空を翔ける鷲医者の異世界行診録

川原源明

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第7章

第86話 大型感染装置破壊作戦

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 南橋・港口・診療所の三方向で同時に戦闘が激化していた。爆発音と怒号が入り混じり、港町全体が戦場と化している。俺は上空からの即応支援で各戦線を回るが、防衛線は徐々に押し込まれ、住民の避難経路が寸断されていく。

 南橋では、爆破により損傷した橋板を利用して敵が浸透を図っている。住民たちの漁網による阻止行動も限界に近く、黒ずくめの兵士たちが一歩ずつ町の中心部に近づいていた。

 港口では防衛隊が善戦しているものの、敵の火矢攻撃により防壁の一部が炎上している。煙で視界が悪化し、防御側の連携にも支障をきたしていた。

 診療所周辺では、患者の避難を続けながらの戦闘となり、医療スタッフも武器を手に取って応戦している。しかし、非戦闘員を守りながらの戦いは制約が多く、敵の進攻を完全に食い止めることは困難だった。

 その最中、俺は診療所の近くで異様な物体を発見した。これまでの携帯式散布装置とは比較にならない巨大な金属製の装置が、建物の陰に隠すように設置されている。

 **汚染液散布用の大型装置**――高さは人の背丈ほどもあり、表面には複雑な配管と圧力計が取り付けられていた。これはこれまでの携帯式ではなく、町全域を覆うほどの広範囲散布能力を持つものだった。

 装置の構造を特殊能力で分析すると、その恐ろしい性能が明らかになった。内部には大容量の汚染液が貯蔵され、高圧噴射システムにより半径数キロメートルにわたって散布が可能だ。

 敵の本当の狙いは港町全体を「汚染死地」に変えることだった。これまでの攻撃は全て、この装置の設置と起動のための陽動作戦だったのだ。

「リィナ! バルグ! 診療所の裏に巨大な散布装置がある!」

 俺の警告に、二人は即座に反応した。リィナは薬剤抽出作業を中断し、バルグと共に装置破壊へ向かう。彼女の表情には、医者としての責任感と怒りが混じっていた。

「患者たちを見殺しにするつもりね……絶対に許さない!」

 バルグも斧を握りしめ、戦闘態勢を整える。

「よし、ぶっ壊してやる! あんな化け物、この世にあっちゃいけねぇ!」

 俺は空から敵部隊の連絡役を断ち、装置の警護部隊を孤立させる作戦に出る。敵の通信兵や伝令を狙い撃ちし、装置周辺の敵を支援から切り離す計画だった。

 上空から観察すると、装置の周囲には精鋭部隊が配置されており、警戒は厳重だった。しかし敵の指揮官は練度の高い狙撃手を配置しており、空からの接近は危険だった。

 建物の屋上に潜む狙撃手が、俺の動きを追って照準を合わせている。弓矢だけでなく、小型の投擲武器も準備されており、上空からの攻撃を想定した対策が講じられていた。

 俺は医者としての判断力を活かし、周囲の環境を利用して狙撃線を遮断する作戦を立てた。海風の流れ、戦闘で発生した煙、そしてリィナが使用した薬草粉末の残滓――これらの要素を組み合わせれば、視界を攪乱できるはずだ。

 翼で海風を巻き上げ、燃える建物からの煙を狙撃手の方向に誘導する。同時に、地面に散らばった薬草粉末を舞い上がらせ、化学的な煙幕を作り出した。

 狙撃手の視界が遮られた隙を突き、俺は急降下で敵の通信網を破壊する。伝令兵の持つ連絡用具を爪で引き裂き、手旗信号を送ろうとする兵士を突風で吹き飛ばした。

 地上では、リィナとバルグが装置に接近していた。しかし、警護部隊の抵抗は激しく、なかなか装置に近づけずにいる。

「この装置、起動が始まってる!」

 リィナの叫びに、俺の血が凍りついた。装置の表面で圧力計の針が上昇し、内部で何らかの反応が進行している。完全起動まで、あと数分しか残されていない。

 俺は最後の手段として、自らを囮にして敵の注意を引きつけることにした。狙撃手の射程に入る危険を承知で、装置の真上に舞い降りる。

 矢が風を切って飛んでくるが、間一髪で回避し、翼で装置の配管を叩く。金属の軋む音と共に、圧力システムに異常が発生した。

 その隙にバルグが突進し、斧で装置の主要部分を破壊にかかる。

「でかいだけで、作りは案外雑だな!」

 彼の豪快な攻撃により、装置の外装が大きく損傷した。しかし、内部のコアシステムはまだ機能しており、汚染液の散布は続行される可能性がある。

 リィナが即席で調合した腐食性の薬品を装置に投げつける。

「これで内部回路を破壊できるはず!」

 化学反応により装置内部で爆発が起こり、ついに散布システムが停止した。終盤、装置は爆破寸前まで起動が進んでいたが、リィナの即席薬品とバルグの怪力で辛くも阻止できたのだ。

 しかし、安堵している時間はなかった。同時に港町全体が煙と炎に包まれ、各所で戦闘が激化している。そして、俺は海の彼方に新たな脅威を発見した。

 **次の敵増援が海上から接近している**ことが判明――水平線の向こうに、複数の船影が見えていた。

「まだ終わりじゃない……本当の戦いはこれからだ」

 俺は仲間たちと視線を交わし、次なる戦いへの覚悟を決めた。港町の運命をかけた戦いは、さらなる激戦の局面を迎えようとしていた。

 海風が強まり、煙が流れていく。その向こうから迫りくる敵の船団に対し、俺たちは最後の防衛線を築かなければならない。治療薬の完成と港町の平和のため、戦いは続く。
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