タブー的幻想録

ももいろ珊瑚

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第二章 扉をひらく鍵穴を探して

SMコーナーに佇み思案する彩香

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 (SMという単語は街に溢れていて、どこでも目にするし耳にもするのに。あれはあれでというのがルールなのかもしれないな)


 アダルト書籍が陳列される書棚の前には、ある種の雰囲気を漂わせた男達が一定距離を置き、好みの本を必死に選っては眺めている。
 目が合っては気不味きまずいだろうと思い、出来るだけ気配を消して後ろを通るが、こんな所に女が入っていくのだから目立ってしまう。

 焦りつつそこをスルーして『SM・マニア』と指し示された一画まで来た時、それまで恍惚とした表情を浮かべ手にした本に見入っていたそこに居た客達が、顔をこちらにも向けずサササッと奥の方へ去って行く。

 (人間の気配を察知した時のあの虫のよう)

 かれらの姿を見て失礼にもそう思い、失笑してしまった。

 他の棚では、女が入って来て居住まいは悪そうにはしているが堂々と裸の写真を見ている。 対して此処は違うカテゴリということか。
 そして私は、モロにそれが載っているような背表紙と専門書っぽいハードカバーがバラバラに並んでいる棚の前にひとりたたずむ形となった。

 (ボヤ騒ぎでも起きない限り手に取るなんてムリ)

 それに加えて、離れている所にいる男達の視線が、徐々に危ない光を湛えてきているようで。 痛い。
 いたたまれず外に出た時、透からのメールが三通届いていた。



 後日、駅前の客のいなさそうな小さな書店を見付け、参考になりそうな物を物色してみたが『How Toモノ』とか『初心者向け』みたいなのは無く、少女漫画と思わせる表紙絵のアブノーマル系の漫画を二冊買い家に持ち帰った。
 SMと思わしきものとそれ以外の事が雑多に描いてあった。

(いろんなのがあるんだね)

 それなりに納得するモノと眉をひそめるモノと想像していた事とは違うモノ、エトセトラ
 ノーマルとの違いを“痛い痛くない”くらい、とは思っていなかったけれど、この中で何を彼は望むのだろう?

「見てて余計に分からなくなってしまった」

 不要と判断して、これらを二重に別の紙袋に入れ厳重にガムテープで封をして、燃えるゴミに紛れさせ捨てた。
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