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しおりを挟むナミアは申し訳なさそうに、ドアの向こうに返答した。
「あの、すみませんが……急にそんなことを言われても、その……困ってしまうといいますか……」
当然、彼はヤンダークの告白を断る。
すると、扉の向こうが一瞬しずかになった。
次いで、やや声量を落としたヤンダークの声が返される。
「……俺の、このたぎる想いを……受け止めてはくれないと?」
「えっと、よくわかりませんけど……せめて、お友達から――」
刹那、店の窓ガラスを割って、なにかが飛び込んできた。
見ると、床に転がっているのは筒のようなものである。そこから、勢いよく煙が噴き出していた。
ドアの向こうで、ヤンダークが高笑いをあげる。
「あっはっはっは! 照れているんだね! わかる、わかるとも! いきなり国の王子に告白されて恥じらう気持ち! でも、大丈夫! 俺に身を任せれば、そんな緊張はすぐにほぐれてしまうとも!」
筒から噴出する煙は、瞬く間に店中に充満した。
ニアンナとナミアは、咄嗟にくちを塞ぐ。
「大丈夫、毒じゃない! ただ、その煙を吸うとちょっとばかし、いやらしい気分になるだけさ! そうして、火照った体に苦しんだ君は、俺に助けを求めたくてたまらなくなるだろう。そうなった場合、行為は合意の上ということになるよね? なるよね! なるとも! はっはっはっは!」
どうやら、この煙には催淫効果があるらしかった。そうして、ナミアを無理矢理に自分のものにしようというつもりなのだ。
無茶苦茶な男だと思ってはいたが、ここまでどうしようもないとは思わず、ニアンナは顔を顰めてドアの向こうを睨む。
くちを塞ぎながらナミアのもとに走り、ニアンナは小声で彼に訴えた。
「逃げましょう、ナミアさん。このままじゃ……」
「な、なにがなんだか、わからないんだけど……どうして、こんなことに……」
「普通の人間の理解の範疇を超えていくのが、あの男です。この調子だと、きっと裏口もあいつの家臣に見張られてると思います。どこかに抜け道なんかは?」
「……それなら……」
ナミアの返答を聞き、ふたりは身を低くして、カウンターの内側に移動する。
外では、依然としてヤンダークが強めの幻覚を見ながら言葉を紡いでいた。
「ああ、頬を赤らめて涙をにじませながら俺を呼ぶ君の姿が目に浮かぶ! 大丈夫、乱暴にはしないとも! 恥じらう君に、俺という存在をじっくりと、時間をかけてたっぷりと刻み込んで……うっふふ……ふっははは……」
「王子、鎮まりください」
「わかってる、わかってる!」
あんな男に狙われているのかと思うと、ナミアが不憫でならなかった。
カウンターの内側に移動したナミアは、床の一部に指を差し入れ、それを持ち上げる。
すると、正方形の形に床が扉のごとくひらき、なんと地下に続く階段が現れた。
扉はカムフラージュされており、一見ではそれとまったくわからない。
「ナミアさん、これ……」
驚いているニアンナに、ナミアは説明した。
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