【R18】婚約破棄されたらおっとり系アラフォーを攻めることになりまして

最終話

　けれど、相手の言葉に照れくさくなってしまったのは本当だった。
　ニアンナは照れ隠しに頭を掻く。

「……そ、そうかな」
「はい」

　ナミアは笑顔で返事をした。やはり可愛かった。
　すると、ガレディが店の掛け時計に目線を移す。

「おや、もうこんな時間ですか。姫、そろそろ城に戻る時間です」
「はーい」

　返事をして、ニアンナはナミアが出してくれていた紅茶を飲み干した。

「おいしかったです、ナミアさん。今日もありがとうございます」
「いえ。またいつでもいらしてください」

　ガレディが、いくらか惜しむふうな声調でナミアに述べる。

「お店をかまえていなければ、城のシェフとしてあなたを招くところなのですが……」
「あはは。すみませんが、それは諦めてください。父のお店を、他でもない僕が無くすわけにはいきませんので」

「残念です……。では、また個人的に立ち寄らせていただきますので」
「はい、喜んで」

　ナミアと言葉を交わしたガレディが、先に店を出る。
　そのあとを追ったニアンナは、ナミアとすれ違う瞬間、するりと相手のお尻を優しく撫でた。

「ひぁっ」

　声を出した彼が、驚いた面持ちでニアンナを見る。
　そんな相手にニアンナが意味深に微笑すれば、彼は顔を真っ赤に染めた。

　あの夜の出来事は、ヤンダークが用意した催淫効果のある煙によって作られたものではある。

　しかし、ニアンナは願ってしまうのだ。再び、ナミアとあの濃密な時間を共有したいと。

　涙を零して快楽に翻弄されている彼の声が、また聞きたいと。

　ふたりの関係上、それが容易ではないことはわかっていた。だが、僅かな可能性を信じる自由くらいは、許してほしいと思う。

　誰だって、恋しい相手の可愛らしい面差しは、何度だって見たいものなのだから。