12 / 22
12
しおりを挟む*
そして、夜。
梨花は自室のベッドの上にいた。
今朝にあんなやり取りがあったというのに、その後のレオンの態度はいたって普通であった。昼食も夕食も梨花に用意し――しかも美味――さらには風呂の準備までしてくれたのである。
これでクチも性格もよければ文句なしなのだが、生憎とクチも性格も悪いために評価としてはプラスマイナスゼロだ。
いや、今夜の出来事次第では、マイナスに振り切る可能性だってある。
いったい、どんなふうに――抱かれるのだろう。
梨花が嫌がっても痛がっても、あの意地の悪い笑みをうかべながら酷くするのだろうか。もっとも、そんなことになれば流石に祖父に言いつけるけれども。
だが、相手はヴァンパイアだ。これが人間ならば、乱暴にされたなら警察へ駆け込むことも可能だが、ヴァンパイアが相手となればそうもいかない。
考えれば考えるほど鬱になって、梨花は深いため息をついた。
「……いっそのこと事故ってことで、窓から飛び降りようかな……。ここ三階だし……事故なら、おじいちゃんも許してくれるはず――」
「そこまで私とするのが嫌なのか?」
不意に、背後から声がした。
振り返ると、いつからそこにいたのか、レオンが足と腕を組んでベッドに座っている。
梨花は声をあげた。
「わああああ!」
「うるさい。近所迷惑になるだろう」
近所の迷惑を考える前に、梨花の迷惑を考えてほしいものである。
「ノックくらいしてください!」
「したとも。しても反応がなかったから、こうして入ってきたんだろう」
「だったら、私が気付くまでノックしてください! 百回でも二百回でもドアを叩き続けてください!」
「私はキツツキじゃないんだ。狂ったように扉を叩く趣味などない」
「なら、呼び掛けてください! 私が気付くまで!」
「なんと呼べばいいんだ。『私だぞ。さぁ、早くドアを開けろ!』とでも言えばいいのかね? 呼び掛けて、君が本当にドアを開けるか?」
「それはなんとも言えませんが」
「そうだろう。だったら、勝手に入るしかあるまい」
彼は偉そうに梨花を見下ろす。無駄に身長も高く、無駄に体格もいいので、こうすると無駄に威圧感があった。
反論できずに黙った梨花を、レオンが一笑する。
「……で、心の準備は済んだかね?」
相手の張り倒したい気持ちを抑えながら、梨花は頷いた。
「はい、もうこの世に思い残すことはなにもありません」
「なぜ死刑宣告を受けた罪人のような顔をするんだ」
「心境的には似たようなものなので」
「私も長く生きている自覚はあるが、君ほど失礼な女性に出会ったのは生まれて初めてだぞ」
「私もレオンさんほど失礼な男性に出会ったのは、初めてです」
「それは光栄だ」
「無駄に顔がいいから、これまで許されてきたのだとしか思えません」
「ほう、顔がいいと君から認識されていたとは。ついでだから返すが、君も容姿はなかなか悪くはないぞ」
「へっ、どうも」
「まぁ、その性格ですべて台無しだがな」
「それはお互い様かと」
「そうか。では我々は似た者同士ということだな。不本意にも」
「はい、不本意にも」
はっはっは――と、ふたりは感情の籠っていない薄っぺらな笑いを交わした。
目を眇めたレオンが、意地悪な感情を瞳に宿す。
「……しかし、本当に君ほど失礼な女性は初めてだ。どんなふうに啼いてくれるのか、今から楽しみだよ」
言って、彼は指を鳴らした。
パチンという音と同時に部屋の明かりが落ち、ベッドサイドの照明が小さな光を灯す。
急に訪れた妖しい雰囲気に、梨花は反射的に強張った。
「緊張することはない。すべてを私に委ねていれば、それでいい」
告げたレオンが、シーツに梨花を押し倒す。抵抗する間もなかった。
2
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
幼馴染の勇者に「魔王を倒して帰ってきたら何でもしてあげる」と言った結果
景華
恋愛
平和な村で毎日を過ごす村娘ステラ。
ある日ステラの長年の想い人である幼馴染であるリードが勇者として選ばれ、聖女、女剣士、女魔術師と共に魔王討伐に向かうことになる。
「俺……ステラと離れたくない」
そんなリードに、ステラは思わずこう告げる。
「そうだ‼ リードが帰ってきたら、私がリードのお願い、一つだけなんでも叶えてあげる‼」
そんなとっさにステラから飛び出た約束を胸に、リードは村を旅立つ。
それから半年、毎日リードの無事を祈り続けるステラのもとに、リードの史上最速での魔王城攻略の知らせが届く。
勇者一行はこれからたくさんの祝勝パーティに参加した後、故郷に凱旋するというが、それと同時に、パーティメンバーである聖女と女剣士、そして女魔術師の話も耳にすることになる。
戦いの昂りを鎮める役割も担うという三人は、戦いの後全員が重婚の認められた勇者の嫁になるということを知ったステラは思いを諦めようとするが、突然現れたリードは彼女に『ステラの身体《約束のお願い》』を迫って来て──?
誰がどう見ても両片思いな二人がお願いをきっかけに結ばれるまで──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる