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しおりを挟む彼の返答に、ニアンナは小さくため息を零す。
「ナミアさん、ちょっと良いひとすぎますよ」
「はい。私も少し心配になってきました」
「そ、そんなことは……」
ナミアはあわてたふうに、両手をぱたぱたと振った。
ところで――と、ニアンナは浮上した疑問をくちにする。
「私って、どうなるんだろう。婚約は結局なかったことになっちゃったから、国に戻るのかな」
ガレディが顎に指を添えて、思索の面持ちをした。
「どうでしょう……。姫の婚約は、国と国の関係性も絡んでいますので、あなたがこの国にいること自体にも価値があります。それに、この国で暮らし続けたいあなたを、国王は無理に帰そうとはしないのではないでしょうか」
「うーん……」
うなったニアンナを、ナミアが少しばかり寂しそうな眼差しで見つめて、尋ねる。
「……帰りたい……のですか?」
問われた瞬間、どうしてか、ニアンナは初めて彼と会ったときのことを思い出した。
見ず知らずのニアンナを心配して食事を用意してくれた、あの優しさ。彼の存在に、どれだけ救われた想いがしたことだろう。
ニアンナはナミアに微笑を向ける。
「……それが、帰りたいってわけじゃないんですよね。あ、自分の国が嫌って意味ではなくて」
なんていうか――と、ニアンナは言いさした。
改めて、ナミアとガレディへ交互に視線を送る。
「ガレディやナミアさんとも仲良くなれたし、もう少し……この国のことを知ってみたいっていうか……」
ニアンナは、自分の心の奥底に、とある決意が湧いてくるのを自覚した。
その決意に拳を固く握って、次の言葉をくちにする。
「――私でこの国の役に立てることがあるなら、やってみたいなぁって」
言った直後、羞恥心が押し寄せ、ニアンナは言い訳をするようにガレディに重ねた。
「いや、私に出来ることなんか限られてるのは、わかってるんだけど」
この国にやってきたばかりの身で大層なことを主張してしまったのが、なんだか恥ずかしかった。
しかし、ガレディはそんなニアンナを揶揄することもなく、穏やかに微笑む。
「そんなことはありません。少なくとも、そんなふうに考えてくださる方がひとりでも多く城にいてくださるのであれば、それはこの国にとっての財産となりましょう」
「お、大袈裟だよ……」
大袈裟なんかじゃないです、と返したのはナミアだった。
「お城の方がそういった志を持っていてくださることは、僕達国民にとっても嬉しいことです」
彼は瞳を細めて、愛嬌のある笑みを浮かべる。場違いとわかっていながら、そんな相手を「可愛い」とニアンナは感じてしまった。邪な心を持った姫ですまないと思う。
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