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しおりを挟むヤンダークは涙をうかべながら、王に懇願する。
「父上、お許しください父上! どうしても美肌な細マッチョになりたかったんです!」
「そんなことに国民の税金を使うとは……。愚かな息子に国を継がせるほど、耄碌しとらんぞワシは! 次期国王の座は永遠にその手に戻らぬと思え!」
「そ、そんなぁ……!」
連行されるヤンダークには、国民達の不満もぶつけられた。それは、これまでの彼の立場が一瞬にして崩壊した瞬間でもあった。
場が騒然とする中、ニアンナはこっそりとガレディに目線を送る。と、ニアンナの視線に感付いた彼が、薄く笑みをうかべた。
このとき、ニアンナは密かに胸に誓う。
――ガレディを怒らせるのは、極力ひかえよう、と。
きっと彼は、怒らせてはいけないタイプの人間なのだから……。
◇
後日、ニアンナとガレディとナミアは、開店前のナミアの店にそろっていた。開店前ということもあって、店内には三人以外にひとの姿はない。
カウンター席でガレディと並んで座りながら、ニアンナはしみじみと言った。
「ガレディのおかげで助かったよ。色々とありがとう」
「いえ。死蔵がお役に立ったようで、なによりです」
ナミアはいくらか、申し訳なさそうな面差しで呟く。
「でも、よかったんでしょうか。ヤンダークさんは……その……」
眉尻をさげるナミアに、ガレディがすっぱりと反論した。
「ナミアさん、あんな男を気にする必要はありません。あれは自業自得そのもの。国王と国民の期待を裏切った、当然の処遇です」
「結局、勝手に私との婚約を破棄したことまでバレちゃったもんね。まぁ、これは国と国の関係性もあって結ばれたものだったから、王様が怒るのも無理はないけど」
頷きながら、ガレディはナミアにさらなる説明をする。
「そして、その婚約も今回の件で白紙に戻りました。次期国王の座も、ヤンダークの弟が継ぐことになりそうです」
「な、なんだか、踏んだり蹴ったりですね……」
ナミアがいくらかヤンダークに同情する素振りを見せた。自身も被害者のひとりであるというのに、本当に心配になるほど人柄が良い。
そこで、ガレディがなにかを思い出したふうに「ああ」と独りごちた。
「……そういえば、国王がナミアさんにお詫びをしたいとおっしゃっていました。うちの馬鹿息子が迷惑をかけた、と。なにか望むものがあれば、こちらで用意いたしますが、いかがでしょう」
問われたナミアは微笑んで、首を左右に振った。
「いえ、お気になさらないでください。おふたりのおかげで無事に済みましたし……」
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