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しおりを挟む「無駄に凝ってるでしょ? さぁ、王子達が地下の存在に気付く前に、部屋に避難しよう」
「地下に気付く……でしょうか」
「僕達が店の中にいないことがわかれば、隠し通路の存在も疑うかもしれない。そうなったら、床の扉に感付かないとも限らないから……」
ナミアの言う通りである。
ふたりは素早く隠し部屋に入り、引き戸を慎重に閉めた。
通路と同様、当然部屋にも明かりはなかった。が、ナミアが壁に手を這わせた直後、光がニアンナの網膜を焼く。
目が眩み、すぐには状況を把握することが出来なかったが、目が慣れてくると、隠し部屋が照明器具に照らされているのがわかった。
照明の明かりは室内全体を照らすものではなかったが、それでも物を視認するには充分すぎる。
ニアンナは、部屋を見まわした。
隠し部屋は、土や石が剥き出しになっていた通路に反して、驚くほど部屋の体裁を保っている。
小さな部屋ではある。けれども、なんと机や本棚のみならず、ベッドまであった。食料さえあれば、完全にここでしばらくは暮らせてしまうだろう。
「……すごい……本当に秘密基地みたい……」
ニアンナの心は躍った。過去に読んだ冒険小説を思い出したりもした。
城暮らしであれば、ほぼ無縁と言っても過言ではない「秘密基地」。それにニアンナが憧れてしまうのは、きっと無理もないことだろう。いや、自分とは縁がないとわかっているからこそ、憧れてしまったのかもしれない。
手に汗握るドラゴン退治の小説。海を進む海賊の物語。異国の神々が織りなす数多の伝説。
そういったものが、ニアンナは幼い頃から好きだった。軽々しく城を出ることさえ出来ない己の立場を理解していたからこそ、心だけは、自由な冒険に憧れた。
故に、自身の目で秘密基地めいた部屋を視認できた喜びは、ニアンナにとって大きい。
だが、視界の端で、ニアンナはナミアが少し苦しげにしていることに感付いた。彼は僅かに顔を伏せて、縋るように胸のあたりの衣服を片手でぎゅっと握っている。
「……ナミアさん?」
「ああ……ごめん……。なんだか、息が苦しくて……」
そう訴えるナミアの呼吸は、たしかに荒い。そればかりでなく、目許は赤らみ、瞳も潤んでいた。
あの煙の催淫効果にやられたのだと、すぐにニアンナは気付く。
「ベッドで休んだほうが……」
ニアンナの言葉にナミアは一瞬悩んだ様子を見せたが、すぐに弱々しく微笑んで、首を縦に振った。
「うん……じゃあ、そうさせてもらおうかな」
彼は億劫そうにベッドまで歩を進めると、倒れ込むふうにベッドに横たわり、悩ましげに眉根を寄せて、まぶたを閉じる。
天井のほうから、複数の人間が動く気配がした。店に入り込んだヤンダーク達が、ナミアを探しているのだろう。
このままでは、本当に地下通路の存在に気付かれてしまうかもしれない。こんな状態のナミアを、ヤンダークの目に触れさせるわけにはいかないというのに。
ニアンナは改めて、彼を見やった。
肌を染めて呼吸を乱しているナミアの姿は、妙に艶めかしい。
じつを言うと、ニアンナもあの催淫効果があるという煙を、多少吸い込んでしまっていた。
そのせいか、ナミアの官能的な姿に、落ち着きをなくしていっている自分を自覚する。
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