【R18】婚約破棄されたらおっとり系アラフォーを攻めることになりまして

チーズたると

文字の大きさ
14 / 33

14

しおりを挟む


「無駄に凝ってるでしょ? さぁ、王子達が地下の存在に気付く前に、部屋に避難しよう」

「地下に気付く……でしょうか」

「僕達が店の中にいないことがわかれば、隠し通路の存在も疑うかもしれない。そうなったら、床の扉に感付かないとも限らないから……」

 ナミアの言う通りである。
 ふたりは素早く隠し部屋に入り、引き戸を慎重に閉めた。

 通路と同様、当然部屋にも明かりはなかった。が、ナミアが壁に手を這わせた直後、光がニアンナの網膜を焼く。

 目が眩み、すぐには状況を把握することが出来なかったが、目が慣れてくると、隠し部屋が照明器具に照らされているのがわかった。

 照明の明かりは室内全体を照らすものではなかったが、それでも物を視認するには充分すぎる。

 ニアンナは、部屋を見まわした。

 隠し部屋は、土や石が剥き出しになっていた通路に反して、驚くほど部屋の体裁を保っている。

 小さな部屋ではある。けれども、なんと机や本棚のみならず、ベッドまであった。食料さえあれば、完全にここでしばらくは暮らせてしまうだろう。

「……すごい……本当に秘密基地みたい……」

 ニアンナの心は躍った。過去に読んだ冒険小説を思い出したりもした。

 城暮らしであれば、ほぼ無縁と言っても過言ではない「秘密基地」。それにニアンナが憧れてしまうのは、きっと無理もないことだろう。いや、自分とは縁がないとわかっているからこそ、憧れてしまったのかもしれない。

 手に汗握るドラゴン退治の小説。海を進む海賊の物語。異国の神々が織りなす数多の伝説。

 そういったものが、ニアンナは幼い頃から好きだった。軽々しく城を出ることさえ出来ない己の立場を理解していたからこそ、心だけは、自由な冒険に憧れた。

 故に、自身の目で秘密基地めいた部屋を視認できた喜びは、ニアンナにとって大きい。

 だが、視界の端で、ニアンナはナミアが少し苦しげにしていることに感付いた。彼は僅かに顔を伏せて、縋るように胸のあたりの衣服を片手でぎゅっと握っている。

「……ナミアさん?」
「ああ……ごめん……。なんだか、息が苦しくて……」

 そう訴えるナミアの呼吸は、たしかに荒い。そればかりでなく、目許は赤らみ、瞳も潤んでいた。
 あの煙の催淫効果にやられたのだと、すぐにニアンナは気付く。

「ベッドで休んだほうが……」

 ニアンナの言葉にナミアは一瞬悩んだ様子を見せたが、すぐに弱々しく微笑んで、首を縦に振った。

「うん……じゃあ、そうさせてもらおうかな」

 彼は億劫そうにベッドまで歩を進めると、倒れ込むふうにベッドに横たわり、悩ましげに眉根を寄せて、まぶたを閉じる。

 天井のほうから、複数の人間が動く気配がした。店に入り込んだヤンダーク達が、ナミアを探しているのだろう。

 このままでは、本当に地下通路の存在に気付かれてしまうかもしれない。こんな状態のナミアを、ヤンダークの目に触れさせるわけにはいかないというのに。

 ニアンナは改めて、彼を見やった。

 肌を染めて呼吸を乱しているナミアの姿は、妙に艶めかしい。
 じつを言うと、ニアンナもあの催淫効果があるという煙を、多少吸い込んでしまっていた。

 そのせいか、ナミアの官能的な姿に、落ち着きをなくしていっている自分を自覚する。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

処理中です...