13 / 33
13
しおりを挟む「父さんが、こういうの好きだったんだ。地下の部屋に繋がってる。部屋に繋がるもの以外にも一応道はあるんだけど……僕にはその道がどこに繋がってるのかまでは、わからない」
「道はあるけど、それを行けば迷う可能性が高い……って、ことですか?」
「そういうこと。今は、おとなしく地下の部屋に避難するのが無難だと思う」
彼の言葉に首肯して、ニアンナはナミアと共に地下へと延びる階段をくだった。
外では、依然としてヤンダークがよくわからないことをわめいている。
「お前達、朝まで俺の部屋に近付くんじゃないぞ! あと、朝食にはあっさりとしたものを用意しておけ! そうだな、フルーツなんかが良い! なんか良い雰囲気になりそうな良い感じのフルーツを用意しておけ!」
「王子、説明がガバガバすぎます」
「察しろ! 俺と心を通じ合わせるんだ!」
常にあんな妄言に付き合わされているのかと思うと、彼の家臣もなかなかに大変である。
そんなことを考えながら、地下への扉をきっちりと閉めて、ふたりは下へと進んだ。
粗削りな階段をおりた先にあったのは、洞窟の通路だった。
先に続く真っ暗な道を唖然として見て、ニアンナは訊く。
「まさかとは思いますけど……これ、ナミアさんのお父さんが掘ったんですか……?」
彼は苦笑交じりに答えた。
「そのまさかなんだ。暗くて足許がわかりにくいから、気を付けて」
「はい」
洞窟内に明かりはなく、故に暗さに慣れていく己の目だけが頼りである。
少し歩くと、分かれ道に遭遇した。ニアンナは戸惑う。
「ナミアさん、道が……」
「大丈夫。こっちだよ」
不安を覚え始めたニアンナとは裏腹に、ナミアは迷うことなく道を進んでいく。
歩きながら、彼がそれを説明した。
「亡くなった父さんが残した地下だから、父さんがよく使ってた部屋は、定期的に掃除してるんだよ」
なるほど、とニアンナは内心で納得する。つまり、ナミアにとって、ここは通い慣れた道であるわけだ。
それにしても、こんな地下通路を掘り、その上、秘密の部屋まで作ってしまうあたり、彼の父はずいぶんとロマンチストだったらしい。少年の心を持ったまま大人になったということなのだろう。
「ここまで掘るのに、いったいどれだけ掛かったんでしょう……」
「うーん……友人達に手伝ってもらったっていう話は、聞いたことあるけど……」
そんなことを話していると、道の先が壁に遮られた。行き止まりだった。
これにはニアンナもさすがに困惑して、ナミアを見る。
「……ナミアさん、行き止まりですけど」
「そう見えるでしょう。だけどね……」
返した彼は、手探りで行き止まりの壁をさぐった。
なにをしているのかと思った直後、ナミアが指先にチカラを入れたのに合わせて、なんと壁が横に動き始める。
行き止まりの壁ではなく、カムフラージュされた扉らしかった。
まるで壁が引き戸のごとく、ゆっくりとひらいていく。そんな様子を、ニアンナはぽかんとして眺めた。
2
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる