナ様がどれほど努力をしてきたか知っているから。

 お互いに助け合ったり、支え合ったり。
 人間っていいなって思いました。
 その仲間に入れてもらえたことも、嬉しいです。
 正体がバレるのを覚悟して私が屋根を蹴破って現れたとき、ティファーナ様は驚いたものの、その目に嫌悪の色は浮かべませんでした。
 きっとティファーナ様なら大丈夫だと思ってはいましたが、それでも当たり前みたいに受け入れてくれたことがとても嬉しかったです。

 そしてティファーナ様は何度も私にありがとうと言ってくれました。
「メアリーがいなかったら、クレウス様があんなに早く助けに来ることはできなかったわ。何より、メアリーが飛び込んできてくれてとても心強かった」と、そう言ってくれます。

 何もできない、逃げるばかりだった私が、初めて誰かの役に立てたことが嬉しい。
 認められることが、必要とされることが、嬉しい。
 だから私はずっと、この優しくて温かい、そして笑ってしまうほどお互いを想い合っている主人夫妻のお傍に仕えていきたいと思います。
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